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★幕間★  その一  ~闇に光るモニター~

ヒーローは忘れた頃にやってくるってなぁ!

「蜘蛛キメラの殲滅を確認。殲滅タイム56秒。訓練者は直ちに、実験室に戻って下さい。」


「ほら、やっぱり落ちこぼれの作品は、落ちこぼれね。」


 薄暗い闇が満ちた空間があった。ここは秘密結社『ギルティ』のとある一室。

 暗い室内に光を放つものが有った。この世界カシーハの文明には存在しない物、いままで改人キメラ達の戦闘を映していた多数のモニターである。

 部屋にはそれを眺めるギルティの頭脳となる博士達の姿があった。

 部屋の全体が見えないにも関わらず、その場所が大きい空間であることを示すものがある。

 声である。高い吹き抜け構造の場所で良くある上方へと延びる響き、どこからともなく聞こえてくる声の残響が、その場所の広さを表していた。


 先ほどの発言はコリアンダー博士の物である。年の頃は十代後半、すらりとした長身の女性だ。さらりとした赤毛のショートヘアにバランスのとれたプロポーション。整った顔立ち。自然とにじみ出る大人びた雰囲気は、美少女と言うよりもむしろ美人に近い。


「下級改造人間を相手に1分近く掛るなんて、あの実験体は早めに廃棄した方が良いんじゃ無いかしら?あなたのプロジェクトに回す予算の分、私の方に回す方が、あのお方の為になるわ。」


 彼女の研究はこの組織の基本となる改造人間キメラ作成。さまざまな改人キメラを作り出すスペシャリストである。 


「まあ今回私が作り出した、竜改人ドラゴンキメラ不死鳥改人フェニックスキメラに比べると可哀想と言うか、初めから勝負になるわけはありませんけど」


 素体となる人間と魔獣を特殊ナノ細胞で融合した物が改人キメラである。ベースとなる人間の能力を魔獣の力で向上させる。特殊ナノ細胞を活性化させることで人から改人キメラに変身可能になる。

 基本素体の優秀さと魔獣の強さが、改人キメラの強さに比例する。


「彼は、本来まだ調整中よ。さっき目が覚めたところなのよ。そもそも個別訓練のはずじゃない!こんな競争みたいなこと全く意味がないわ。貴方たちに合わせて訓練が開始されただけじゃないの。」


 質問に答えたのはミント博士だ。年の頃は10代半ば、銀髪のセミロングのストレートヘアに右目が隠れるほどの長い前髪と、メガネが目を引くがそれでも彼女がきれいな顔立ちをしているのが解かる。


 彼女の研究は特殊強化服。まだ実験段階だが、改人キメラに強化服を着せ汎用性を高める事が可能になる。強い魔獣の合成にはリスクを伴うのだが、それを強化服により補うことが出来る。だが現在、強化スーツの運用性に関して試作段階を抜けておらず、量産体制には程遠い。


「大体今回の実験体8人は全て私の研究に使うはずだったのに、突然他のプロジェクトに回すだなんて……。」


「計画変更は首領からの指示よ、あなたにとやかく言われる筋はないわ!大体貴方の研究対象の男?あいつは一体何者?レアジョブ持ちだけど、対して強い力では無いのに、わざわざ改人キメラにするなんて。」



 この世界カシーハに置いて、ジョブとは、神殿にて宣誓して冒険者になることにより、基礎能力の底上げや、いろいろな独自効果を持つ『スキル』を習得できる神から授かった恩恵のことである。

 この世界では人間が魔物と戦うということは神の試練を実行して距離を縮めると言われており、このような神との契約が自然なものとして受け入れられてきた。

 代表的なものとしては『戦士』『盗賊』『僧侶』『魔術師』『武闘家』などがある。

 そして『レアジョブ』というのはこの世界の中における、発現率が低く希少なジョブのことを特に定義無く呼んでいるものである。

 希少が故にどのような長所や戦闘手段、スキルがあるか、ということに関してはあまり情報が少ないのであった。


 キメラ合成の元となる人間は、ジョブが強い物が優秀に成ることが多いのは言うまでも無い。



「……彼はあのお方が興味を持っていた素体……。ここはまだ様子を見るべき。……駄目なら私が彼を実験に使う……」


 まるで意思がそこに無いような話し方は。タイム博士だ。年の頃は十歳程。身長は低く、腰まである長い黒髪。顔は感情が無いのか無表情だが、人形のようなある種の無機質さを感じさせる美しさがあった。


 彼女の研究は人造人間オートマトンに人間の意識を移植しコントロールする。人造人間オートマトンには古代遺跡より発掘された超文明の兵器等が搭載されており、改人キメラとその能力を争うまでに高められている。


「何故彼なのでしょう?首領が直々に指名するってこれまで無い事ですよ?そして何故ミント博士なのでしょうね。プロジェクトとしてはまだ未完成。そんな実験に使うなんて首領もどうかしたのでしょうか?」


 発言したのはセイジ博士。金色の髪に青い瞳を持った青年。ごく普通の白衣に身を包まれた肉体は、一見すると普通の優男に見える。だが腕のあるものが見ればそれがいかに鍛えられた肉体であるか気が付くだろう。

 彼の研究はコリアンダー博士の研究の逆で、知性ある魔獣に人間の能力をプラスする為に特殊ナノ細胞を使う、改魔獣とでも言うべきものである。


「首領を愚弄する事は、たとえセイジ博士でもこの私が許しませんわ!」


 直後、セイジ博士の周囲を取り囲むように闇色の剣が出現し、その切っ先全てがセイジ博士を捉える。


「フン!」

 状況に気づくや否や、セイジ博士は地面を蹴り跳躍する。と先ほどまで居た位置目掛けて一気に襲い掛かった剣が大爆発を起こした。

「な!爆発だと?」

「あら?なかなかいい反応ね。そうこないとですわ」

 セイジ博士を追って同時に跳躍したコリアンダー博士は距離を詰める間に、その手の中に一本の禍々しい魔剣を呼び出し具現化すると同時に切りかかった。

「ちいい!」

 のど元目掛けて繰り出されたその剣を空中で咄嗟に身をひねり、すんでの所で回避する。

「まだですわ!」

 足場のない空間でバランスを崩しかけた所にコリアンダー博士が2撃目を繰り出す。

 その瞬間セイジ博士の体が空中で一時停止した。

「何い!」

 結果、予測した位置に放った斬撃はむなしく空を切り、引き換えにコリアンダー博士が前のめりに倒れ込む事となる。

 その顔面目掛け、セイジ博士の拳が襲い掛かる。


「……それまでだ。二人ともやめてくれるかな?」


 部屋のどこかから声が聞こえてくる。


 先ほどまで戦闘をしていた二人だが、両博士とも石になった様に動かない。いや動けない。


「君たちの楽しいショーを見させて貰ったけど、それ以上やるとお仕置きしちゃうよ?みんな仲良くね。」


「勿論ですわ!」「了解しました。」


「それでいい。引き続きプロジェクトを頼むね。」


 声をかけられ、多量の汗を掻いた二人の博士が再び動き出した。


「では各自実験体の調整をするように。問題があった場合は報告を!」


 四人の博士はその部屋から全員出て行った。





「これで第一段階は完了した。さて今回は楽しめるかな?」




すいません遅くなりました。

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