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蝶々の宴  作者: 和紀河忍
第三章
10/14

第3章 その5

   6


(皇子よ)

 さやさやと草木が揺れるような呼びかけに皇子は天を仰いだ。

 昏い夜の彼方から、キラキラと七色に輝く鱗粉が降り注ぐ。

 夜空に大きく翅を広げる黒い蝶がゆったりと舞っていた。


ーーー魂の使いか?

 誰何すいかする。

 蝶々は静かに皇子の冷たい指先に舞い降り翅を休めた。

ーーーこの吾に何用か?

(貴方を、やっと見つけました)

「・・・もしや、姉上か?」

(私も今は現世の身ではありませぬ)

「今はどちらに?」

(いづれ、天の門が開くでしょう。私はそこで汝を待っております)

「吾の魂は呪によって捕われこの地へ縛られている。ここから動くことはできぬのだ。」

(あの者たちは未だ汝の魂を縛っておるが、いづれ時は来よう)


皇女との逢瀬の時に感じた黒い行者の気配。

ーーーあの行者、やはり、あの者たちの手の者だったのか。


 吾を封じようとした行者、おそらくは朝廷から命を受けて送られてきた者だったに違いない。

 が、陰陽の術者も大峰の行者も、亡き父帝、天武の意志を継ぐ者たちが殆ど。父帝の意志を継ぐ吾を封じ込めようと合作するものなど居るはずはない。

 現朝廷の県犬養三千代や藤原不比等らの言いなりになるような者などあの地の者の中には、まずいるはずはない。

 それに加え、今は吾を二上山ここへ封印した百済人の術者ももう既にこの世を去っている。これだけの時を経て、吾自体ももうすでに人々の記憶からは薄い。このような依頼を受けるような輩は、吉野から追われたような多少問題を抱える小遣い稼ぎのはぐれ行者ぐらいなものであろう。ならば、二上山へ送られて来るような術者など、たいした力を持つ者などいるはずはない。


 皇子の指先に留まっていた蝶々が、黒い羽を広げた。七色の鱗粉が四散しながら、小さな星のように闇の中へ輝いた。

 優美でたおやかに翅を動かし虚空へ舞い上がり、悠然と月の光の中へ消えていった。


 皇子は冷たい磐座へ腰を下ろして、天を仰いだ。

ーーーもうすぐ、還るべきところへ還らねばならぬのか。


 溜め息まじりに呟いた言葉の中の真意とは。

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