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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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器の偏りⅤ

 陽が西の空に沈もうとする頃になると、ケイベルに渡された本も読み終わり、他の本たちにも何冊か手を伸ばし終わっていた。それでも膨大な蔵書の一パーセントにも満たない量。流石に一日中、本を読み続けたせいか四人は疲労困憊していた。


「これ、もしかして本当に禁書庫にしかないんじゃないのか?」

「やめとけ、扉に手をかけた瞬間に手首から先がなくなるぞ」

「違いない」


 マリーとユーキは無表情で言葉を交わす。本棚の陰に犬の気配を感じれば、冗談抜きに命の危険があるからだ。気になって見てみるとベロがじっと顔を出して覗いていた。


「あの番犬がいなけりゃ、どうにでもなるんだけどな」

「いや、そこまでにしておこう。俺はまだ命が惜しい」


 ユーキが立ち上がって本を戻し始めると、他の三人も何も言わず片付け始める。傍から見ればグールかゾンビが動いているようにも見えかねない。流石のベロも心配になったのか、右往左往して各々の顔を見上げながら鼻から抜けるような声を出してきた。


「大丈夫。疲れてるだけだから」


 アイリスが屈んでベロの首を撫でると安心したのか、その場でお座りをして片付けが終わるのを見守り始める。高い場所の本を片付け終わって脚立を運び始めると、ユーキはまだ片付け終わってなかった本が目に入った。

 内容が吸血鬼とかけ離れていたので流し読みをして、すぐに他の本を手に取ってしまったのだが、内容としては面白いと感じた。それに改めて考えると司書であるケイベルが意味もなく、この本を渡すか疑問に思ったからでもある。


「ユーキさん。その本も片付けてこようか。多分、この本と一緒の所あたりだから」

「いや、いいよ。ちょっと宿に帰って読むつもりだから」


 そう言って、ユーキは脚立を隅へと片付けた。その際に、もう一匹のトロが遠くからじっと見つめていることに気付く。その視線を追いかけると、ユーキたちというよりは机の上にある本たちを見守っているという感じだった。図書館内を熟知しているサクラとアイリスが遠くの本棚へと本を返しに行くと、トロもそれを追って視界から消えた。


「ほんと、よく躾けられた番犬だな」

「わふっ」


 意外と地獄耳なのかベロが誇らしげに吠える。残った一冊の本を手に取ると、ユーキは空いた手でベロの頭を撫でた。そのままマリーと共に階下に行くとケイベルが本の修繕を行っているところが見えたので、貸し出しの許可を貰いにカウンターへと向かう。


「どうだい。何か収穫は?」

「いえ、まだ見つからないので、とりあえず紹介していただいた本を持って帰ろうかと」

「そうか。まぁ、何だ。くれぐれも()()()()()()


 意味深に言葉を強調するのでユーキの体に自然と緊張が走る。


「はい。本は傷つけないように慎重に持って帰ります」

「そうかね。それならば、よろしい」


 本の貸し出しの受付を終えるとユーキはマリーと一緒に、サクラとアイリスが戻ってくるまで扉の前で待つことにした。マリーは疲れたのか癒しを求めてベロの体を撫で繰り回し始める。もはやベロのテンションは鰻登りで尻尾が吹き飛びそうだ。


「ごめん。遅くなっちゃった」

「お腹空いた」


 しばらく待っているとサクラとアイリスが同じタイミングで戻ってきた。アイリスに関しては疲労の心配はいらないようにも見えるが、遅くに昼ご飯を食べたにしては、お腹がへるのが早いのはユーキも感じていた。


「どうする? また、食堂に行く? それとも外に出る?」

「じゃあ、またうちにしようぜ。今日は姉さんも来てるし、フェイもいるはずだから楽しくなりそうだ」

「ついでにクレアさんにも、フランさんのこと聞いてみようよ」

「あー、姉さんに借りを作りたくはないけど仕方ないかー」


 頭の後ろで手を組んでマリーが天井を見上げる。恐らく頭の中で姉に言われるであろう要求を予想しているのだろう。前回にあった時は甘味で済んだが、吸血鬼なんていう話を出されたら対価がつり上がりかねない。ユーキも考えた末に、大切なことに気付いた。


「そもそもさ。フランが吸血鬼って、クレアは知ってるの?」

「……確かに」

「あと、そもそもどこまでの人が知っていて、話していいんだ?」

「「「…………………………」」」


 嫌な沈黙が図書棟を出た回廊を満たす。時折、通り過ぎる生暖かい風が気まずさに拍車をかける。


「と、とりあえず、父さんに聞いてみようぜ。手遅れだったら、洒落にならないし、ほんとに」


 マリーの頬を汗が流れ落ちる。その顔は、本気で怒られることを迫られて覚悟を決めた者にしか出せない気迫があった。そのまま、伯爵家へと足を進め始めるユーキたちであったが、マリーの足は次第に速くなり、やがて身体強化で家に向かって走り出していた。

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