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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第3巻 白銀の来訪者

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杖交わるも多生の縁Ⅳ

「うちの料理長に聞いてきたらさ。氷の塊を包丁で削るとユーキの言うかき氷は作れるみたいだぜ」

「あとは砂糖と果物をまぜてシロップを作ればいけるかも……」

「――――と言いたいとこなんだけど、一つ大きな壁がある」


 希望が見えてきたところにマリーの言葉が待ったをかける。


「相当な量を用意する前に暑さで氷が溶ける」

「「「あ……」」」


 暑さを紛らわすためにかき氷を食べたいのに、用意する前に暑さで氷が消えるのは本末転倒である。

 つまりは、溶ける前に高速で作り出すか。あるいは解けない空間を用意するか。


「多少の冷たい空間なら維持できなくはないけど……。ずっとは大変かも」

「さっきやってもらったけど、うちの料理長でもちょっと間に合ってなかったぜ」


 頭を悩ませている中で、ユーキがふと考え付いた。


「物理的にアイスボックスを用意するならいけるんじゃ」

「物理的に……?」

「アイスボックス?」


 疑問符を頭に浮かべるサクラたちに説明をしてユーキは準備にとりかかった。

 準備といってもそこまで時間はかからず、すぐに実践に取り掛かれる状態だったのは、マリーの家という便利さがあったからだろう。

 用意したものはアイリスが作り出したかき氷用の氷塊。料理長から借りてきた和の国製の包丁。そして、ガラス製の器。それと簡易的に作ったシロップである。そして――――


「氷で作った……箱?」

「ずっと魔法で涼しい空間を作るのが大変なら氷を先に作って、その冷気を利用した方が早いかなって。可能だったら木の枠とかだけでも先にあるともっと長持ちするかもな」


 いわゆる昔の冷蔵庫方式で涼しい空間を確保することに成功したわけである。あとはそこに冷やした容器を置いて、包丁で氷を削るわけなのだが、ここでアイリスが大活躍した。


「これ、ちょっと楽しい……」


 包丁を魔法で高速に動かして、氷の塊を削りだすのである。その速さはまさに目に止まらないほど。

 あっという間に、あらかじめ冷やしておいたガラスの容器に氷が溜まっていく。


「まぁ、本当は真空を利用したタンブラーのような器があれば楽なんだけど――――……」

「なんだい? そのタンブラーって」

「いや、何でもない」


 独り言をフェイに聞かれ、ユーキは何も言っていないことにした。

 以前、腕時計を見られたことがあるので、自分の世界の物品についてはできるだけ出さないようにしているのだ。変な勘繰りを受けない、というのもあるが、そういうところに目を付けられると良いことがないという嫌な予感があるのが大半の理由だ。


「完・成!」


 いつもよりもテンションが高いアイリスの目の前にはかき氷の山が六つ作られていた。途中から包丁の数を増やして、アイリスが三本同時に操って削った結果である。

 サクラがとろみのあるシロップを上からかけて全員の前に差し出した。


「まぁ、試作品だからね。味の保証はできないけど」

「それでもシロップ単体ならおいしいので、そこまで外れた味にはならないと思います」

「話すより食え、だ。早速、味見しようぜ」


 全員がスプーンをもって口に入れた。


「(うーん。氷の感触はすごい細かくていいんだけど、シロップの味が果物の酸味とマッチしてないんだよなぁ。やっぱり、現代の商品開発者の努力には敵わないか)」


 想像もとい期待していた味とは違いユーキの中に落胆が生まれた。肩を落としながら周りに目をやると肩をプルプル震わせていた。


「あぁ、期待外れで悪かったな。これじゃあまり……」

「「「「「頭がいたーい!」」」」」

「――――――は?」

「なにこれ。すごく冷たくて頭キンキンする」

「でも、止められない。ナニコレ、おいしすぎるんだけど」

「はまる」

「はあぁぁぁあぁぁ……」

「これは……これは……」


 女性陣の反応に目が点になっているとフェイが肩に手を置いた。もう片方の手はこめかみを揉みしだいている。


「いや、君ね。確かに味だけだったら何十倍も上手いものが街には溢れているだろう。でもね、僕たちがいま求めていたのは、まさに()()なんだよ」

「はぁ……」

「いいかい? 僕たちに必要なのは暑さを忘れることだ。冷たい飲み物はそこら中にあるけれども、ここまで()()()()()()()()はない」

「そこからは私に言わせてくださいな。若い騎士様」


 語り始めたフェイをフランが手で制した。顔が歪んでいるのは、まだ冷たさの衝撃が残っているからだろう。


「今、この食べ物はこの国でオンリーワンの存在。商会で言うならばここで手を付けておくべき商品なのは間違いないです。とりあえず、商会ギルドに作り方を登録して公開すれば間違いなく儲かります。商人の血がそう囁くのです」

「そ、そうですカ」


 最早、ユーキにはフランの異様な様子に顔を引き攣らせることしかできない。何とか絞り出した声も、裏返ってしまう。


「登録&公開後は宣伝です。マリーさん、この器はあと何個お借りできます?」

「え、多分百はいけるとおもうけど……」

「限定百個で売り出せば、さらに付加価値も上がります。善は急げレッツゴーです!」


 かき氷を一気に口に頬張ったフランは、ユーキの襟首を捕まえると扉に向かって駆け出した。


「さぁ、ユーキさん。商会ギルドに急ぎますよ」

「ちょ、まだかき氷食べ終わってなあぁぁぁぁぁ……」

「…………」


 どんどん小さくなっていくユーキを見送ってフェイは唖然としていたが、ふと目の端にほとんど手つかずのかき氷が目に入った。


「どうせ溶けてしまうのなら僕が……いやいや、流石に人が食べてたものをとるのは人としてどうかと思うし、間接キ――――」

「「いただき!」」


 アイリスとマリーがほぼ同時にユーキのかき氷へと手を伸ばした。ほんの一瞬ではあるが、先に動き出していたアイリスの方が早く器を掴み、自分のところへと引き寄せた。


「おいしい」

「あぁぁぁ。あたしももう少し欲しかったのに……」

「いや、作ればいいじゃないですか」

「あ、そうか」


 フェイの冷静なツッコミに早くも我に返り、自らかき氷を作り始めるマリーであった。

 この一時間後、魔法学園の中庭で限定百個のかき氷<いちご味>と<オレンジ味>が発売されることになったのである。

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