護衛Ⅵ
騎士団のメンバーは、王都所属の騎士団とローレンス伯の騎士団が半々だ。大きな違いは、王都の騎士団には女騎士が数名存在していることだ。
そして女性騎士の多くは、女性の護衛につくために創設された部隊へ配属されている。当然、今回のように何日も街への移動がかかる場合には、男性が近くにいると不都合な場合も出てくる。
万が一の間違いも許されない時には、女性のみで構成された部隊が出てくることもあるという。
今回の護衛対象の馬車の両脇を守る班の十名のうち、六名が女性だった。
そして、女性であるということは、この時代の性別による区別がまだ根強いせいか。炊事等の仕事を任されることも多い。この行軍中のアルトたちへの食事の用意も任されていた。
「日中、敵地では煙が上がって場所がばれることがあるし、調理時間に時間がかかり、片付けも大変だ。また夜に使うと明かりでばれる。よって火を使うのは極力控える。使わなければいけないときは、土で調理場所を覆うなどして漏れないようにするのが大切だ。今回は、国内ではあるが護衛と実習の二つの観点から条件の厳しい敵地の想定で課題を行う」
調理というより、食べ物の量を測って配っていた女騎士が作業しながら解説する。干した果物と芋が配られると、周りの騎士たちはそれぞれの持ち場へと戻っていく。
持ち場へ戻る前にサクラが馬車の中を覗き込んで中を確認していたのを見かけたマリーが声をかけた。
「サクラー。早くいこうぜ」
「うん。ちょっと待って」
女騎士と二言三言、言葉を交わすとなにやら紙切れを渡されて戻ってくる。
「何をしてたんだ?」
「馬車の中にある食料を教えてもらってたの」
「……一応、そういうのって軍事機密のような気がするんだけどなぁ」
あるいは、実習ということで普段と違うものを持ってきているのかもしれない。もし、この情報が敵に渡れば、食料の値段を吊り上げたりなどの攻撃が可能になるからだ。
「まぁ、細かいことは気にしない、気にしない。今はとりあえず食べることに集中しようぜ」
「じゃあ、俺が見張りをやるよ。もう一人は誰がやる?」
「どうしよう。私でもいい、かな?」
サクラが手を挙げてユーキの横へと並ぶ。マリーとアイリスへ、食料を預けて街道の反対側の草原を見る。
草原で出現するモンスターにはいくつかいるが、一番の脅威は四足歩行の肉食獣だろう。俊敏さ、耐久力、攻撃力などどれをとっても脅威で、普通の人間の膂力だけでは到底敵わない。
「ここらあたりだと狼とかかな。草の丈も低いから近づかれてもわかりやすいね」
「意外と空から襲ってくるかもしれないよ。ドラゴンとか」
「ドラゴンってやっぱりいるの?」
「あまり人を襲ってはこないけどね。そういうのが出るのは山奥の方だって聞くけど……」
サクラは心配性で自分の国からファンメルに来るまでに、各地の危険生物についてかなり調べたらしい。
そんな彼女が挙げる危険領域は様々で、例えば、飛竜飛び交う『緑の峡谷』、水龍の眠る『嵐の大洋』、未知の命育む『未開大森林』など聞くだけで頭が痛くなるものばかり。途中でサクラが怖いはずなのに目をキラキラさせているので、止め時を見失ってしまった。
「サクラって、怖いものを調べすぎたせいで、一周回って好きになっちゃったんじゃない? そういう話」
「わからなくは……ないかも」
幽霊苦手なくせにホラー番組とかゲームをやったりする人の類だ。話をするだけなら問題はないが、本物と遭遇した時には、もはや命はないだろう。
ユーキもドラゴンなんて存在と戦って勝てるとは思えない。ドラゴンなんて言わば意志をもった自然災害のようなものだ。出会った己の不運を恨む以外何もできない。
身を震わせながら、テンションの上がったサクラを座らせて、マリーたちと食事の交代をする。干した芋は口の中が乾くが、水分が余裕なうちに食べるのならば問題はなかった。サクラも食べるうちにいつもの自然な表情に戻ってきたため、ユーキはホッとする。
「おい、急げ。もう隊長殿が荷物をまとめ始めたぞ」
どこかの班から騎士の声が聞こえたので、二人は急いで胃の中に水で押し込んで立ち上がる。
出発するときには暗くて気付かなかったが、学園の生徒は各々が学園の制服ではなく冒険者のような恰好をしていた。
例えば、サクラたちのような女性陣はスカートの下にしっかりと長ズボンを着て、極力肌の露出を減らしている。更に、関節や急所の一部をハードレザーアーマーで保護していた。
果たしてスカート部分が、どう役に立つのかはユーキには考えつかない。
オーウェンは金属鎧を着こみ、逆にアランはユーキと同じような軽装で来ていた。まじまじと観察しているとアランが睨んできたので、ユーキは難癖付けられる前にと配置へ戻ることにする。
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