奨励任務Ⅴ
一方その頃、ユーキとオーウェンの話題に出た学園のダンジョン。
サクラたちはそのとある階層を進んでいた。
天井も壁も地面も石で覆われた回廊は、光が差し込む様子も松明が置いてあるようにも見えないのに、昼間とまではいかなくとも、数十メートル先が見える程度には明るく照らされていた。それは光り苔のように魔力で石が光っているからであった。
「しかし、すごいよな。こんな空間が何十階層って地下に続いてるんだってさ」
「昔読んだ本に、魔法学園の生徒を鍛えるためって書かれてた」
「いやぁ、モンスターに襲われても致命傷を負いそうになったら転移魔法で救出してくれるって、どんだけ凄いところなんだよ」
「だ、大丈夫かな。私たち、ここに入るの初めてだけど」
マリーを先頭に、アイリス、サクラ、そしてフランが続く。更に最後尾にはフェイの姿があった。
「一応、国からの許可が出た上での学園の対応だろうけども何か杜撰というか、粗が目立つな。何もないと良いけど」
五人のパーティで訪れていたのは、第四階層。遺跡の形をした階層だった。出現する敵は、かつての守り人だっただろう骸骨――――という設定のモンスターらしい。
アンデット系モンスターの弱点は神官の使う浄化魔法か火魔法だが、骨だけのため火魔法はなかなか通りにくい、という意外と厄介な特徴をもつ。
故に打撃系の武器で骨を砕いてしまうのが一番早いのだが、ここで活躍したのがサクラだった。土魔法の槍で貫く――――というより圧し潰す――――ことで粉々に粉砕していった。
「第一が洞窟系でゴブリン。第二が同じく洞窟系ででっかい蝙蝠。第三が遺跡系でウルフ。そして、ここがスケルトン。法則性は今のところ、二階ごとにフィールドが変化することくらいですね」
フランが杖を振りながら火球を連続で放つとスケルトンが三体まとめて吹き飛ばされた。衝撃で骨が折れたのか、なかなか立ち上がれずに音を鳴らしていたが、しばらくすると身動きしなくなる。
「しかし、不思議ですね。他の生徒もいるはずなのに、なかなか出会いません」
「多分、ここに入っている人は力があって深くまで行ける人だと思う。私たちが生まれるずっと前からあるから、浅い階層のものは残ってないか、学園が補充したアイテムっぽいし」
サクラが考察を述べるとアイリスは首をひねる。
「私の知っている人は、浅い階層で珍しいアイテムを見つけたこともある。人工だけど、それはフィールドとモンスターだけでアイテムの出現は本当にランダムらしいって」
「まぁ、あたしもそれを聞いたことがあるから、こうして来てるんだけどな。お宝よ、あたしが来るまで動くなよーっ!」
「そうとなると人と出会わないことに矛盾する。みんな外に出ているのか、あるいは強制的に退去させられたか」
警戒を怠ることなく進んでいくと第四階層の終わりが見えてきた。さらに下へと進む階段が目の前に現れたからだ。しかし、ここでフェイは階段ではなく隣にある球体を指差した。
「あまり無理をしても大変だ。今日はここまでにしておこう。噂だと五層ごとに強力なモンスターがいるみたいだし」
「えー、ちょっとくらい良いじゃん」
「そう言って、ボスに挑んで命は助かったもののトラウマになるやつも多い。そう伯爵から聞いている」
「むーっ。じゃあ今日はここまでだな」
「無理は、禁物。あと、お腹すいたー」
アイリスの言葉に誰かのお腹が鳴り響いた。全員が思わずお腹を無意識に擦る。お昼時をとっくに過ぎているにも関わらず、第四階層を突破するのに夢中になっていたのだ。幸い荷物の中にパンなどの食料はあったが、様子見だったので一日分程度しか持ってきていない。
階層の階段近くには、外に出られる球体の水晶が置かれている。そこに触れればダンジョンの入り口に戻ることができ、強制脱出させられない限りは最後に行った階層に戻ることができる仕組みだ。天然のダンジョンにはない親切システムの一つである。
「お腹もすいているし、どうせ食べるなら食堂で食べた方がおいしいよね」
「そうですね。温かい食事を食べる方が疲れも早く取れますから」
全員が納得したところで、マリーが水晶へと真っ先に手を触れる。目を瞑って転移の発動に備えるが、何も起こらない。
「あれ? 水晶に触れた時って、何か呪文必要だっけ?」
「触るだけでいい、はず」
「もう一度、触ってみたらどうだ。魔力も少し流して」
「オッケー」
魔力を手に集中させてマリーが触れると、その姿が光に包まれて消えた。それに続いて、アイリス、サクラ、フラン、フェイと水晶へと触れていく。
全員が消えた後、入口の陰から一人の女性が姿を現した。誰もいないことを確認すると、外套を翻して元来た道を引き返していく。
ふと顔を上げた視線の先には四人の人影が近づいてきていた。女性は道を譲るように脇に避けると腕を組んで、そのパーティが抜けるのを待った。
一方のパーティはというと、先頭のリーダーらしき男子が楽しそうにスケルトンを倒した時の話をしていた。女性の前を通り過ぎるとき、四人とも彼女に気付かず、その先へと歩いていく。
パーティを見送った女性は何をするでもなく、その背を見つめて一度目を伏せると、ゆっくり足音を立てないように後をつけ始めたのだった。
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