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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第3巻 白銀の来訪者

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内通者Ⅴ

 巨大な水の壁が馬車と炎の間へと割り込んだ。

 馬車の周りへと出現したのは水の竜巻。そこへ衝突した炎は、水蒸気をまき散らす。水が炎に照らされて煌めくが、火の粉一欠片すら通すことを許さない。奇しくも演習場でユーキを襲った火柱のように、今度は水柱が炎を巻き上げて無力化する。

 力任せに放出する魔力をアランは増やすが、それをあざ笑うかのように水は渦巻いていた。


「くっそ。いくら相性が悪いとはいえ、おかしいだろうがっ!?」


 拳を振り切って炎の放出をやめたアランが吠える。炎の気配が消えたことがわかったのか。水の竜巻は弾けるように霧散した。

 馬車の扉が開かれると杖を向けたまま少女が一人降りて来る。


「「アイリス!」」

「あ、みんな無事?」


 驚くサクラとマリーにアイリスは、いつもと変わらない口調で返事を返した。自分の足でしっかりと立ち、顔色もよくなっている。


「こんなクソガキに、俺の魔法が防がれたっていうのかよ!?」

「この前までのアイリスだったら無理だった」

「何だと……」

「オーウェンが使ってた水流操作の魔法……技術? あれを見てなかったら使えなかったから」


 その言葉にオーウェンを抱き起していたエリーが驚きの声を上げる。


「まさか、あの一回で覚えたとでも……!?」

「うん。アイリス、これでも飛び級してるから」

「だからって、そんな簡単に」

「あと、これも借りた。馬車の中に取り付けられてたから」


 杖とは逆の手にあるごつごつした石を持ち上げる。手に触れている部分は黒色だが、その部分から生えたかのように青い結晶が突き出ていた。


「そうか、水の魔石で魔法効果を底上げしたのか」


 盲点だったとばかりにアランが苦虫を噛み潰したような顔に変わる。

 その周りを騎士たちが囲み、盾を構えながら剣を向けた。


「アラン・ケリー。身柄を拘束する。その場でうつ伏せになれ」

「はっ。あの程度のゴーレムに手間取る騎士如き、俺の敵じゃねえんだよ!」


 魔力が一気に噴き出して一陣の風がアランの周りに巻き起こった。盾を構えて防御に入った所をアランの蹴りが襲う。

 吹き飛ばされた騎士の間へ割り込んで囲いを力づくで突破する。そのままアイリスまで突進。その踏み込みの速さたるや、身体強化を使ったフェイに匹敵するほどだった。


「水の魔法壁で俺の拳を止められると思ってんじゃねえぞ、小娘!」

「――――その程度で粋がってるなよ。下っ端が」


 アランの背筋に悪寒が走った。

 しかし、時すでに遅し、繰り出された拳はアイリスの顔面へと向かっている。恐怖に目を瞑るアイリスだが、その顔に拳が叩き込まれることはなかった。

 右手首をワイアットが片手で掴んで止めていた。体格が倍以上違う相手に涼し気な顔で抑え込んでいる。


「我々を過小評価しすぎたな」

「ごほっ……」


 腕を跳ね上げるとがら空きの胴体へ鋭い蹴りが叩き込まれ、アランの巨体が一直線に吹き飛んだ。その先で女騎士がシールドで体当たりして追撃。一瞬、体の浮いたところを別の騎士が槍の石突で服に引っ掛けて、地面へと叩きつける。

 しかし、身体強化を得意とするだけあり、アランは意識を手放すことなく、受け身をとって素早く立ち上がった。


「なるほどな。最初から実力を隠してやがったわけだ。じゃあ、あの最初の襲撃は俺みたいなやつらを油断させる罠ってことか」

「ご名答」


 針のように突き刺す威圧感を纏って、隊長が前に出る。


「外からの敵襲ならば、他の集団がいることで手を出しにくくなる。内側に潜む()()()()()の内通者なら警戒するべきものが増えてしまうからな」

「最初から俺の存在はバレてたってことか」

「その通り。君かどうかまでは、はっきりしていなかったからね。オーウェン君に協力してもらって、騎士団以外の枠を作ったわけさ。彼が狙撃されたのは、君の魔法のせいかな? 幻覚系か誘導系かわからないが少し厄介だ」


 詠唱のための時間稼ぎを悟られないように会話を続けていたのだろう。隊長が手を上げると槍を持った騎士たちが一斉に魔法を放つ。風と火の魔法が壁かと思わせる弾幕となって押し寄せる。着弾と同時にゴーレムの時とは桁違いの威力で地面を抉っていく。


「すっげぇ……」


 マリーの感嘆の声が漏れる。ユーキは自分のガンドで慣れてまっているかもしれないが、初級の魔法なのにも関わらず、一発一発の威力と精度が恐ろしく高い。

 土煙が上がると、それごと次の魔法が吹き飛ばす。十秒ほどで三度の弾幕が放たれた。

 しかし、最後の弾幕が終わると土煙を中心に風が吹き荒れてアランが姿を現した。


「へぇ、この国の騎士団も少しはやるじゃねぇか。俺じゃなかったら死んでたかもな」


 腕からわずかに血が滴り落ちていた、魔法が直撃したというよりは掠ったという方が正しいだろう。圧倒的に不利な状況にもかかわらず、未だに凶悪な笑みは消えていない。

 そんなアレンの周りに渦巻く緑色の光をユーキの魔眼は見逃していなかった。騎士団の放った魔法のことごとくがアレンの手前で不自然に軌道が曲がって逸れていた。


「……風の障壁。あれのせいで、アランを狙った魔法がオーウェンに逸れたのか」


 森の中を見ると赤と青の光が姿を隠そうとせずに移動しているのが見えた。





「おいおい、あの野郎。俺のゴーレム乗っ取った挙句、狙撃魔法を逸らすとか反則過ぎるだろ」

「あーあー、兄貴。公爵家の偉い兄ちゃん気絶させちゃって、俺たちってば縛り首っすかねぇ?」

「馬鹿野郎っ! まずは任務遂行を最優先に考えやがれ。責任の取り方なんぞ後だ! 後!」





 そんな会話がやり取りされているとは露とも知らず。一応、騎士団側の人間だと判断して、ユーキは視界の外へと追い出した。

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