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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第1巻 極彩色の世界

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水の都オアシスⅤ

 ――王立ファンメル魔法学園。


 王城の保有する東京ドーム数個分の総敷地面積の一画に構える学園で、内外問わず多くの才能あふれる子女を招き入れ、魔法使いを育成する機関である。王都オアシスの内部にある城壁に含まれる形で建造されており、有事の際は対空・対地・対物理・対魔法すべてに対する迎撃施設にも顔を変えることができる城でもある。


 そんなこの学園のモットーは「探求心こそが人を育てる」である。この世のあらゆることは魔法に通じ、またその逆も然り。些細なことも見逃さず、研究することを推奨している。



「規模が凄すぎて、何も言えなくなるな」



 これが王城でないというならば、本当の王城はさらに大きいということだろう。まさしく、規模が違う。この国の首都を落とすならば、それこそドラゴンでも召喚するしかない、と思わせるほどだった。



「さぁ、行きましょう。門番さんに冒険者ギルドのカードを見せなくちゃいけないから、準備しておいてください」



 城壁に沿って歩きながら入口へと向かうと石像が二体、門の脇に並んでいるのが見えた。日本でいう狛犬のような形で異形の生物が座っている石像だ。サクラは向かって左側の像を、バスガイドのように手の平を上に向けて示しながら説明する。



「これ、ただの石像に見えますよね? 実はこれ、ガーゴイルっていう動く石造なんです。この城の門番なのでギルドカードを見せたり、用件を話したりすれば通してくれます」



 その言葉に反応したのか、首を犬のようにぶるぶるさせて唸った。石像だと思っていたものが、それこそ滑らかに動くのは、高度なCGでも見せられているかのようであるが、現実に肉眼で見えてしまっている以上、まさしく動く石像そのものだ。



「アァー、戻ッタノカ、サクラ。通ルナラ早クシロ。人ガ近クニイルト眠レナイ」



 口を大きく開けて、あくびのような動作をする。噛まれればただでは済まないレベルの鋭い牙が並んでいた。思わずユーキは、それに首や腕を貫かれる痛みを想像してしまう。



「お疲れ様です。この人が薬草の採取を手伝ってくれるのですが、入ってもいいですか?」



 動く瞳はないのに、ガーゴイルが睨んだようにユーキは感じた。無機質な視線がユーキのギルドカードに注がれている。一体いかなる方法で認証をしているのか、ガーゴイルはその場から動くことなくカードを見つめるだけで、頷いて許可を出した。



「カード情報確認完了。冒険者ギルド発行ノモノト確認デキタ。ユーキ、トヤラ、入ルガイイ」



 元の位置に戻って質感が変化すると、ガーゴイルはしゃべらなくなった。



「いつも眠そうにして、あんな感じなんですよ。でも、悪戯に手を出しても絶対に敵わないので、気を付けてくださいね」



 苦笑しながらサクラは前へと進む。


 入って正面には城の中へと続く大きな扉があるが、サクラはそこに向かわずに建物を回り込むようにして歩く。時々、ローブを羽織った人やメイド、あるいは頭に耳のある獣人のような人が通り過ぎていく。その内の何人かは、珍しそうにユーキの顔を見て来た。恐らくは、ユーキがサクラと同じ黒髪だからだろうか。


 最初の建物を通り過ぎると、今までの場所は石畳だったり、土だったり、あるいは芝生だったりと整備された場所がほとんどだが、ある一角に木々と共にくるぶし程度の高さまで伸びた草が一面に生えている場所が目に入った。



「一応、他にも薬草が自生している場所はあるんですけど、ここが入り口から一番近くて採取をしやすい場所なんです」


「そうか。じゃあ、後は依頼書に描いてある絵を見て、似たような草を取っていけばいいんだな?」



 依頼書を開きながら、ユーキは確認する。そこには採取する物の手描きの図が載っている。しかし、お世辞にもわかりやすい絵だとは思えない。しかし、サクラはその絵のいくつかの場所を指し示しながら、特徴を解説していく。



「レメテル薬草とデメテル毒草は、ほとんど同じ葉の広がり方をしています。見分け方は葉の先端が外側に曲がっているのがレメテル薬草、内側に曲がっているのがデメテル毒草です」



 向かい側から依頼書の絵の葉の先端部分を指で丸く指し示す。そのまま三枚目のソラスメテル薬草の方も先端部分を人差し指で叩く。



「やっかいなのはレメテル薬草とソラスメテル薬草が、ほぼ同じ形をしていることです。なぜかっていうと、違う点が土から吸収した栄養の多い少ないだけだからなんだそうです」



 一枚目の依頼書をユーキが並べてみると、確かに絵が一緒だった。何が違うのか、並べてみてもほとんどわからない。



「色々な人が自分なりの方法で見分けるみたいなんですけど、共通して言えることは二つです。一つは「ソラスメテル薬草の周りに他の薬草が生えにくい」こと。もう一つは「レメテル薬草に比べて葉が多いらしい」ということです。ちなみに私は、葉っぱの模様が大きくくっきりしているかどうかも見ています」



 いわゆる網状脈の部分をなぞりながらサクラは説明する。絵も実際には濃く書かれているような気がしなくもないが、こればかりは実物を見てみないと判断ができないようだ。



「四葉のクローバーみたいに見つけられたら運がいい程度に思っていてください。最初から探そうと思っても見つけにくいからこその高報酬なんですから」



 ユーキが思っていたよりも、見つけるのは難しいようだった。採取道具を取り出しながら、宿泊費やこれからのことを考えると気が重くなってくる。


 それを知ってか知らずか、サクラもポーチから採取道具を取り出して袖をまくった。



「今日は時間もありますし、お手伝いしますよ。とりあえずレメテル三百本、デレメテル百本くらいいってみましょう! 細長い草は薬草の成長阻害になるので、どんどん抜いちゃってください」



 そう告げたサクラは、身を屈めて薬草を素早く回収し始める。その速さは傍から見ると、ただ雑草を刈り取っているだけのように見えた。しかし、その行為は「切り取る」、「しまう」という二つの動作に加え、「判別する」という確認作業がある。ユーキにはその判別が早すぎて、逆に確認していないのではないかと思う程だ。


 流石に任せっきりはマズイと、サクラに続いてユーキも道具を用意して後に続く。


 最初は何度も薬草か毒草かもサクラに聞いていたユーキだったが、十数本ほど確認した後は、毒草の時だけサクラに聞くだけで済むようになった。



「すごいですね。私が一人でできるようになったのは友人に一時間くらいつきっきりで教えてもらってからですよ」



 ユーキより二、三倍近く早いペースで周りの草を刈っていきながら、サクラはユーキの手際を褒める。ユーキはそれをお世辞だと真に受けず、薬草を採取するペースよりも見間違いが無いかを優先して袋に詰めていた。



「いや、まだまだだよ。ドンドン早くできるようにしていかないと」



 薬草は小さくて嵩張(かさ)ばらずに革の袋に収まるのはいいが、屈み続ける作業に腰や膝が何度か悲鳴を上げる。


 いくらか薬草をキリのいい数まで集めたところで休憩をはさんで、同じ作業を繰り返す。一時間もしないうちに、サクラの言った目標数まで集まった。



「レメテル薬草三百、デメテル毒草百三十本ですか。二人がかりとはいえ短時間でいい成果です。やはりユーキさんは筋がいいですね」


「手伝ってくれたのは嬉しいんだけど、初対面の俺にどうしてここまでしてくれるんだ?」


「同じ国の出身って言うことが大きいかもしれませんね。この学園に和の国の出身者って、私しかいないんですよ。王都の中を探しても何人いるか……」



 服に着いた草を払いながら、サクラは笑いかける。ただ、ユーキにはその笑顔がどこか寂し気に感じた。



「私はこの後、用事があるので失礼します。もし、何かあったら門番のガーゴイルさんに伝言を残してくれれば、私に連絡が来るので遠慮なく呼んでくださいね」


「あぁ、今日は本当にありがとう。助かったよ。また食事でも誘わせてくれ」



 ユーキも立ち上がりながら手を払って、頭を下げる。草の匂いが少し鼻についた。それほどまでに、没頭してやり続けていたからだろう。風がそんな匂いを含んだ空気をさらって行く。


 サクラは乱れた髪を指で直しながら、満面の笑みを浮かべた。そこにユーキが先程感じた暗い影は感じられない。



「本当ですか? じゃあ、その時は人気のスイーツとかでお願いしますね! それでは、失礼します」



 ポーチに道具をしまって、入口とは逆方向の建物に走っていってしまう。


 このまま続けようかユーキは悩んだが、初日ということもあり、ギルドへの納品に向かうことにした。今日の昼食から、一クルが一円とほぼ等しい価値だろうと試算していたユーキは、今日の成果を暗算で叩き出す。


 日本円にして六千九百円。サクラがいたことも踏まえて考えると時給千五百円くらいになる。なかなか、割のいい依頼と言えるだろう。


 リシアのいった通り何度か繰り返せば、少しずつではあるが、食事と宿に困ることなくお金を貯めていくこともできそうだ。


 当面の目標は、ランクD入りと金貨十枚程度くらいの資産を用意すること。そうすれば一先ずは安全を確保したと言えなくはない。



(できることなら、早くシャワールームが使えるようになりたいなぁ)



 そんなことを考えながらユーキは魔法学園を後にし、ギルドに足を運んだ。

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