奨励任務Ⅲ
洞窟を進むとそこらじゅうが淡い光に包まれていて、奥の方に目を向ければ入口の光も届かないせいか、神秘的な光の道が出来上がっていた。もう少し雰囲気があれば、絶好のデートスポットになるかもしれない。
しかし、ユーキとクレアは冒険者としての依頼をこなすために来ている。道中はクレアの冒険者講義を聞きながら進んでいった。
「ダンジョンにもいろいろあってね。こういう洞窟などの自然構造物や昔の人が暮らしていた場所に魔力が溜まってできたタイプと神様とかが意図的に作ったタイプがあるんだよね」
「じゃあ、今回の場合は天然のダンジョンって言ってるから神様はあまり関係してないか」
ギルドで告知されていたものを思い出しながらユーキが答えるとクレアも頷いた。
「そうね。神様が作った場所だと、色々と方向性が決まってるみたいでさ。例えば試練のダンジョンとかは、神様に会う資格を得るための修行場って感じだし、知啓のダンジョンは魔法を扱うための知識が得られるとか言われてる」
「じゃあ、天然の方は?」
「それこそ無限大。魔力が溜まっているだけだから、そこに草があれば薬草の上位種である霊草になるし、それが鉱石だったらミスリルになる。実際に、うちの城壁は近くの山にミスリルダンジョン。つまり鉱山があったからできたわけだし。もし、そこに質のいい剣を数百年置いとけば聖剣とか魔剣になるかもね。やるやつはいないけど」
二手に分かれた道を左に進むとユーキの耳に川の流れる音がかすかに聞こえてきた。
何気なく見えた岩の割れ目の向こう側を小川が勢いよく流れている。王都オアシス自体も山や地下からあふれ出る水を利用できる立地になっているが、それ以外の場所からも魔力を感じる水が湧き出ているようだ。今回の薬草も、そういった水を吸収して育ったものだろう。
最初は修学旅行生くらい大勢いても狭くないくらいの広さだったが、次第に道幅が狭くなってくる。歩いて十分も経つ頃には、人とすれ違える程度の足場があるくらいで、ところどころに湧き出た水や天井から滴った水がたまっていた。
「さぁ、もうすぐお目当ての場所だよ」
「いや、結構きついな」
「あはは、慣れてないと足が滑るからね。気を付けないと頭ぶつけて、あの世行きだよ」
腰くらいまである段差を悠々と乗り越えるクレアに対して、プールサイドに腹で上がるような形でユーキは登った。冷えて固まった溶岩の隆起が服越しにユーキの鳩尾を圧迫する。
「こればかりは慣れだね。いくら身体強化ができても、体の使い方を知らなければこんなもんさ。だからこそ、こういう依頼が設定されるんだけどね」
「どう、いう、こと、だよっと」
もう一段を苦戦しているユーキが尋ねると、クレアは腰のポーチのベルトを引っ張り上げて答える。ユーキは既に息が上がっているのに、クレアは余裕の表情だ。
「洞窟ではゴブリンやオーク。あるいは巨大な虫などの魔物と戦うことが想定される。それなのに初めて洞窟に入ったユーキは戦えると思う?」
「動かなければ……魔法でとか」
「落盤事故を起こさない威力で調整できる? 天井から奇襲を受けたら? 魔力がないときは? 相手が強いときは? 冒険っていうのはね、常に最悪の状況を考えて動くのが大切なんだ。それでいて、それでも考えが及ばなかったって死んでいくもの。だから、こういう安全なところで対応の仕方を学んでいくってことさ」
クレアが真剣な目を見せるのは、以前のオークを狩ったとき以来だろうか。四つん這いの状態で顔を上げたユーキの目にクレアの瞳が映り込む。息切れしていたのにも関わらず、呼吸をすることを忘れてクレアを見つめ続けると、その目尻が下がった。
「ま、とりあえず死なないように、しっかぁぁぁぁり教え込むから、覚悟しておきなさい」
「り、了解」
再び、背を向けて歩き出すクレアにユーキは慌てて立ち上がる。慌てて追いつくと、クレアの顔にはいつもの笑みが戻っていた。
その後、何度か段差を乗り越える場面があったが、最後には自力で登るくらいにはユーキも慣れることができた。服の下で膝や肘が擦り切れたりしていないか心配だったが、身体強化の魔法はそこまで脆弱ではないらしい。歩きながら裾を捲ってみたが傷一つなかった。
「ここまで来るのに時間はかかったけど、初めてにしては良い動きだった。隙間を抜けるところ以外は」
「いや、あんな狭いところ抜けるのは恐怖以外の何物でもないだろ。せめてもう少し隙間大きくしないと」
ユーキが振り返った先には、ひざ下あたりの高さに大人一人が抜けられるかどうかというレベルの穴があった。肩や腕を捻りながら抜けるのに五分以上もかけてしまった。挙句の果てにクレアに文字通り手取り足取りならぬ、手取り頭取りといった形で無理やり抜けた状態だ。
関節が変な方向に曲がってないかとユーキはすぐに肩や肘などを回して確認する。それを見たクレアは明らかに落胆した様子だった。
「オークに立ち向かう勇敢さがあるのに、こういうのがダメなのか。意外と小心者なんだな」
「小心者で結構。暗いのも狭いのも苦手だよ」
小さい頃に怒られて、押し入れに閉じ込められたのが原因とは、意地でも言えないユーキである。呆れた顔をしたクレアも、それ以上は追及すまいと自身の後ろを指差して話題を変えた。
「さ、今回の目的地に到着だ。ここから薬草を採取して、何とか帰るぞ」
「まじですか……」
そこには高さも広さも学校の体育館くらいの空間が広がっていた。天井や壁にはびっしりと苔が生え、地面には僅かに残っている土からエメラルドに光る薬草たちがそこら中に生えていた。
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