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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第22巻 からくれなゐに染まる腕

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夢現Ⅱ

 寒空の下、山中にある寺の境内では陽が昇ると同時に二つの音が響いていた。

 一つは足音。石畳の上を移動し、時に踏み込み、時に滑る音が響く。もう一つは打撃音。拳と体が掠め、受け止め、当たる音が木霊する。


「ぐっ……」


 掌底が胸に入り、その勢いのまま数メートル吹き飛ばされた。

 黒い髪と顔中から汗を滴らせ、呼吸を荒くしているのは内守勇輝。魔法が存在する異世界へといつの間にか辿り着き、自身も不思議な力を手に入れてしまった青年だ。

 そんな勇輝を構えたまま油断なく見下ろすのは、首から上が烏の頭をした烏天狗。僧正と名乗っており、寺の一応の管理者になる。現在いる雛森村の外れに住んでいる勇輝と同じく異世界に迷い込んだ者だった。


「やはり、己の素の力に頼っているところが大きいな。動きに()が無い」


 淡々と呟く僧正は、勇輝が立ち上がるのを待っていた。

 村長の紹介で居候することになった勇輝に何かを感じ取ったようで、このように時間があれば稽古をして鍛えている。

 刀、槍はもちろん、無手による組討ちや格闘といった体術、果ては鎌などの農具ですら武器として扱い戦うことができる。そんな僧正が勇輝に教えていたのは、体術であった。打撃技は言うに及ばず投げ技や関節技のような柔術要素もありの実戦形式だった。


「理、ですか?」


 胸を擦りながら勇輝が立ち上がると、僧正は小さく頷いた。


「お主のは躱すことだけ、攻撃することだけ、防ぐことだけ、逸らすことだけ。一つの動作に一つの意味しか籠っていない」


 僧正は立てかけてあった棒を持つと、勇輝に腰の打刀を抜くよう指示した。

 僧正が持つ棒と異なり、勇輝のそれは真剣。当たれば怪我では済まない代物だが、僧正は木刀でも見るかのように平然としており、真向から斬り下ろすように自身の頭を示した。


「――――ほれ、これで回避と攻撃が同時だ」


 僧正に言われた通りに刀を振りかぶって下ろすと、そこに僧正はいなかった。振り下ろした刀のすぐ左側に半身になっており、その手に持った棒は勇輝のこめかみへと触れていた。


「ただ避けるのではなく、攻撃の準備動作にする。或いは攻撃そのものを放つ。お主だって、大きく振りかぶった攻撃が来れば、それを掻い潜って胴に一撃喰らわせようとするだろう?」

「た、確かに……」


 勇輝は僧正の問いかけに頷く。しかし、頭でわかってはいても体が動かない。いや、全体的にそうしなければいけないことはわかっているのだが、どのような場合にどのような動きをするのが正解かを知らないから動けない。


「昔、祖父に剣術を習ったと言ったな? 恐らく、その昔と今とで間が空いてしまって、対処法がすぐに出てこないのだろう。だが、安心するといい。それを考えずに体が動けるようにするのが鍛錬の一つだ。お主の流派とは違うところもあるかもしれんが、我の知るものであれば教えよう」

「お願いします」


 体内に気や魔力といったものを循環させ、身体能力を強化しているとはいっても、僧正自身も同じ技を使って勇輝に攻撃をしている。多少は悶絶していてもおかしくないのだが、すぐに言葉を紡ぎ、動くことのできる勇輝に教えがいがあると僧正は意気込んだ。


「――――とはいえ、勇輝の話では基礎の基礎しか習っておらず、扱える技もそう多くはない、か。技の名前も心刀から聞いて思い出したというくらいだが、何か違和感を感じるな」


 勇輝の持つ心刀と呼ばれた刀を僧正は睨む。

 持ち主に夢や幻を見せて、戦闘技術を上げさせようとする意志を持った刀。ある人は己の心の分身が宿った刀だと言い、ある人は付喪神のような何かが宿った妖刀であると言う。

 また、その心刀に認められたものは火や風といったものを作り出し、攻撃に転用するといった能力にも目覚めることがある。

 そんな中、勇輝の心刀はどうやら勇輝がかつて学んでいた剣術を思い出させようとしている節があった。

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