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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第3巻 白銀の来訪者

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杖交わるも多生の縁Ⅰ

 暑さも盛りを迎え、石畳に浮かぶ蜃気楼が目にまで暑さを訴えかけてくる。幸いなことに水の都とも呼ばれる王都オアシスの水が熱気を抑えてこそいるが、それでも道行く人の顔には疲労の色が浮かぶ。

 厨房に立つ者は交代しながら杖をふって換気を行い、水魔法で冷気を部屋に満たす。宿屋の主人はたらいに水を張って帳簿を合わせ、頭から湯気を出して唸る。あちらこちらで風通しを良くして熱を逃がそうとするが、どこも間に合っていないようであった。

 逆にこれをチャンスと捉え、食べ物屋では冷たい甘味を売り出すことで商売魂たくましく、稼いでいる店もそこら中に存在した。


「で、なぜ俺はここにいるんだろうか」


 異世界からの来訪者、ユーキ・ウチモリは気怠そうになりそうな表情を笑顔で塗り固めて呟いた。その手には手作りの旗が握られ、目の前には少しばかりの行列ができていた。


「そんなの決まっているじゃないですか。『お金のためです』」


 その横で手際よく()を捌きながら金髪の少女が答えた。

 真祖の吸血鬼、フラン・パーカー。商会を運営していた先祖返りの吸血鬼、フェリクス・パーカー・ド・タウルス男爵の娘である。商会の娘らしく計算が得意で、暗算でおつりを手渡しながら元気よく答える。


「まぁ、あたしは稼がなくてもどうにでもなるんだけど……。これも社会経験ってやつ?」


 商品を渡した後、ため息をついて伯爵令嬢と思えない表情でマリー・ド・ローレンスは答える。額に張り付いて赤い髪を払うと同時に、浮かんだ汗の玉を拭って、次の注文の商品の器に手をかけた。

 色鮮やかな商品に目の前の女子集団がテンションを上げている。


「働くより、食べる方がいいー」


 一際、背の小ささが目立つ、飛び級魔法少女のアイリスは、杖を振りながら次の商品の準備に入っていた。その顔はいつにもまして半目より糸目、といった方がいいくらい疲れているようだ。杖先も少しばかり震えているように見える。見ているだけで涼しそうに見える水色の髪だが、本人の顔は暑さで真っ赤だ。


「あはは、何でこうなっちゃったんだろうね」


 ユーキと同じ黒髪を耳の上に人差し指で上げたサクラ・コトノハは、後ろにあったいくつかの容器から、赤い印の入ったものをマリーへ手渡す。苦笑した拍子に彼女の頬から顎へと汗が伝い、ぽとりと地面に落ちていった。

 ことの発端は数時間前に遡る。





「あっっっっっつぅぅいぃぃぃ……」

「それ言うともっと暑くなるから……」

「私も……この暑さは厳しいです」

「「……………………」」


 上から順にマリー、サクラ、フラン、そしてユーキ&アイリスである。特に最後の二人に関しては、答える気力すらなく、完全に教室の長机に突っ伏していた。

 黒板には先ほどまで授業をしていたレオ教授のかわいい擬人化された絵たちが描かれている。そこを見つめながらサクラが頬杖をついて呟いた。


「何か……冷たいものが食べたい……」

「食堂も商店も遠いの、だー」


 突っ伏したままアイリスが足をぶらぶらさせて不満を表す。


「魔法で氷とか作れないのか……」

「氷を作るのはできるけど……」

「味気ないのー」


 どうやら、氷を作るのは水の魔法に属しており、中級魔法として習得していたらしい。

 しかし、氷だけを食べても満足感としては低く。彼女たちが望んでいるのは「甘くて冷たいもの」であった。

 ――――夏、氷、甘い。

 このキーワードからユーキの頭の中に浮かんだものが一つあった。


「かき氷、食いたい」

「何ですか。それは……」


 吸血鬼なのにも拘わらず、太陽の光を受けながらフランは聞き返す。そもそもなぜ彼女がここにいるかというと、引き取られたマリーの父にして、辺境伯であるアレックス・ド・ローレンスに学校へ通うように命令されたからである。

 彼女としては商売を始めて、父を超える商会を作りたいという野望がある。しかし、命を救ってもらった手前、駄々を捏ねるわけにもいかず、ましてや支度金もないわけで。マリーたちと共に魔法学園に通うこととなった。

 もちろん、伯爵もすべて信用しているわけではなく。マリーたちを傷つけられないように特殊な魔法契約を結んだらしい。尤も、伯爵には「それ以外の思惑があったように感じる」とはマリーとここにはいない伯爵の騎士団に最年少で所属するフェイ・フォーゲルの談である。

 そんなことは気にも留めず、前からいた仲間のようにユーキはフランへと説明をした。


「氷を薄くそぎ落としたものを重ねて、上から果物のシロップをかけて食べるんだよ」

「へー、氷にシロップをねー」

「おいし、そう、かもー」


 マリーはシャツの首元をパタパタと仰いで立ち上がった。


「ここでうだうだしてても暑いだけだし、帰ろーぜ」

「そうだね。午後の講義は今日はないものね」


 サクラとアイリス、ユーキもその言葉に頷いてゆっくりと腰を上げる。ふと近くのサクラをみるとシャツが肌に張り付いて、色々なものが薄く透けるのが見えてしまった。首の骨が鳴る勢いで別の方向へと視線を向けると、そこにはマリーの笑顔があった。

 しかも、「おもちゃを見つけた子供のような」笑顔である。マリーはわざとらしくシャツを引っ張るとその豊満な胸を強調する。


「おや? ユーキ、いきなりどうしたのかなぁ?」

「イエ、ベツニナンデモナイデス」


 幸いなことにサクラとアイリスには気づかれることなく、ユーキはほっとした。気を抜いたところで、普段はいないもう一人の存在に気づき振り返る。

 その視線の先ではフランだけが顎に手を当てたまま独り言を呟き続けていた。

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