黄金が瞬く黄昏にⅢ
王城の一室。それは謁見の間よりもさらに奥へと進んだところにある。只人が通されることのない、高貴な者たちのみが入ることを許される聖域と言えるかもしれない。
「失礼。うちの馬鹿な貴族共が押し寄せてしまって疲れてしまっただろう。王族や貴族相手ならまだしも、そなたたちのような神官に押し掛けるとは、我も予想しておらなんだ」
「いえ、そのお気遣いだけで構いません。むしろ、急な要請にも関わらず騎士団まで動員していただきました。感謝の言葉しかありません」
ファンメル三世と銀髪の長身の少女が向かい合って座っていた。開け放たれた窓は真っ赤な夕日に照らされ、涼しい風が流れ込んでくる。
国王の後ろに控えている宰相は、一言でいうなら頑固親父。酒場か鍛冶屋が似合うほどの厳つい顔だった。
ただ、一つ違うのはその眼光の鋭さだ。細く開かれた目の間から何でも見通すかのような瞳は、時に国王さえも震え上がらせる。その視線は少女とその後ろに控える者へと注がれていた。
杖を抱えた少女の後ろにはアルトが控えている。国王と宰相の二人の目の前では萎縮してしまうかと思われたが、負けず劣らずというところか。彼女の瞳も宰相をまっすぐと見返していた。
風が通り抜け、カーテンが捲れ上がる音くらいしか響かぬ部屋で、鍔迫り合いでもしているかのような音が幻聴として聞こえてくるようだった。
「やめておけ。相手は聖女だぞ。そのしかめっ面を少しは引っ込めたらどうだ。御伽噺の通りなら、世界が滅びかねない情報を握っているのだ」
「だからこそです。善悪損得見極めて進言するのが私の勤めなれば、例え少女だろうと聖女だろうと扱いは常に等しくあるべきです」
「ま、そういうわけだ。この堅物の石頭は死んでも変わりそうにないのでな。悪いが無視してくれ」
「臣下に恵まれておいでですね。陛下の治世が行き届くのにも納得です」
「世辞は結構。ここまでの強行軍で来たのですから、相当な大事なのでしょう。本題をお話しいただいてもよろしいですか?」
少女の言葉に顔色一つ変えず、むしろ不愉快そうに言葉を紡ぐ。ただでさえ刻まれている皺が多いのに、眉間にさらに深く皺が寄る。
「わかりました。我々としても事態は急を要します。聖女が星神より承った御言葉をお伝えします」
そういうと杖を抱えて立ち上がる。宰相が警戒して杖を引き抜きかけるが、国王がそれを手で制した。しぶしぶといった形で宰相も手を下ろす。
杖からわずかに黄金の光が漏れ出て聖女が言葉を紡ぐ。その言葉に国王も宰相も目の前の聖女から放たれた言葉にしばし呆然とした。
「星神様からの御言葉は『勇者を……探せ』とのことでした」
「――――それは、つまり。『魔王が出現する』という預言の類と思ってよいのだな」
片肘をついていた国王は思わず姿勢を正した。宰相の方は、さらに皺が深くなるばかりで一言も発さない。
「此度の勇者は、このファンメル王国にいるとのことです」
「前回の魔王騒動は余の四代前――――百跳んで二十年前か。そのときは、そなたの国から勇者が出たのだったな」
「その後の結果は、ご存じのとおりです」
「そうか……。いや、ご苦労だった。その情報は砂漠の水一滴より重い。まずは時間の許す限り城で疲れを癒していくがよい」
聖女アストルムは、国王の言葉に微笑で返す。その間も宰相からは厳しい視線が注がれていた。まるで、何か言葉の裏に隠されたものはないのかと探っているようだった。
「魔王となれば被害は想像を絶するでしょう。可能ならばすぐにでも勇者を探したいところですが、手掛かりはあるのですか?」
国王が宰相へと厳しい視線を飛ばすが、当の本人は一切を気にせず再び座りなおした少女を見つめる。その視線に困ったように傍らの少女に視線を送ると、無言で少女は首を横に振った。
「そこまではわかっていません。何度か星神様の声を聞こうとしているのですが、なかなかタイミングが合わないのです」
「そうですか。ではわかり次第、私か国王に教えていただけると助かります。まだ他の者に話すには早すぎると思われますから」
「そうだな。城の中の者には、そなたに言われたら余のところに案内するよう言っておこう。それでいいな」
もう今日は彼女たちに負担をこれ以上かけるな、と言外にほのめかした国王は宰相へと視線を送る。対して宰相は、仕方ないといった形で細い目を閉じて了承を示した。
国王が扉に控えていた騎士へ合図をすると白銀の鎧の騎士と黒鉄の騎士がそれぞれ二名ずつ入室する。片方はファンメル王国の騎士。もう片方は聖女護衛部隊の騎士だ。
黒騎士は顔まですべてを覆い、表情を伺うことができなかった。万が一が有ってはいけないとファンメル王国側の騎士たちには緊張が走るが、何事もなく聖女は黒騎士に先導されて部屋を去っていった。
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