怪僧Ⅰ
僧正と勇輝は話を聞いた後、即座に日ノ本国の首都である海京に向かった。話を知ったのが午後であったこともあり、最速で到着できるのは翌朝だろうと勇輝たちは考えていた。
「夜に飛べないことはないが、方向を間違えると知らない場所に辿り着きかねないからな。余計な遠回りをしない為にも、計画的に、だ」
人間の姿に化けた僧正は勇輝へと告げる。
少なくとも、今日、明日でどうにかなるものではない。それ故に、確実な治療法を手に入れてくるのが肝要なのだ、と。
「しかし、だ。普段から賑わっている海京だが、いつにもまして人手が多いな。何か催し物か?」
収穫が終わった後の祭りにしては遅すぎる。それにも拘わらず、道いっぱいに行き交う人々の多さに僧正は疑問を口にした。すると、ちょうど真後ろを歩いていた紺色の着流しを来た町人が話しかけて来る。
「何だい旦那。海京には来たばかりか? 何でも久しぶりに異国の使者が来訪するって話だ。しかも、聞いた所によるとあの『ふぁんめる』のお姫様だとか。そろそろ洞津に着くとかって話で、近隣の裕福な奴らが一目見ようと集まって来てるのさ」
「ファンメル王国のお姫様が!?」
勇輝は思わず大声を上げる。
ファンメル王国の王族の内、勇輝は二人ほど顔を見たことがある。一人は国王であるファンメル三世。もう一人は、その娘で第一王女のアメリアだ。
ただ、かつて聞いた話ではファンメル三世には二人の息子と三人の娘がいるということだ。つまり、この国に来るお姫様というのは第二、第三王女の可能性もあるので、知っていない人の可能性が高い。加えて、知っている第一王女であったとしても、あちらからすれば、無数にいた兵の中に紛れ込んだ学生の一人。正直言って、覚えられている可能性は皆無と言っていい。
「何だ、兄ちゃんもここに来たばっかか? まぁ、色々と人がいて大変だと思うけど、楽しんで行ってくれ。もし暇があるなら、ぎるどの前にある団子屋に行ってみると良いぞ。前から評判だったんだが、看板娘が一人増えて、さらに人気が出てるんだ。じゃあ、俺っちはここでおさらばだ」
四辻の道に差し掛かると、まるで友人とでも別れるように男は去って行ってしまう。
吹き抜ける風のようにパッと現れ、さっと去っていく様子に勇輝は呆気にとられてしまった。
「人が多い所には自然と新しい物、ことが集まるが、ああやって新しい情報を掴み、それを惜しみなく広めようとする者もいるということだ。言い換えれば、ただの知識を披露したがる酔っ払いと変わりはないが、ああいうのは聞いていても不愉快ではないな」
「そういうものですか?」
「そういうものだ。人に寄るがな」
そう言って、僧正は少し笑みを浮かべながら人の流れに身を任せて進んでいく。
十分ほど進むと途端に人が少なくなり始め、目的の場所が見えて来た。
「何か物々しい雰囲気だなぁ」
目の前に広がるのは日ノ本国の国家元首とその部下たちが務める城であった。
城門は数名の警護が常にいるが、その人数は普段の倍以上になっている。勇輝はすぐにそれが、ファンメル王国から来る使者の為だと理解した。
「これ、入れさせてもらえると思います?」
「お主の曾祖母ならば大丈夫だろう」
巫女長と呼ばれる結界を作ることに長けた術士の少女を育成する機関の長。それは、かつて死んだはずの勇輝の曾祖母であった。そして、彼女がもつ能力の一つが未来視で、その力で日ノ本国の危機を何度か救ったことがあるのだとか。
勇輝は不安げな顔をしながら城門へと近づいていくと、警備をしていた武士たちに緊張が走るのが分かった。武士たちの半数は平服で、残りは甲冑を着こんでいる。その中で、平服の男がゆっくりと進み出た。
「そこで止まられよ。見たところ、この城に勤める者ではないな。一体、いかなる理由があって近付いた?」
勇輝は少しばかり僧正へと目配せした後、事前に決めておいた言葉を告げる。
「私の名は内守勇輝。巫女長の曾孫にあたる者。此度は、かつてこの城にて水皇様、水姫様たちに忠義を尽くして働いていた陰陽師、言之葉広之殿の治療に必要な道具を頂戴しに参上した次第。警護の任の中、申し訳ありませんが、至急、お取次ぎをお願いしたい」
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