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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第3巻 白銀の来訪者

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内通者Ⅰ

 土の山を崩し、アルト護衛部隊は即座に出発した。歩きながら後ろから回ってくるドライフルーツを食べながらの強行軍になる。

 せっかく用意された朝飯も半分程度が、ゴーレムの襲撃で無駄になってしまった。その損失は痛かったが、襲撃があったとなれば人命には代えられない。


「あたしたちは、まだマシだよな。サクラが早く作ってくれたおかげで何とか食べれたから」

「それとこれとは話が別……」


 アイリスは杖こそ握って警戒しているが、その体はふらふらと横に揺れていた。


「アイリス。大丈夫?」

「んー。まだ、大丈夫ー」


 杖を振って、小さな氷を作り出すと口の中に入れた。日差しが強く、体の中が煮えたぎったように感じる中で、気分だけでも楽になる。心なしか、アイリスの姿勢が持ち直した。


「あ……私もそれやってみよっと」

「あ、あたしも……」


 サクラとマリーも引き続いて、氷を口に含む。緩んだ顔で舐め続ける三人をユーキが見ているとサクラと目が合った。サクラは近づいてくると杖をくるくると回し始めた。


「ユーキさん。口開けて」

「えっと。こう?」

「はい、あーん」


 開けた口の中に氷が一欠片放り込まれる。舌の中でスケートでもしているかのように氷が滑ると、一気に冷たさが口の中へと広がった。横に移動させてほっぺたの内側へと押し付けると舌よりも冷たさを感じることができる。


「俺じゃ氷を作れないから助かったよ」

「どういたしまして。一応、授業に出れば教えてもらえるような魔法だけど氷はかなり難しいの」

「へぇー。じゃあ、三人とも優秀だな」

「あ、別にそういう意味じゃ」


 慌てて手を振るサクラにマリーが近寄る。その顔はいつもだったらにやけていそうだが、暑さのせいか口の端が上がる程度だ。


「真夏なのにお暑いですな。二人とも」

「ちょっと。マリー、どういうことよ」

「はいはい。それは放っといて、実際に四大元素の話だけじゃ説明できないんだよな。氷の魔法って」


 そう言いながら軽く杖を振って、いくつかの魔法を見せる。


「火、水、風、土。錬金術ベースで語られる四大元素。レオ教授も言っていたけど湿ってるとか熱いとかの状態を表してるんだよな。当然、水も氷も冷たくて湿っているんだけどさ、その違いを魔法でどう生み出すかっていうのがすごい難しいんだよ」

「それがイメージなんじゃないのか?」

「いやいや、それがどうやらイメージだけではなかなか発動しないんだよな、これが」


 そう言って、マリーは氷をさらに作り出して口に放り込んだ。まだ一つ目の氷が残っているらしく、その顔はさながらリスのようだ。


「ま、結局のところ。氷だけに限らず、それが魔法無しで起きるには、どういうことが必要なのかを理解しているほど、魔法は正確に、或いは強く発動するらしいんだよね」

「それ、レオ教授が言ってたこと、そのまま言ってるだけー」

「あ、ばれた?」


 舌を出して笑うマリーに全員が和やかな雰囲気になる。そこへワイアットが後ろから声かけてきた。


「おっと、気を抜き過ぎだぜ。ここから二日間は気を引き締めとかないと」

「さっき失敗したってことは次に襲うなら街に着く前か、夜になってからだと思うけど。お兄さんなら準備にどれくらいかかる?」

「……何だ。わかってんじゃねえか」


 マリーの試すような視線にワイアットはニヤッと笑った。どちらかというと覗き魔を馬鹿にしたような風にも取ることができたのは、気のせいではないだろう。対してユーキたちよりも疲れているはずなのに、オーウェンの顔には余裕さえ感じられた。


「まぁ、問題はそこじゃないけどな。因みに問題なのはどこだと思う?」


 挑戦な口調で迫るとマリーは腕を組んで考え込む。サクラやアイリスも唸り始めた。

 その点、ユーキは割とあっさり問題点が浮かんでしまった。むしろ、わからない方がおかしいと言うべきか。


「ユーキの方は分かったみたいだな。意外と考え事が得意なタイプか」

「んー。ゴーレムを使うような相手がいるってことか? あたしだったら町に入ったところで暴れられたらら面倒だなって思うぜ」

「五十点ってところだな。いい線ついてる」

「もったいぶらずに教えろよ」

「おいおい、クイズってのは解くのが楽しいんだろうが。そっちの嬢ちゃんは?」


 アイリスに視線が向くと、当の本人は虚ろな目で答えを返す。その言葉にはいつもの間延びした幼い声音ではなく、氷のような冷たさを感じさせるものだった。


「――――あなたと同じ」


 その言葉にワイアットの笑顔が急にお面のように固まって見えてしまった。ワイアットは無言で先を促すが、アイリスからは何も返答がない。


「……きゅう」


 ぽてっと間抜けな音が似合うくらいに呆気なくアイリスは倒れた。すぐにサクラが助け起こすと目の焦点が合っていなかった。


「ど、どうしよう」

「熱中症か。サクラ、マリー。革袋に氷を入れてくれ。できれば複数個あるといい。ワイアットさん、後ろの馬車に寝かせることはできますか?」

「あ、あぁ。聞いてみる」

「ついでに、水へほんの少しだけ塩を入れたものを用意してください。塩の代わりにドライフルーツを砕いたものでも構いません」

「……お前、もしかして賢者とかの助手だったりしないよな……?」

「そんなこと後でいいから」


 ワイアットの背中を押すと、必死さが伝わったのか隊長の下へと駆けていく。その後、隊長命令で十分程の休憩を取ることになった。

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