神殿効果Ⅰ
――――試験:初級魔法実践学
『課題:次の金属鎧を破壊せよ。手段は問わない』
「ちょっと、エリックさん。流石に悪意がありますよ」
「で、ですが会長の言った通り過去三年間の試験課題から出していますし……」
「それでも、常識の範囲を逸脱しています。何ですか、あの金属鎧は!」
十字架型の木に引っ掛けた鎧は、革などでできた留め具がないキュイラスというタイプの鎧で、全面が丸みを帯びている。つまり、正面からの攻撃を受け流すのには最適だ。おまけに魔法防御術式が雑ではあるが二つも展開されていた。
薄く黄色の膜が張っているのが見えるため、流石に周りの野次馬たちからも、やり過ぎだとの声が上がっており、エリーはエリックを問い詰める。
当のエリックは条件は破っていないの一点張り。これにはエリーも隣で聞いていた以上、否定はできなかった。
「ですが……これは第一学年には厳しすぎます。第二学年の『魔法解呪実践』の授業を習っていないと……」
苦虫を噛み潰したような顔になるエリーを端目に、ユーキはサクラたちと合流していた。
何故か、一緒にいるアランを睨みつける。
「で、なんでここに?」
「まぁ、成り行きってやつよ。こっちも抱えてるもんが多くてよ。隠れ蓑にさせてもらってるぜ」
「悪巧みか」
「ご想像にお任せってな」
初対面の時とは違い、アランは感情を表に出さず淡々と答える。どちらが、本当の姿なのか疑いを持ってしまう程に、だ。
「まぁ、そうだな。とりあえず、自分の身だけ守れるようにしておけ。俺が言えるのはそれだけだ」
「何が望みだ」
「おまっ、確かに初対面は最悪な出会いだったが、そこまで疑うことあるか?」
「いや、十分あるだろ。さっきアイリスを肩に乗せてた時、本気で魔法撃ちこもうか悩んだぞ」
横からマリーが飛び出てきてアランの前に仁王立ちした。
その右手には既に杖が握られ、アランの心臓へと向けられていた。そのアランに先程まで持ち上げられていた当人であるアイリスは、マリーの腕をつついて抗議する。
「マリーだめだよ。多分、アランは良い人だと思う。……多分」
「はっはっはっ、やっぱ信用ねーよな」
豪快に笑うアランにマリーも馬鹿らしくなたのか杖を収める。その目は、言葉とは裏腹に油断していなかった。
「まぁ、何かしたときには容赦しないからな」
「おう、いつでもかかってこいよ」
「……やっぱ、ここで潰しとこうぜ」
「マリー、やめなよ」
最後にはサクラまで止めに入る始末。女三人でやいのやいのと騒いでいると、いつの間にか隣にアランが立っていた。ついちょっと前まで、マリーを挟んで反対側にいたのにも関わらずにだ。
「詠唱中や魔法を撃った後、必ず術者は隙ができる。そこを狙うのは常套手段だ」
「何を……?」
「……無事試験が終わったら、思う存分に闘おうや。それで貸し借りは無しだ」
「勝手に人に貸しを作らせないでほしいな」
「おうよ。これで貸し一つだ」
喉元まで上がってきている不安を飲み込んで、ユーキはアランから離れる。
「みんな。行ってくるよ」
「ユーキさん。頑張ってね」
「教えられることは教えた。だめだったら私たちがまた教える」
「辛気臭い顔してねぇで、さっさと受かってこい!」
それぞれの応援を受け止めてユーキは手を挙げた。その先には、昨日よりも恐ろしく強固になった鎧が待ち構えているとも知らずに。
「ありがとう。絶対に受かってくる」
後ろで誰かが鼻で笑う声が聞こえたが、そんなものは無視して走り出した。生徒会のエリーとエリックが、オーウェンが何を企もうが正面から打ち破る。その闘志を燃やして、決戦の舞台へと足を踏み入れた。
「あ、その――――」
「――――目標はあの鎧でいいんですね?」
「そ、そうなんですけど――――」
エリーがどうしたものかと慌てながら左右を見回す。彼女としては一向に現れないオーウェンの姿を探しているのだが、影も形も見当たらず自らの許容範囲をオーバーしていた。
そんな彼女の前に割り込むようにエリックが現れる。
「――――えぇ、そうです。時間無制限。ギブアップするか、魔力切れになるかで不合格です」
「合格基準じゃなくて、不合格基準を言ってくるあたりに悪意を感じますね」
「……規則の確認だ」
「そいつはどーも」
早速ユーキは指輪を付けた右腕を掲げて詠唱を始めた。
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