見えざる魔法円Ⅰ
生徒会の面々が野次馬を払っている間、ユーキたちはオーウェンに大体のいきさつを話した。傍に控えている男女――――副会長と書記長らしい――――がいくつか質問をしたり、メモを残したりしていたので警察に事情聴取でもされている気分である。
一度、ユーキたちから離れて三人で話をしている間に、ユーキたちも集まって話をしていた。
「生徒会長がわざわざ出てくるってあんまりないんだけど、どうする?」
「どうするも何も、正直に話せばいいじゃない」
「甘いな。シロップより甘い考えだ。あの会長はな。いわゆる文武両道・品行方正・完璧超人なんだ。何の罪でしょっぴかれるかわかったもんじゃない」
「それはマリーとアイリスが普段から悪戯してるからじゃない?」
「そうとも言うー」
慌てるマリーとは対照的にアイリスの方はのほほんとしている。もしかしたら、魔力を使いすぎて疲れているのかもしれないが。そんな中、マリーは気にせずにオーウェンについて力説する。
「おまけにライナーガンマ公爵家の跡取り息子だ。流石のあたしの父さんでも出方を考える相手だぜ」
「王族の親戚か……」
いわゆる五爵。上から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵。この場にいたメンバーで言うならば、オーウェンがダントツ一位。次いでアランになるのだが、あくまでそれは跡取りだったらの評価なので微妙。そしてマリーの場合は伯爵だが、辺境伯なので実質侯爵級の扱いになる。尤も、何故、彼女が既にローレンスの名をもっているのかは、不明である。
アランといざこざがある分には問題ないが、オーウェンとは明らかな差があるため、分が悪いということだろう。
そんなびくびくしたマリーの後ろから、オーウェンが声をかけた。
「大体の話はわかった。少なくとも、これが私闘ではなく、アランからの傷害未遂事件だったと学園側には報告しておこう。――――――まったく、風紀委員がいたらもっと面倒ごとになっていたところだった」
「そうですか。では、よろしくお願いします」
「いや、君たちには別の罪状がある」
「「「――――え?」」」
さっさと家路につこうとしていたユーキたちをオーウェンは呼び止めた。
逆に被害者だと思っていたのに何らかの罪を問われてしまったユーキたちとしては嫌な予感しかしない。
「ここで飲食物を売っていたとのことだが、生徒会か学園へ届け出はしているのかい?」
「………………あー」
全員がフランの方へと目線を向けると、彼女は気まずそうに目線をずらした。
気が逸り過ぎたせいで、一番敵に回してはいけないところに喧嘩を売ってしまったようだ。
「えーと? 学園の生徒会規則によると……そういうことをする前には……。うん、間違いないね。ちゃんと許可が出ていない以上、違法行為になるよ」
「悪意のない笑顔なのに、胸が痛みます……」
初歩的なミスというダメージに追い打ちをかけるように、オーウェンの言葉が突き刺さる。
「うーん。とりあえずの判断としては、稼いだお金に関しては生徒会預かりということで一時保管かな。まぁ、今のところ食中毒者はいないみたいだし、問題がなければ全額返却されることになると思う」
「残念だけど規則だから仕方ないな」
ユーキが諦めるようフランに視線を向けると、彼女も大人しく頷いた。
「先日、入学したばかりというのは言い訳になりませんからね。今度はしっかり隅々まで読み込んで活動させていただきます」
「わかれば、よろしい。では、これは預からせていただくよ」
フランから貨幣の入った革袋を手渡しされると、それを隣の男子にそのまま預ける。
「じゃあ、今度こそ失礼しますよ」
「いや、別件でもう一つ」
「まだ、何か」
これにて一件落着という形になりそうなので、ユーキたちが立ち去ろうとするが、再びオーウェンがそれを遮る。流石にユーキも暑さも手伝ってかイライラとしてしまう。
「ユーキ君。我々生徒会としては、『君の聴講生という身分を認めない』という意見が出ている」
「それは、どういうことですか」
いきなりの否定にユーキは驚きを隠しきれない。対してオーウェンは涼しい顔で対応する。後ろに控える生徒会役員の二人も同様だった。
「理由を聞いても?」
「もちろん。そもそもこの学園は貴族の子女ないし才能ある若者たちが、魔法という一つの知識体系・技術体系を学び、より深く知るために門戸が開かれているのは君もわかるね」
ユーキは無言で頷いて、先を促した。
「君は学園長の推薦で聴講生として、ここに好きな時に出入りして授業を聞くことが許されている。しかし、我々としてはそのような中途半端な存在は許せないということだ。授業を受けるなら受ける。受けないなら受けない。ハッキリした立場をとってほしいと思っている」
「そもそも学園長が決めたことに生徒会が口出しして大丈夫なんですか」
「学園長が絶対ではない。抗議する権利くらいは我々にもある」
「そうですか。じゃあ頑張ってください。みんな、行こうか」
オーウェンの言おうとしていることを把握したユーキは、話を切り上げて帰ることにした。
しかし、振り向くと誰もその場から動こうとしない。あのアイリスですら目を丸くして驚いている。
「みんな。どうしたんだ」
「いや、だって大切な話なのに終わらせちゃっていいの?」
「大切な話も何も、『相手の主張だけを聞くだけであって、議論じゃないだろ』。そんな不毛な会話に付き合う程、暇じゃない」
「不毛な会話、というのは聞き逃せないね。ユーキ君」
「事実ですよ。オーウェンさん」
「おい、いくら何でも不敬が過ぎる……!?」
控えていた書記長が前に出て文句を言おうとするが、オーウェンはそれを遮った。
「一応、君の言い分を聞こうか」
「一つ目、『中途半端は許せない』。これはあなたたちの主観的な感情であり、規則でも何でもない。二つ目、『授業を受けるかどうか』は、学園長に話をした上で決めたことだ。そこに他者が横槍入れるのはお門違いだ。そして、三つ目は……」
はっきりと大きな声で指を立てながら説明をしていく。ユーキの口調も悪い癖が出たせいか敬語が抜け落ちていた。そんなユーキの主張にオーウェンの顔に陰りが見える。
「我々? いつから自分の意見を生徒全員の総意と勘違いしているんだ。自分の権力の大きさを勘違いするな」
「――――なるほど。では交渉決裂ということですね」
「そもそも、交渉じゃなくて、そちらのわがままだって言ってるのがわからないか? さっきのアランって奴とやっていることが同じだぞ」
「――――あっ……」
最後の一言を言い切った瞬間、今まで黙っていた副会長の女子が声を上げた。その目は恐る恐る、オーウェンを伺うような動きをしている。
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