あらすじ
むかし、一人の皇子が謀反の咎で処刑された。そして皇子の妻もまたその死を嘆き自死した。
彼の魂は、呪縛によって処刑の地に縛られ続けたまま、天に還ることが叶わず転生することができなかった。しかし妻は次の世に転生し、新たな生を受けていた。
そんな二人がある月の夜に邂逅する。一人は実態のない魂として、一人は現世のものとして。
言葉のない邂逅から様々な事件の中で徐々に距離は近づいていく。
そして妻が常世の者に会うことのできる力を得て、やっと触れ合えた時が二人の別れの時だった。
「常世の者と現世の者とが繋がることは禁忌」そう伝え、妻から己の記憶を消して皇子は去る。
しかし、わずかな希望を感じて。
妻の記憶は消え、唯の姫君に戻ったが、彼女はわずかに残る記憶の残滓を追い皇子を呪縛から解放する術を得る。皇子の魂を天へと昇華させ、来世で生まれ変わりまた巡り合うことを約束した。
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■ 登場人物 ■
白露内親王(作中表記:皇女あるいは内親王)
主人公。山辺皇女の生まれ変わり
乳母
白露内親王の乳母。幼い頃に大津皇子の姉、大伯皇女に仕えていたことがある
坂田
白露内親王の侍女。乳母の娘。
宅馬
白露内親王の舎人
古麻呂(行者)
大峰山の行者。朝廷から二上山の怨霊封じを命じられているが霊力はさほどでもない。内親王と大津の魂との繋がりに気づき、内親王に接近する。
大津皇子(貴公子)
謀反の疑いで処刑されたが、怨霊を恐れる朝廷により術を施され、地に縛り付けられたままこの世とあの世の境に魂がとどめ置かれている。
山辺皇女
大津皇子の妻、夫の処刑に絶望し自害。大津との間に子がいるが奸計により殺害された。