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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第3巻 白銀の来訪者

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護衛Ⅴ

 顔を隠した少女は一歩前に出ると一礼した。


「アルトといいます。王都までの道程は大変だと思いますが、よろしくお願いします」


 アイリスと同じような高い声が発せられる。不思議なことに、そこまで大きな声ではなかったが、すっとユーキの耳元まで届いた。


「アイリスと同じくらいかな?」

「……私の方が、大きい」

「むくれるなよ、アイリス。そんなところで張り合っても意味ないからな。女は体のでかさじゃなくて、心の広さで決まるもんだって、クレア姉さんも言ってただろ」

「……デカい人に言われたくない」


 アイリスの目線はマリーのある一部へと注がれていた。幼い彼女なりにも思うところはあったのだろう。ユーキは見ざる、言わざる、聞かざるに徹することにした。


「これより七日かけて、王都へと向かう。全員配置につけ!」

「はっ!」


 多くの騎士たちが新たな馬車の配列に合わせて、移動を開始する。ユーキたちは馬車の右側へ、生徒会組は左側へと向かい、担当の騎士たちと軽くあいさつを交わした。


「よろしく。緊張しすぎると体力を無駄に消費するからね。気の抜き方を早く覚えられると良いな」

「馬鹿言うな、お前はいつも気を抜いてるだろうが。この子らを見習えや」

「げぇっ、聞いてたんですか隊長。勘弁っす」

「まったく。困ったら、この阿呆にどんどん聞いてくれ。頼んだぞ」


 出発前に騎士一名が拳骨で意識を失いかけたが、無事に出発することとなった。

 村の外へ向かう道の途中で多くの人が騎士たちを見送っていた。その中に村長とお世話になったジョージ夫婦を見つけて、ユーキは会釈した。村長は肩を揺らしてジョージと笑い、夫人の方はかなり驚いていたが手を振って見送ってくれる。


「知り合いか?」

「あぁ、記憶に残っている限りでは、一番最初に助けてもらった人だ」

「へー、何かあったのか」

「話すと長くなるけどね」


 初めてゴブリンと出会って追われたこと。村総出のゴブリン退治や王都まで引率してくれた冒険者たちのことを懐かしむように話した。


「マックス……? 赤髪の剣使いか」

「知ってるのか?」

「あぁ、クレア姉さんから聞いたことがある。新進気鋭のルーキーで依頼のほとんどで予想以上の早さで成果を出してるって騒がれてたチームだ」


 最初に会った冒険者なので、ユーキにはそれが基準だと思い込んでいたようだが、彼らはかなりの力量があったらしい。


「私も聞いたことがある。特に話題に上がるのが弓使いのレナさんっていう人で……確かエルフの方だとか。このままいけば、A級冒険者最年少記録更新だとか」


 やがて話題はギルド所属の強い冒険者だとか、魔法学園の凄い先生とかの話題になっていった。魔法学園には元軍属だった人も多く、強い先生が多いらしい。

 ギルドの冒険者にもいろいろなタイプの人がおり、一騎当千の英雄みたいな人もいれば、ダンジョンと呼ばれる遺跡に飛び込んで一攫千金を手にした人など話題には事欠かなかった。

 かつて、マックス率いるチームと一緒に馬車で通った道を歩きながら会話を楽しんでいたが、用意した馬車に乗っての移動ではなく、護衛として歩いている分だけ移動速度は遅い。

 思っていた以上に疲れがたまるので、盛り上がっていたトークも途中から口数が少なくなり、ユーキたちは黙ってしまった。


「ははは、体力の配分も考えずに話しながら歩くとそうなるんだよな。学生諸君、覚えておきたまえ。気を抜くのも大事だが、体力が一番大切だ」


 隊長に頭を殴られて昏倒しかけていた騎士が満面の笑みで話しかけてきた。普段から行軍や戦闘の訓練をやっているためか、汗一つかいていないようだ。


「ま、いつもお勉強のお坊ちゃん、お嬢ちゃんだと四時間も歩き続けるのは大変だわな」


 そう言うと馬車を先導していた隊長の方へと大きな声を上げる。


「たぁいちょおぉぅ! 昼休憩まだっすかぁ!?」

「えぇい! もう少し言葉遣いを覚えんか。そんなことでは、故郷の両親も泣き崩れるぞ」

「すんませぇん。さっき笑顔で送り出されましたぁ!」

「ぐっ、そういえばお前はあそこの村の出だったな――――って、そういうことではないわ!」


 隊長は隣の騎士へと声をかけると地図を確認しはじめた。

 太陽と自分の影を何度か見比べて、地図へと指差して部下へ印をつけさせていた。

 ユーキはこっそり腕時計を見ると時間は大体十一時頃だった。普段の昼飯ならすぐに準備できるが、ここは店などない街道だ。当然、料理は自分たちで用意しなければならず、調理方法次第では後始末もしなければならない。

 敵襲に備え、全員が飯を食べるわけにもいかないため、予想以上に時間がかかる。これが本格的な軍の進軍なら、さらに時間がかかることだろう。

 隊長の指示を受けた伝令の騎士が、この先で昼食の準備をすると教えてくれた。それを聞いて喜ぶユーキたちと目が合ったお調子者の騎士は、小さくウィンクを返す。

 少し広めの街道のため、道の脇へと馬車を止めて半数が飯の準備。残りの半数が見張りとなった。ユーキや生徒会組は一カ所に集められ、隊長直々に行軍の基礎などを教えられた。


「今日と明日は我々が君らの分の飯を作る。そして明後日からは自分たちで飯を作り、見張りを立ててもらう。手際よくできるように、二日間で手順を覚えるように。わかったな」

「はいっ!」

「よろしい。では、各担当の班へ行くといい」


 隊長の講義の終わりには課題を出され解散となる。実際に、魔法学園の実習訓練も本物の騎士団と共に行軍し、その場その場で課題を出されたり、講義を行ったりするらしい。

 何より大変なのは、授業と違ってノートなどに書き写すことができないことだ。言われたことを一度で覚えなければいけないのは、脳に糖分や酸素が十分に回っていないと辛いものがある。

 あの体力に余裕がありそうだったアランでさえ、ふらふらと歩きながら自分の班へと戻っていく。そのような生徒が大半の中で唯一、オーウェンだけが普通に歩くことができていた。

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