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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第3巻 白銀の来訪者

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杖交わるも多生の縁Ⅲ

 マリーの家、というよりは父である伯爵の家になるのだが、玄関でメイドに一言告げて食堂へ行くと素早く昼ご飯が用意される。中でも五人が喜んだのは、頭痛がするかと思うくらいに冷えた水である。

 この水を飲んだ時点で、フラン以外はかき氷のことなど頭から消えてしまっていた。


「マリーたちもここでお昼かい?」

「やっぱり、フェイたちも戻ってきてたんだな」

「そりゃあね。こんなに暑ければ訓練中に死者が出るよ。きっと王様も城の中でダウンしてるんじゃないかな?」


 伯爵お抱えの騎士であるフェイは椅子に腰かけながら苦笑いした。

 彼が言うには、実際に城勤めの人や騎士団に倒れた人が何人もいて、訓練どころではなかったらしい。金髪を片手でかきあげると、毛先についている汗の球が小さく跳ねる。

 ため息をつきながら、水を飲むとフェイの顔も少しばかり和らいだ。普段から眉間に皺が寄ってそうな顔も今はなりを潜めている。よく見れば周りの騎士たちも水を飲んで一息ついている人が多い。城では想像以上の暑さだったようだ。


「こんなに安全に水が飲めるのは、このファンメルと和の国くらいだからね。そういう意味では感謝だよ」

「他のところだとお腹壊しますからね」


 サクラも苦笑いしながら答えるが、ユーキはふと疑問に思った。


「そういえば、今まで考えたことなかったけど、この規模の大きな国ってどれくらいあるんだ?」

「確かユーキさんは記憶無くしてたんだっけ?」

「まぁ、そうなんだけど……」


 記憶など失っていないのだが、異世界出身であることを誤魔化すためだ。ユーキは致し方なく、表情取り繕って真面目な顔で頷く。


「サクラの故郷が日ノ本国。通称『和の国』。こっちでは二、三番目くらいに長い国だっけ?」

「うん。島国で水龍を祀っている国だよ。祀ってからは航海がスムーズにできるようになって、そこから国として認知されるまでに時間がかかったみたい。でも、そういう交易関係では、確実にトップクラスになると思う」


 マリーとサクラが簡潔に説明をしてくれる。日本と同じでどうやら島国らしい。ただ、船で海を渡る危険性から、行き来するのは商人や冒険者などの一部の者のみらしい。逆に言えば、それでも交易で上位に来るほどなのだから、相当な魅力と稼ぎがあるのだろう。

 そこにフェイが加わって他の国の説明を始めた。


「あとは人が仕切っている国だと蓮華国だな。ここと同じで王様がトップに君臨してて、絶対王政を敷いてるんだけど……あまり良い噂を聞かないな。ただ、軍事力は頭一つ抜けるほどに強い。一対一で真正面から全面戦争したら間違いなく負けるくらいには」

「まぁ、国名とトップが何度も変わっているけど、実際に長く続いている国家体制なところが怖いんだよなぁ」


 マリーが頷きながら目の前の皿に手を付ける。


「一番長いのは聖教国サケルラクリマ。星神を崇める宗教国家だ。今年で建国から八百年を迎える。きっとでかい式典が開かれるんだろうな」

「八百年か……すごいな」


 尤も、日本は二千六百年の歴史を誇っているわけで、ユーキとしても異世界基準だと比べようがなく、とりあえず褒める形に留めておいた。


「あそこは昔から魔王とか勇者に関する予言を出しててさ。あの蓮華国ですら喧嘩を売ろうとしないんだ」

「ま、潰した結果。魔王の復活が分からなくなって滅びました――――ってなったら困るからね」

「なるほどな」


 いわゆる四大大国といわれるのは、『魔導国家ファンメル王国』、『交易国家日ノ本国』、『軍事国家蓮華帝国』、『聖教国サケルラクリマ国』である。他にも獣人の共和国だとか、竜人の隠れ里だとか様々あることがわかった。


「さて、ユーキへの一般教養授業はこれで終わりにして、今日は何をしていたんだい?」

「あまりに暑いからさ。冷たい甘味を食べたいなって話をしていたんだけどさ」


 マリーがフランと共に今までの経緯を話すと、フェイが真剣に考え始めた。


「そういえば陛下があまりにも暑いから『ええぃ、城下の冷たい甘味が食べたいのだっ! 離せぇいっ!』って抜け出そうと暴れていたとか聞いたな」

「伯爵も滅茶苦茶だけど、王様も大概だなぁ」

「王族はストレス、たまるー」


 アイリスが食べ終わったお腹を擦りながら目を細める。満足したのか、既に座ったまま眠る体制に入っていた。


「もしかしたら、それを販売できれば王様とかの耳にも入ったりするんじゃないかな。まぁ、本人が直に来ることはないだろうけど」

「――――汚名返上のチャンス」

「それはむしろ逆効果だと思うんだけど」


 王様本人ならともかく、周りの大臣・貴族たちからすれば目の上のたんこぶが消えて清々している者も多いだろう。一度権力を失えば、二度と上がってこれないように叩き潰すのが貴族社会だ。そういう意味では、いかに善良な王が統治しようと変えられない部分ではある。

 しかし、フランの頭の中では既に捕らぬ狸の皮算用を始めているようであった。

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