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私の「初恋」

作者: 本田

 昔から人づきあいが苦手な私にとって、積極的に話しかけてくれる友人はありがたい存在でした。親の付き合いがあるから私と仲良くしてくれた子もいました。体操クラブが一緒だったから、国語教室に通っていたから――色々と理由はあっただろうと思いますが、仲良くしてくれた子は多く居ました。ですが、十年以上経った今、彼らないし彼女らの顔をはっきりと思い浮かべることはできません。名前さえ思い出せないのです。そしてきっと、もう二度と会うこともないでしょう。

 そんな、幼稚園生だったころの思い出たちのなかに、ひときわ輝くものがあります。仮に、彼の名前を佐藤君としましょう。彼と知り合ったのは、幼稚園二年目の年中組の頃でした。クラスには花の名がつけられていましたが、ひまわりだったかばらだったか、わかりません。なぜ彼と知り合ったのか、経緯も覚えていません。ですが、その一年間、彼が私と長い間過ごしてくれたことは覚えています。電車ごっこやお喋り、ままごとや縄跳び……およそ男の子がやりたがらなさそうなことにも付き合ってくれました。ですが遊びを提案するのは私ではありませんでした。私はあまり主張ができない子どもでしたので、気をつかってくれたのでしょう。彼はやさしい子でした。彼と遊んでいた時間は(多少の思い出補正はあるでしょうが)私にとって、今でも大切な記憶です。

 話しかけてもらって嬉しかったこと、遊びに誘われて心が躍ったこと……思えば、そういった感覚を知ったのは、彼と関わるようになってからでした。それはとても温かいものでした。私たちは何を話していたか、彼がどんな声をしていたか、それらを思い出せたならどんなに幸せでしょう。かつての記憶を鮮明に思い出せたなら。或いは、もう一度あの時に戻れたなら。私はあの感情に「恋」と名をつけるのでしょう。きっと、恋の中でも特別な「初恋」だったのでしょう。思い出せないことが悔やまれます。

 今でも時々考えることがあります、彼は私をどう思っていたのだろうかと。母曰く、私は彼に「好き」と言われたことがあるのだそうです。どうやら、その返しとして「私も好き」という旨のことを言ったらしいのです。恐らく、それは友情の延長で生まれた言葉でした。今だからこそ特別な感情だったと思っていますが、きっとあの頃の私にとって、彼は「遊んでくれる優しい男の子」程度だったのでしょう。

 人と話している時、彼と一緒にいた頃と同じような感覚に出会うことがあります。その度に、私はその人の向こうに居もしない彼の姿を見ているのです。そして気づきます。十年以上経っても未だに、私はあの幼い男の子に恋をしているのだと。

夢のような時間だったと今だからこそ言えるのでしょう。幼稚園生の未熟さゆえになんとも思わなかったのか、今の私が思い出に補正をかけすぎているのか、どちらか……あるいは両方なのかもしれません。書いてみて気付きましたが、過去に好きになった人の系統は彼に似たりよったりで、どうやら私の恋愛観の基礎には彼がいるらしいのです。高校生になってまで引きずっているなんて情けないような気もしますが、それだけ私にとって楽しい思い出だったのでしょう。

此処まで読んでくださったことに感謝いたします。ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 心地よい文章ですね。『今も男の子に恋をしているのだ』、と気付くラストがいいです。よく締まっていると感じました。 恋愛観は人それぞれですよね。けれども、このような美しい感情を心の中に仕舞って…
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