茨の鎖Ⅲ
転移の後、すぐに階段を進んだ先にあったのは、ダンジョンの入り口と同じような大きな門だった。違ったのは、扉が固く閉ざされているところだ。
「うわ。重そう。魔法で吹き飛ばせってことかな」
「いや、それはないと思います」
「だってほらこれ、絶対重いぜ。やってみればわかるって、えぇ!?」
マリーが思いっきり押そう両手を扉につけると、一人でに扉が軋みながら奥へと開いていく。中には岩の塊が居座っていた。その姿にフラン以外は見覚えがあった。
「あれ、ゴーレムだよな」
「少し前に見たのと同じくらいな気がする。でも、ちょっと動かないでいるとかわいいかも」
その言葉に怒りをもったかどうかはわからないが、ゴーレムは立ち上がるとゆっくり足を進め始めた。部屋中に響くゴーレムの足音だが、マリーは不敵な笑みを浮かべて杖を抜く。
「こっちは、もっとヤバいゴーレムを見たことがあるんだ。今更、普通のゴーレムの一体や二体にびびるわけねーだろ」
「あ、あの。私は初めてなんですが」
「そもそも足止めしかしてなかったような気がするんだけどなぁ」
「細かいこと抜き! あたしとフランが火魔法。サクラとアイリスが風魔法。表面を剥がしたら、核に向かって各自で攻撃」
マリーが杖を向けて詠唱を始めると他の三人も慌てて言葉を紡ぎ始める。ゴーレムが三歩進む間に、火魔法の詠唱が完成した。
「『燃え上がり、爆ぜよ。汝等は何者も寄せ付けぬ三十二条の閃光なり』」
マリーの目の前に円を描くように火球が十六個浮かび、さらにその周りを十六個の火球が取り囲む。そのままゴーレムの胴体めがけて、紅の尾を引いて襲い掛かる。
その姿にアイリスじゃ風の魔法を放ちながら目を丸くした。
「マリー、いつの間にそんな数できるようになったの」
「なーに。オークを相手にしたとき辺りから、ちょっとずつな。ユーキの奴にも負けてられないしね」
魔法の一斉射撃を受けて、ゴーレムが一瞬だけ、体をのけぞらせて動きを止める。煙が晴れると穴が開いた胴の一部から、土とは思えない光沢のある部分が覗いていた。
一瞬の輝きではあったが、それを見逃さないのは流石は商人の娘というところか。フランはその場所目掛けて魔力を込めた杖を突き出す。
だが、詠唱と共にさらに魔力を高めようと右手を握りこんだ瞬間、事件は起こった。
「な、なに、これ?」
正式に魔法学園で魔法を習い始めたばかりではあるが、火魔法は相性が良かったらしく、すぐに四つ同時に放てる程度には上手くなっていた。
しかし、今は杖の先から火球が生まれては放たれ、生まれては放たれを繰り返している。問題なのは、その速度。秒間にして七、八発。アサルトライフルに届かんと言わんばかりの猛連射でゴーレムの体を削っていく。そのままゴーレムの体を抉り抜き、後ろの壁まで攻撃し始めた。
「え、ちょっと、ストップ。ストオオオオップ!?」
「と、止められないんです。誰か止めてくださいぃ!」
首から下を硬直させたまま、首だけを左右に回して周りに助けを求めるが、一向に魔法の連射は止まらない。
「いや、もう色々と規格外だとは思ってたけど、こういう魔法も規格外かよ。バケモノか―――って、吸血鬼だったな」
「冗談言ってる場合じゃないですよー」
「落ち着いて、魔力を止めてください」
「できたらやってますー」
フランの目には涙が溜まり、半泣き状態だ。サクラやマリーが右往左往する中、アイリスだけがフランへと前に進む。幼いアイリスには何もできないと思ったのか、サクラとマリーへ顔を向け続けていると、フランの懐から間抜けな声が響いた。
「とおー」
「ひぃっ!?」
アイリスは素手でフランの杖の持ち手を叩いた。できるだけ力を抜こうとしていた右手から素直に杖が飛び出し――――
「あぶなっ!?」
――――残存してい魔力が三発の火球となって、杖の向いた先にいたマリーへ運悪く襲い掛かった。
反射的に躱したというよりは奇跡的に杖先がずれていたからだろう。怪我を負わずに済んだが、当の本人は生きた心地がしていなかったはずだ。
「な、なんか目が回って……きゅー」
「危ない、よ」
倒れる寸前でアイリスが風を起こして衝撃を和らげ、サクラが慌てて助け起こす。体のどこにも熱を持っていないことを確認してサクラは一安心した。ユーキが強力なガンドを使った時には体に異常が出てしまって大事になったが、フランの場合は大丈夫だったようだ。
「とりあえず、この部屋を抜けて水晶で戻ろうよ。フランさんがこのままだと大変だから」
「マリー。火遊びはしちゃだめだよ」
「やったのは、あたしじゃ、ないから!」
「あうあー」
息を切らせながらマリーはアイリスに近づくとほっぺたを両方から摘まんで引っ張り上げた。その間にもサクラはフランを支えて前へ進んでいく。身体強化を使えば、成人男性を運ぶくらいは少女でもできるにはできる。
しかし、魔法数発とはいえ戦闘の緊張というものは意外と魔力の無駄遣いを生み出してしまう。
引きずるように運んでいたサクラに気付き、マリーが反対側の肩を担ぐ。何も言わず二人は歩き出した。その隣をアイリスは通り抜けて、硬く閉ざされた扉へ手を触れると大きく開き始める。
今日の少女四人組の短い冒険は五層突破という形で幕を下ろすことになった。
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