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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第1巻 極彩色の世界

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水の都オアシスⅣ

 採取道具をそろえるためにギルド商店に入ると、中にいたサクラと目が合った。



「あ、検査は終わったんですね。冒険者として、これから頑張ってください」


「さっきは助かったよ。おかげで無事に登録できた。今から、さっそく依頼を受けようと思ってるんだけど、何か気を付けることってあるかな?」


「うーん。そうですね。依頼書を見せてもらっても良いですか?」

 

 

 サクラは微笑みながら右手に持った依頼書を見つめてくる。


 ユーキはサクラとの会話で彼女の話し方に違和感をもったが、その正体に気付くことができなかった。とりあえず、依頼について教えてもらえそうなので、そちらに集中することにする。サクラはユーキの渡した依頼書を読み、何かに納得したように頷いた。



「これ、私がいつも受けてる依頼ですね。ユーキさんは初めてでしょうし、必要な物を選んであげますよ」



 自慢気に腰に手を当てて胸を張ってくるサクラ。経験者からのアドバイスほど重要なものはないので、ユーキは彼女の指示に従うことにした。すると、サクラは素早く棚から様々な道具を引っ張り出して、自身の手で抱えていく。流石にサクラに持たせたままなのは気が引けるので、慌てて彼女の手からユーキは商品を受け取ろうと近付いた。



「えーと、採取用万能短剣に薄革手袋。あと仕分け用に革袋三つですね。水筒は持ってますか?」



 たくさん並ぶ棚の間を進みながらユーキへと持ち物の確認をしていく。基本的にユーキは、サクラの紹介する品のほぼすべてを買うことになった。



「大体これで、二千五百クルになります。銀貨二枚、大銅貨五枚分ですね。お金の方は足りますか?」


「あぁ、まだ余裕はある。大丈夫だ。ありがとう」



 そういって、店主――といってもギルド職員だが――にお金を払い、肩掛けのバッグにしまう。サクラが物珍しそうに肩掛けバッグを見ているが、そこにはあえて触れないことにした。


 内心では、この世界にない素材や製法だったらマズイ、などと思っていたが、特に言及されずに済んだことに胸を撫でおろす。ただ、買い物をした結果、かなりバッグが膨らんでいる。持ち運びに苦労しそうだと判断し、依頼より先に宿を探すことを優先することにした。



「そうだ、サクラ。荷物が多いから宿を借りて荷物を整理したいんだが、どこかいいところ知らないかな?」



 店先でサクラは三秒ほど唸った後に、自信なさげに答えた。



「私の学園の近くに、料理のおいしい食堂付きの宿があるんです。そこなら、朝食と夕食付で一泊五千クルで、王都の中でもかなり良心的な価格だと思います。普通なら一泊一万を超えることが多いですから」


(銀貨三枚分……王都ということを考えれば大分安いんだろうけど、依頼の具合によっては金欠になるな)



 頭の中で計算しながら、ユーキは今後の予定を考える。腕時計を盗み見ると、正午をぎりぎりまわっていなかった。これから採取活動もする時間があると判断し、サクラの推薦する宿に即決する。



「わかった。悪いけど、そこまで案内してもらっていい?」


「はい、もし良かったら街を少し紹介しながら案内しますよ。まだ、来たばかりでよくわからないと思いますし」



 サクラの申し出にユーキは苦笑する。文字通り来たばかりで、まだ到着して一時間も経ってない。何の案内もなければ、おそらく迷子になるだろう。

 ギルド入り口を出た辺りでユーキは頷いた。



「あぁ、助かるよ。お礼に昼ごはんくらいは奢らせてくれ。年下に世話になりっぱなしっていうのは、性に合わないんだ。まだ食べてないだろう?」


「え、本当ですか! やった! ではさっそく、行きましょう。善は急げ、ですよ」



 この言葉を皮切りに、サクラによる王都ツアーが始まった。


 王都オアシスは城正面の魔法学園を中心に東西南北の四つのエリアに分けられる。


 北区は大半を王城が占めている。かなりの騎士を常駐させているためか、大きな訓練場が数か所に分けてあり、常に厳重な警備体制が外見からはわからないように敷かれている。


 また、外交関係のために用意された庭園などもあり、王族は執務などの合間では、そこで休憩をすることも多いとか。


 当然、城の内部には謁見の間をはじめとした様々な部屋があり、王族と多くの侍従・騎士がいる。



「何かしらの陳情は王様本人がしっかり聞いてくれるらしいです。あまり、そういうのは他の国ではないので珍しいですよね。あ、それで今来た側なんですけど――――」



 その城の反対の南区は商業施設と低・中価格の住宅または宿泊施設、ギルド関係のものが多い。王都というだけあり、非常に出入りが多いので、唯一の出入り口である南門からすぐに商人や冒険者などが出れるようになっている。


 逆に言えば攻め込む敵は、この冒険者たちも相手にする可能性が非常に高いということにもなるのだろう。


 東区は鍛冶や紡績・縫製などの生産業を主に行っている。この都市では風が常に西から東へ吹くため、火事などが起こったとしても最小限の範囲で済むように配慮しているらしい。


 西区はちょっと高級な住宅が並び貴族なども住んでいる。あくまで大雑把な区画なので当然、東区に住む貴族もいれば、西区に住む平民もいるとのことだった。


 そんな簡単な紹介をしながら、北のメインストリートの店情報も同時にサクラが解説する。どの店のデザートがおいしくて、ランチのオススメなどもバッチリ記憶しているのは、やはり女の子だからだろうか。



「へぇ、こっちに来てから半年なんだ」


「はい、こちらの魔法学園に素晴らしい先生がいると聞いて、両親にお願いして留学してきたんです。私の習っている魔法とは違う形態なので、興味が湧いてしまって」



 オススメの店を紹介されたので、さっそく入店して昼食を食べながら、サクラのここに来た経緯を聞くことになった。その過程で一番困ったことは、メニューの文字がわかっても食事の内容が何か全くわからないことだ。


 例えば、元の世界で言うとアクアパッツァ。イタリア料理に興味がある人が聞けばわかるかもしれないが、知らない人は全くわからない。ちなみにそれは魚介類をオリーブオイルやトマトと一緒に煮込んだものらしい。


 悩んだ結果、ユーキは天に運を任せることにして、手ごろな値段の物を選んだ。その結果として目の前にはミートスパゲッティのようなものが届く。そして、サクラの前にはサンドイッチのような食べ物が置かれた。


 これならば安心と食べ始めたユーキだったが、一口食べた瞬間に口の中が燃えるように熱くなる。



 「むふっ!?」



 見た目スパケッティのくせに、乗っていたソースがかなり辛かったのは予想外だった。咳き込む程ではないが、不意打ち気味だったこともあり涙目になってしまう。


 ふと前を見ると、サクラが口元に手を当てて笑っていた。



「こんな辛いなら、教えてくれてもいいじゃん……」


「ふふ、ごめんなさい。まさか、初見でそれを頼むとは思ってなかったんです。それに、私も頼んだことがない料理だったから……」



 思わず非難の声を上げてしまったユーキだったが、サクラもその料理自体は興味があったらしく見てみたかったらしい。


 最初からサクラに料理の内容を聞けばよかったと後悔する。不幸中の幸いで、辛い食べ物はそれなりに好きだったので、ユーキは水を飲んで落ち着いてから食事を再開する。そのまま、王都のことや魔法について談笑しながら食べていると、いつの間にか一時間近くが経過していた。


 食事を終え、次に向かった所はユーキの希望していた宿屋だった。


 北区の城がだいぶ近付いてきたところを西区側に入ると、大きめの石造りの家がある。二階の窓の木枠がせり出し、雰囲気も中世ヨーロッパの街をさらに彷彿とさせる外観だった。


 宿の主人に二日分の金を前払いし、二階の奥から二つ目の部屋を借りることにする。不要な荷物を置いて鍵をかけて、宿を出た。



「ありがとう、サクラ。おかげで一日目でかなり街に慣れた気がするよ」


「どういたしまして。じゃあ、さらに慣れるために学園の薬草採取にも行きましょう!」



 くるりと振り返って歩き出す。ユーキは慌てて、後を追いかけて質問する。



「いいのか? 俺が学園の敷地内に入っても」


「はい、一部の冒険者の方は学園に自生している薬草を取りに来ます。私のお手伝いで来てもらったと話せば、もっと入りやすくなりますよ」


「そうか。それは助かるな」



 メインストリートには向かわず、小道に沿って城側に向かう。ところどころに小川のような水路が点在しているのは、やはりオアシスの名を冠する水の都というべきか。ユーキの元いた世界にも水の都と呼ばれる都市があったが、流石にそれには及ばないものの、ユーキはその光景に目を奪われる。


 何度か小さな橋を渡り、数区画歩き続けると急に開けた通り道に出た。


 建物の陰から出たことで、陽の光に目が眩む。日本の夏とまではいかないが、それなりの日差しが雲の切れ目からユーキたちを照らしていた。


 かざした手の隙間から見ると、外壁と同じように水堀と輝く壁が見える。城壁の向こうには南門からは見えなかった城が見えた。中央の城と比べれば、月とすっぽんの差であるが、それでも尚大きかった。



「ここが私の通う学校――王立ファンメル魔法学園です」

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