表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第1巻 極彩色の世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/2417

非才は時に才と成るⅣ

 気付けば、陽は高く上り、正午になる直前だった。


 腕を半分泉に突っ込み、ユーキは倒れていた。どうして自分が倒れているのか、意識が覚醒しきっていない頭で数秒間、その姿勢で考えた後、飛び起きた。

 


 (魔力が枯渇する感覚だったけど、魔法は行使していない。でも、殴って気絶させたのなら外傷があるはず。もしかして、魔眼で何かを見ようとして、それで大量に魔力を消費した?)


 剣を握るため、右手を腰に持っていきかけて、開いた手から何かが零れ落ちる。草の合間に転がったのは、青い透き通った石だった。掌に収まるかどうか程度の石は太陽の光を受けて煌き、手の平へ青い光を投げかけている。


 もはや日常になっている魔眼による検査を石にも行うことにした。魔眼を開くと今まで見た薬草とは段違いの勢いで白と青の光が放出される。暗闇でいきなりスポットライトで照らし出されたかのように、網膜が焼け付き、眼を瞑っていても光が貫通してくるようだった。思わず、ユーキは魔眼を閉じて石を握りこむ。


(クレアが言ったのはあくまで、薬草であって石の話なんてなかった。まさかとは思うけど、これがリシアさんの言っていた魔石とかか? でも、俺みたいな冒険者が持っているなんて、偶然だとはいえ、誰かにバレたら変に目を付けられそうだ。何より――)



 そう考えて、周りを見渡す。先ほどまでの泉とほとんど変わらない。風が頬を撫で、鳥が木々の間を飛び交っている。至って平和な光景だ。



(どんな理由にせよ。俺が気を失う何かがあった。はっきりするまで表に出すべきものじゃない、か?)



 薬草用の革袋にではなく。胸にあったポケットに突っ込む。


 万が一、この気絶が何者かによる攻撃だったとしても、体調不良や魔力の枯渇にしても、ユーキは一刻も街に戻るべきだと感じた。原因不明の現象は、この世界において命を落としかねない要因の一つに他ならないのだ、と。


 街の門のある方向に向かう為、周りを警戒しながら泉に背を向けた。


 一瞬、誰かに見られている気がして、すぐに振り返る。しかし、そこには誰もいない。魔眼を開いてみるが、草木と泉の放つ光以外、何もなかった。冷や汗を拭って、再び街に歩を進める。



(幽霊、じゃないよな?)



 不気味に感じて、ユーキは振り返ることなく足早に森を抜けてギルドへ向かう。門に辿り着いた時に、あまりにも挙動不審だったようで、衛兵から追加で質問をされてしまうほどであったのは、少しばかりビビりすぎかもしれない。


 それでもお咎めを受けることなく、街の中に入ることに成功する。ここでやっとユーキは落ち付き始め、コルンに会う頃にはいつも通りの精神状態には戻れていた。


 ギルドの受付に薬草を提出すると、よく世話になっているコルンが担当してくれる。しかし、レプロテル薬草を見たと同時に、口を手で抑えてしまっていた。


 相変わらず何か不明な耳を立たせた彼女は、十秒ほどかけて薬草を検査する。そして、間違いがないことが確認できたのだろう。コルンは耳を畳んで両手で頭を抱えこんでしまった。正直なところ、クールな印象のある彼女が、そのような姿でいることにユーキはもちろん、近くにいた他の冒険者や職員も目を丸くしていた。


 依頼書を新しく貰い、受け付けた後に流れ作業で、そのまま完了を報告する。数日前の数時間で稼いだ額が、そのまま目の前に置かれる。ある意味ではこんな簡単に金が稼げてしまうことには驚愕の一言。ただ、これが冒険者の「うま味」なのかもしれないとユーキは感じた。


 驚きが強すぎたせいもあってか、いつの間にか握り込んでいた石をコルンに相談するべきかが頭の中から消えてしまっていたのは、ユーキの大きな失敗と言えるかもしれない。



「そもそもメテル・エテル系こそ多いですが、プロテル系以上は、かなり珍しい部類。さらに上の薬草を探すとなると、それなりの土地でないと見つかりませんニャ。今回は、非常に運が良かったですニャー」



 通りがかった猫耳受付嬢が教えてくれた。薬草は今までの三種類に始まり、ブテル・ペンテル・へキテル・ヘプテル・オクテル・ノテル・デテルの十ランクに分類されるらしい。



「下位五種までは自然豊かな場所なら見つけることができますが、上位五種は高密度の魔力などの霊的加護を受けた地でないとなかなか見つかりませんニャ。もし見つけても、大っぴらにせずに売却や使用することがおすすめですニャ。何だったらギルドどころか、貴族も欲しがる可能性大、なのでー」



 化学式のように一度に言われてもわからない、と答えるわけにもいかず、また見つかれば持ってくる程度でユーキは話を切り上げておいた。


 ギルドを出ようとして、ギルド商店の入り口近くにあった大きな鏡に映る自分に気付く。どうにも、周りの人に比べると鎧があるからマシになっているが衣服がしょぼい。人の心理とは不思議なもので、気付いてしまったからには、何とかしないといけないと思ってしまう。



(ジョージさんの息子さんの服だけなのも、この先困りそうだしな……)



 そのままギルドを出て向かったのは、メインストリートにある服屋だ。その中から、速乾性を重視のインナーと下着を数点、普段着用も同様に購入する。


 何でできているかを店員に聞いた際に「それを聞いてしまうのですか」と言われてしまい、怖くて聞けなくなってしまったのはご愛嬌か。後で知った話ではあるが、蜘蛛の魔物や虫の魔物の糸を利用して作ることが多いらしい。



「うん? これは……?」



 そのまま、店員に支払いをしようと思った時に、視界に入った服があった。手に取ったそれは紺色のコート――にしては、インナーより厚いはずなのにそうとは思えないほど軽く感じる。何より造形が変わっていた。肩や腕の部分の布地は厚く、逆に肝心の胸から腹、背にかけては薄手なのだ。


 そして腰のあたりから再び厚くなり、若干外側に広がるようになっている。店員に言って、鎧を脱いで試着してみると、驚くほどに体にフィットした。


 まるで自分の体格に合わせたオーダーメイド品のようでもあった。いや、事実、自分の体に合わせて服が伸び縮みしていた。そして、あることに気付いたユーキは、そのまま革鎧を着てみることにする。


 革鎧が覆う部分のコートは薄くなっていて、それ以外の部分が厚手に作られている。つまり、鎧を上に着ることを前提に作られたコートだとわかった。腰下の広がりも足の動きを阻害しないほどの長さで、さらに外側に広がっているため、非常に動きやすい。


 おまけにコートの癖に暑く感じない。むしろ革鎧との間が蒸れず、涼しいくらいだ。思わず値段を確認してみるが、その値段は銀貨五十枚であった。正直な話、日本円換算五万の服を生活費を割いてまで買うかと言われると微妙だ。


 服を前にユーキが悩んでいると、店員が話しかけてくる。



「それなら、もう少しお安くしてもよいですよ。その製作者からはただで譲り受けていますので、目を付けていただいたお客様に服も買っていただきたいでしょう。ただ――」



 無料で譲り受けた服をぼったくり価格で売りつける店だ。何か条件でもあるのか、とユーキが身構えていると、店員は笑って羊皮紙を差し出した。



「――その服の着心地や性能などのご感想を教えていただきたいのですが、よろしいですか?」



 いわゆるサンプル・モニターというものなのだろう。聞いてみると、顔を隠した胡散臭い男が自分の作った服を店においてほしいと押しかけてきたそうだ。


 一応、魔術ギルドに属している前科なしの者だったことはすぐに確認できたことと、特に金も要らないということで引き受けたらしい。


 ところがいざ売りに出してみると、性能も耐寒・耐暑に優れているため、魔法使いにぴったりの装備か――と思いきや「布の厚みが気になる」や「夏にコートは流石におかしい」と批判があり、ここまで売れ残ってしまったのだとか。


 結局、タダより怖いものはない、という気持ちがユーキは勝った。生活維持費のためにコートを買わず、最低限の物だけ購入して宿に戻る。


 採取生活で生活する身なのだ、戦闘など無い平和ボケ国家とまで揶揄される日本で生まれ育ったユーキからしてみれば、面倒ごとに自分から首を突っ込む必要はない。


 そう考えて部屋に荷物を置き、汗をかいた服を着替える。ギルドのシャワールームやレストランが使えるのはDランクから、今は湯に濡らして絞ったタオルで我慢しなくてはいけない。



「早いところ、日本で過ごしていた生活水準に近づかないと心が折れそうだ。せめて生活魔法が使えればな……。魔法の発動体になる杖や指輪を買うのもいいか」



 火を灯す魔法は指先から発動させていたが、より効率的に魔法を扱うには、専用の道具があった方が良いと聞いた。

 ベッドに横になりながら、ため息を吐き出す。


 まだ、この世界に来て一週間と経っていないのに故郷が懐かしく思える。無性に母親の料理が食べたくなってきた。元の世界では一人暮らししていたため、時々、ホームシックになることはあった。だが、こちらに来てからは、その気持ちが日に日に強くなっている。特に今日は朝食に出た和食料理で完璧に心が揺さぶられてしまった。



 ――帰りたい。



 その想いを再認識すると同時に、頬を一筋の液体が伝った。

 


「今日は疲れたし、もう寝るか?」



 そう考えても陽はまだ高い。気絶していたせいもあって眠気もない。ゆっくりと胸の内に広がる懐郷の情を押し殺し、足の反動を使って体を起こす。



「あぁ、最悪な気分だ。さっさと寝て、この気分を消してやりたい」



 体を起こし、指を立てる。頭に思い浮かべるのはろうそくの火。



「『――火よ灯れ』」



 一度、魔力枯渇を起こしたかもしれない身だ。それならさっさと魔力をもう一度使い切って体を疲れさせて寝た方が早い。そう考えて、指先に火を灯す。心なしか、指先の火が以前より大きくなっている気がした。


 嫌な気分も火を生み出し続けることに没頭していると、気付かない内に消えていく。どれくらい続けていたかも忘れた頃、唐突な疲労感に襲われた。それでも気絶はできず、指から火が消えるだけだった。



「今日は――厄日だ」



 もう一度、ユーキはベッドへ横になった。窓の外の明かりを見ると、どうやら気付かない間に夜になっていたらしい。腕時計を見れば、短針は七の数を通り過ぎようとしていた。そのまま疲れに身を委ね、寝ようと目をつぶる。だが、次の瞬間、ユーキの腹の虫が大きな鳴き声を響かせた。



「……飯、食うか」



 どうやらユーキの場合、三大欲求でも食欲の方が睡眠よりも優先されるらしい。さっきまでの悩みは何だったのかと馬鹿らしくなり、部屋を出ていく。下の食堂から漂う匂いが、鼻孔をくすぐり、ユーキの足取りを軽くした。

【読者の皆様へのお願い】

・この作品が少しでも面白いと思った。

・続きが気になる!

・気に入った

 以上のような感想をもっていただけたら、

 後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。

 また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。

 今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ