黄金が瞬く黄昏にⅠ
謎の襲撃者を退けた後、ユーキたちは何事もなく王都へと辿り着く。
城へと入っていくと既に大勢の騎士が列を成しており、アルトの到着を歓迎していた。
「なんとか、戻ってこれたね」
「疲れた……。寝たい」
「わからなくはないけど、この状況で寝られると困るからやめてくれ」
王都圏内に入るや豹変したワイアットがほとんど唇を動かさずに注意する。転移魔法として潜った門を逆側から通ると、そこには一足先に早く到着していた一団がいた。
何人かのお付きのメイドだけでなく、王国の騎士団とは違う意匠の騎士たちが周りを囲んでいる。その中心にいたのは、ユーキと同じくらいの背の高い女性だ。全身を白いマントとフードで隠しているが、白銀の髪が顔の横からはみ出ていた。
両手で抱えている大きな杖に視線がいってしまうが、見えないはずの瞳がじっと見つめているように感じて、ユーキはフードの奥を見つめ返してしまう。
「囮だからって髪の色が揃っていればいいとか、もう少し考えたらどうなんだ。背丈も体つきも違うぜ」
「失礼ですね。私もいずれああなります」
「うわっと……聞こえてたのか。ごめんごめん」
いつの間にか馬車から降りたアルトがマリーに苦言を呈していた。フードこそ被りなおしているが、その下にはむくれた顔が隠されていることがなんとなく予想できる。
「短い間でしたが、ありがとうございました。みなさんとはもっとお話ししたかったです。また機会がありましたら、よろしくお願いします。……あとはお仲間が早く見つかることを祈っていますね」
軽くお辞儀をするとメイドを傍らに侍らせて、長身の女性のもとへ歩いて行ってしまった。
「アラン先輩は無事なんでしょうか?」
「わからないな。暗殺なんて企てる連中の言うことなんて信じられないが、無事を祈るしかないだろう」
襲撃者の落としていった物をワイアットが集めていることを思い出す。もし手がかりがあるとしたら、その中にあるはずだ。
しかし、あったとしても既にアランが囚われてから一週間が過ぎている。何の危害を加えられていないとしても、衰弱しているに違いない。そんな心配をしていると前方にいた隊長が列を外れて、何人かの騎士に声をかけていた。不思議に思っていると近くのワイアットが身動きせずに声を出す。
「さっき拾った物の中に手書きの王都の地図があってな。怪しいマークがされていたから、団長に知らせてある。恐らく、捜索が始まるだろうよ。ここからは『こちら側の仕事』だ。あまり首を突っ込むな」
「そうですか」
戦いの最中にオーウェンはアランを友と呼んでいた。ユーキは気になって馬車の反対側にいるオーウェンを見ると、その顔は焦燥に満ちており、騎士たちの中にアランを探すようにあちこちに顔を向けていた。
当然ながらどこを見回しても、彼の姿は見当たらなかった。意気消沈するオーウェンにエリーが声をかけるが、その表情が晴れることはない。
そんな彼の所へ隊長が近づいてきて、短く言葉を交わした。その瞬間にオーウェンは城の外へと駆け出して行った。エリーは隊長へと頭を下げると同じように追いかけていく。
「あの様子だと……いや、まさかな」
ワイアットが呟く。その意味するところは既にアランは保護されている、ということだろう。当然、アランが見つかっていれば偽物の存在は伝わる。援軍が送られていてもおかしくはないはずだからだ。
結局のところ、その疑問は解決することなくユーキたちは家路に着くことになった。
「あー、早く家に帰ってあったかい風呂に入りたいぜ」
「寝たい」
「私も暖かいお湯が恋しいよ」
女子たちはそれぞれが魔法学園の寮へと道を急ぐ。王都に到着したのは昼間だったので、風呂に入るにもベッドに向かうにも早すぎる時間ではあったが、一週間の疲労には勝てなかった。
「あ、じゃあさ。あたしの家にいかない? みんなで風呂に入ろうぜ」
「あ、それいいかも」
「寝ながら、入浴ー」
疲れてはいるものの笑顔になる余裕は残っているのか、アイリスも糸目になっていた瞼が僅かに開く。帰り道を付き添っていたユーキは、何も考えずに歩いていたがマリーのにやついた視線に遅れて気付いた。
「あ、みんなで風呂に入るとは言ったけど、ユーキは駄目だからな」
「誰も一緒に入るなんて言ってないわ!!」
「またまたー。照れちゃってー、このこのっ」
どこにそんな元気が余っているのか、一瞬で近づいてくると肘でぐりぐりと弄り始める。どうしたものかと思いながら、突かれるままにしていると遠くから声がかかった。
「あ、みなさんお帰りなさい」
ベンチに座っていたフランがマリーたちを見つけて近寄ってきた。この一週間は、体質の検査などをずっとしていた暇だったらしく、ユーキたちと違って体力が有り余っているようだった。午後は自由にしてよいと言われているため、ベンチに座って悩んでいたらしい。
「今日は晩御飯が豪華らしいですよ。とってもいいお肉が入ったって、シェフの方が喜んでましたから」
「む、じゃあ。ますます家に帰らないとね。よし、一緒に風呂には入ってやれないけど、ユーキも食べてくよな」
「え、ユーキさん。そういう人だったんですか。ちょっと、幻滅です」
「いつ俺が一緒に風呂に入れてくれなんて言った!?」
あれよあれよという間にマリーの言葉に流されて、ユーキもマリー宅へと行くことになってしまった。家に着くまでにフランの誤解を解けたが、それを聞いていた魔法学園の男子生徒に嫉妬の炎が灯ってしまったのは、また別のお話である。
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