双龍Ⅳ
森林火災の心配も無くなり、勇輝はほっと息をつく。
流石にこの疲れた状態で慣れない水魔法を使うことになっていたら、宿にまで無事に帰れるかどうか怪しかっただろう。もし、勇輝が魔法を使わないとなっていたら、魔法が使える桜だけで火災を止めなければならなかったかもしれない。
「これ以上の被害は出ないと思うけど、焼けちゃった木は……」
木や草花に妖精が宿っていた姿を見たことがある身としては、どこか思うところがあるのだろう。桜は罅割れて黒くなってしまった木々を悲しげに見つめる。
そんな彼女に巴は首を横に振った。
「いえ、朽ちて倒れても新しい木や虫たちの栄養になります。木としては早い天寿を全うしたかもしれませんが、その死は無駄にはなりません」
その言葉を背中越しに聞きながら勇輝は肯定、否定のどちらの考えも抱いていた。傍から聞けば正論だが、当人であるならば憤りを覚えるだろう。何故、こんな目に合わねばならないのだ、と。
それは、先程浮かんだ疑問に対する一つの答えであったかもしれない。命の重さなど結局のところ、己の独断と偏見でしか判断していないのだ。それはある意味では究極の自己中心主義の一端なのかもしれない。
こちらの世界に来てから、魔物であれ人であれ、命の奪い合いを目の前で経験してきた。それは今までの、そして、あちらの世界であれば――――少なくとも、日本では――――これからも経験することが無かったこと。
「(……こちらの世界にいる限り、嫌でも命のやり取りを考えなきゃいけなくなる)」
当たり前だが、今までは目の前のことに必死で気付いていなかった振りをしてきた。気付いたとしても、すぐに何とかしなければいけないことがたくさんあったから、考えずに済んでいた。
でも、それも限界だった。完全に自分の中で人の命を奪いとることがどれだけ容易なのかを知ってしまった以上、目を逸らし続けることは不可能だ。
自分の力と価値観。その不揃いな醜さに戸惑いを覚えていると、小龍が声をかけて来た。
「さて、これでお互いの条件は満たされました。特にこれ以上何もなければ、退散させていただきますが……」
「おい、無駄だとは思うが、一応言っておく。せめて、正式な手続きを踏んで入出国しろよ」
「すいません。自分の方は急を要すると判断して密入国させていただきました。兄の手続きについては、不可能だと思うので罪にしてもかまいません。後の処理はそちらでお願いします」
隆三の警告に、悪びれた様子を一切見せない小龍。
隆三としては、わかり切っていた答えなので驚くことはなかったようだが、それでも実際に目の前で言われるのは別だ。せめて、いま気付いたとか、申し訳なさそうにする仕草があったのならば、溜飲も下がるというもの。
「それに、そちらの国の結界の不備にも気付けたでしょう。反省点として術式改良に繋がると思いますよ?」
「不備じゃねえ。わざと開けてあるんだよ」
「言いわけは見苦しいですよ。まぁ、この国がそう言った問題で困るのは関係のない話なので、こちらは失礼しますね。青龍、頼む」
小龍が告げると、一刻も早くこの場を去りたかったのか。間髪入れずに空気を震わせるほどの勢いで、風が一気に吹き荒れる。
顔を庇った勇輝たちが腕を下げると、既にそこに二人の姿はなく。はるか上空に点のように小さく浮かんでいた。
「(……本当に全力の状態で相手しなくて良かったな)」
それは大龍と共にいた青龍に対しての感想でもあったが、同時に見逃していたもう一匹――――いや、もう一柱の敵に対してだった。
勇輝が見上げた時、魔眼には微かにだが、上空に浮かぶ今まで目の前にいただろう青龍とは別に、細長い生命体を認識できた。それは認めたくない事実だが、李家には一人につき、一柱の青龍が相棒として、存在しているかもしれないということだ。
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