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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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奨励任務Ⅱ

 王都の外へ出てから西へ三十分ほど歩くと山の中腹にも届かない辺りに岩がむき出しになった洞窟がある。入口から来た方向を見ると王都の白く輝く壁が見ることができた。

 道程は穏やかなもので、数匹のゴブリンを倒しただけで凶暴な生物には出くわさなかった。そもそも、洞窟までの道のりは拓かれているので、野生生物自体があまり近寄らないようだ。

 もっとも本人が気付かないだけで、()()()()たちが木の上で食事をしているのは、また別のお話。


「流石にここまでくると疲れるなぁ」


 身体強化を軽くかけていても疲れはたまる。洞窟の前で一休みをしていると、何人かのソロ冒険者が洞窟から出て来て道を下っていった。荷物も大きな物はなく、また噂になっているアーティファクトを見つけた者はいないようだ。


「ま、薬草の素材集め専用の洞窟だし、そんな簡単に見つかれば苦労はしないよな」


 目の前の洞窟は溶岩洞窟の一種で植物が育ちにくい。水が土のように保持できないので、基本的に苔しか育たないのだ。迷い込んだ場合を除いて、動物がいることも少ないため比較的安全な場所とも言える。

 そして、何よりもこの場所を選ぶ冒険者が多いのは、洞窟内の温度が年中通して安定しているからだ。それだけ人が来る場所ならば調べつくされていてもおかしくはない。

 休憩を終えたユーキが踏み込むと、奥の方で壁が仄かにエメラルドに輝いているのが見えた。周りの冷えて固まった岩にこびりついた苔がその正体である。洞窟の割れ目から流れてきた水の魔力を吸って発光している。そのおかげで松明を持たずに探索できることも、この洞窟の利点だった。


「あれ? もしかして、ユーキか」

「あ、どうもマリーのお姉さん」


 見覚えのある色の赤毛の冒険者にユーキは笑みを浮かべる。クレア・ド・ローレンス。ローレンス伯爵の娘であり、魔法学園の悪戯コンビの片割れマリー・ド・ローレンスの姉である。


「クレアでいいっつっただろ。それで、相変わらず薬草集めか」

「まぁね。今回は少し遠出しながら、ダンジョン探しっていうのもあるけど」

「なるほどね。だったら、この洞窟は外れだな。こんだけ普段から人がいるんだから、あるならとっくの昔に見つかってるさ」


 顔を洞窟の方むけてニヤリと笑う。


「何かの偶然でダンジョンが出来上がっている、っていう可能性も否定はしないけどね」

「見つけたらラッキーっていう感覚だから、期待はしていないさ」

「つまらねぇ奴だな。他の若い男の冒険者はこぞって、魔道具やらダンジョンやらを探しに駆け回ってるぞ」

「そこまでのレベルの人間じゃないからね。そもそもダンジョンのことはギルドで配布された本で読んだだけだから」

「じゃあ、せっかく魔法学園にいるんだし、図書室の本でも読んだらいいんじゃないか。ついでに禁書庫の本の一冊や二冊読んでくると面白いぞ」


 やはり姉妹というべきか。ここぞという時にしっかりと同じ顔で唆そうとしてくるのは同じである。大抵の悪戯は致命的でないのだが、生徒会と色々あった手前、ユーキとしては学園で揉め事を起こしたくはない。


「あそこの禁書庫な。広いくせに管理人が一人しかいないから逃げるのが楽なんだよね。ま、それ以外の追手が面倒なんだけど――――」

「待った。まるでやったことがあるかのような言い方なんだけど」

「やったことあるよ。当然じゃん」


 魔法学園は四年制である。一年生のマリーが十五歳、クレアが十八歳。どう考えても、クレアは卒業生ではないし、冒険者としての活動を精力的にこなしているので在学生とも考えにくい。ユーキの中で疑問がふつふつと湧き上がってくる。


「(あれ。実はクレアが鯖読んでいる?)」

「おい、今、スゴイシツレイなこと考えなかったか?」

「イエ、ナニモ」

「まぁ、隠しことじゃないけどさ。あたしは今休学して冒険者やってんの」


 クレアの説明によると魔法学園を卒業しても魔法使いとしての職につけるのは一握りだという。そして、クレアは多くの冒険者として依頼をこなす人がいる中で、もっと他のことに力を注げることがないかを実際に冒険者になって探している真っ最中なのだとか。


「まぁ、教授陣からは魔法の理論だとか新魔法の開発だとかの研究を薦められたんだけどね。どうも性に合わないというか、魔力を剣に込めて、かち割った方が手っ取り早いんだよな。あと気持ちがいい」

「地道なフィールドワークをしてる人の発言とは思えないね」

「なーにー?」

「イエ、ナンデモアリマセン」


 クレアが握りこぶしを構えたのでユーキは直立で首を横へと何度も振った。クレアも冗談だったのか、すぐに拳を下ろして目の前の洞窟を指差した。


「こんなところで話してても埒が明かないし、一緒に入るか。今日はお姉さんが案内してやるよ」

「ほんとですか。ありがとうございます」

「帰った後で飯くらい驕れよ」

「あ、報酬の後出しは禁止」

「お前の敬語も禁止な」


 先程とは違って快活で大きな笑い声をあげてクレアが洞窟へと入っていく。慌てて遅れないように、ユーキも足を踏み入れた。


「あ、言い忘れた」

「何をっ――――!?」

「足元、滑りやすいから注意な、って言うのが遅かったか」


 辛うじて、足を滑らせるだけで済んだユーキは胸を押さえながらクレアに目で訴えた。


 ――――それを言うなら、もっと早く言ってくれ、と。

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