果実の少女は、風の娘の喪失に不安を覚える
「果竪、何してるの?」
「大根漬けてるの」
やはり果竪は果竪だった。
見事にぶれないその姿勢に、楓はパチパチと拍手した。彼女は楓がようやく寝床から起き上がれるようになっても側に居たが、その間、横でせっせと大根の漬物を製作していた。
というか、怪我神の側で漬物作りをそもそもしても良いのだろうか?
あと、果竪の大根の漬物作りはある意味特殊だ。彼女は大根を綺麗に洗うと、その水に濡れた青々とした緑の葉っぱをブラッシングする。
きちんと、大根の葉専用のブラシで。果竪が作ったものらしい。
「ふふ~ん」
「……」
とりあえず、果竪が幸せならそれで良いかもしれない。
楓はあまり深く考えないようにした。
「美味しく出来たら、楓お姉ちゃんにもあげるからねっ」
「う、うん」
美味しくする為にはブラッシングが必要なのか?
楓は深く考えないようにしつつも考えてしまう自分に、ちょっと反省した。
「でも、楓お姉ちゃんが無事で良かったよ」
「ありがとう、果竪」
果竪にギュッと抱き締められた楓は嬉しそうに微笑んだ。ただ、楓はその時の事を実はあんまり覚えてはいなかった。
ただ、子供達が危ないと思った時、なんだか凄まじく腹が立って、そして--。
身体を風が駆け抜ける様な感覚を覚えた気がするが、気付いた時には拠点のテントに寝かされていた。
目覚めた時には身体は酷くだるかったが、それも今は無くなっている。
全部、倒れる前通りだ。
そう、全部--。
楓は、ふと何かに誘われるように自分の左手を目の前にかざした。その薬指にはめられている指輪は一見すれば何も変りは無かった。しかし、楓の目には指輪に入った小さな罅が映り込んでいた。遠くから見れば分からないが、それでもその罅はしっかりと存在している。
楓はその指輪を反対側の手で守る様に触れた。
軍の中には装飾品の修復が出来る位、手先の器用な者達も居た。だからこの位の罅であれば、指輪を外して頼めば良い。お金が必要なら、後で何回か払いにすれば良いし。
しかし、楓は指輪を外そうとはしなかった。
いや、外そうとすると身体が動かなくなってしまうのだ。
自分の身から離しては駄目だ--何故か、強くそう思ってしまう。
何の変哲もない指輪だ。
装飾品としての価値もそう無いだろう。
もしかしたら、楓が忘れてしまっているだけで、記憶を失う前の楓にとってはかけがえのない大切な物だったのかもしれない。それこそ、片時も手放したくないと思うぐらいには。
「楓お姉ちゃん、どうしたの?」
「--う、ううん、何でもない」
心配そうにこちらを見つめる果竪に気付き、楓は慌てて果竪を安心させる様に微笑んだ。けれど、慌ててしまったから、かなりぎこちないものとなった。
「……ごめんね」
「? 果竪?」
どうして果竪が謝るのだろうか?
「どうしたの?」
「……だって、楓ちゃんが恐い目にあっていたのに、私達は安全な場所でのうのうとしてて」
「果竪、それは違うよ」
あの時、果竪、小梅、葵花、涼雪は丁度拠点の中でも重要区画に居て、そのままそこで保護されていた。楓からすれば、危険な場所に居てあの騒ぎに巻き込まれなかった事は心から安堵する事だが、果竪からすれば自分達だけが安全な場所で--という思いにしかならなかった。
だが、そもそも楓が今此処に居られるのは、果竪が楓を見付けてくれたからだ。でなければ、今回の騒ぎ以前に、楓は生きてはいなかっただろう。
拾われた時の事は殆ど覚えていない。けれど、深い闇の中で、消えそうになる意識の中で果竪の姿だけははっきりと見えていた。
彼女が楓を最初に見付け、その手を取ってくれたのだ。
そして、何かと楓の世話をやいてくれた。だから、小梅達とも仲良くなれたり、軍に馴染む事が出来たのだ。
楓だけでは無い。
果竪は、沢山の拾い物をしている。
今、軍に居る者達の中--神数はそれ程多くは無いが、それでも彼女に拾われた事で助かった者達が居る。楓と同じように記憶を失ったもの、大怪我を負ったもの、病弱なもの、そして追われ、故郷で暮らす事が出来ずに逃げてきた者達。
彼女達、いや、彼等に待ち受けていたのは、皆【死】だった。けれど、その寸前で果竪は彼等を見付け、声なき悲鳴を聞き取り、その手を掴み取った。
伸ばしたくても伸ばせない。
伸ばす相手すら居ない、自分達の、手を。
『大丈夫--もう、大丈夫だよ』
何が大丈夫なのかと呆れる者達も居た。
けれど、楓にはその言葉が何よりも嬉しかった。
小さいけれど、温かな手に楓はようやく安心する事が出来た。
なのに、そんな彼女の悩みに誰も気づく事が出来なかった--。
楓は、目の前の小さな少女を見つめる。
彼女は、軍の統治者--萩波の幼馴染みだった。以前、ふとした時に萩波は楓に教えてくれた。
『私は、果竪に拾われたのですよ。私と母を、果竪が見付けてくれた。死ぬ筈だった私達の手を--』
楓達にしたように、果竪は萩波とその母の手を掴んだと言う。
その時から、萩波にとって果竪は特別だったのだろう。美しい萩波を丸ごと受け入れ、彼女は兄のように慕った。
村の子供達と、普通の子供の様に共に遊び、学び、働き--萩波はそれが嬉しかったという。何よりも嬉しくて、幸せで--あの村では、萩波はただの子供で居られた。
萩波の亡くなった母も、穏やかに逝く事が出来た--と萩波は告げた。
『もちろん、心配事や気がかりは沢山あったでしょう。でも……母は、友神達に看取られ、逝く事が出来たのです』
田舎の集落というのは、結束が高い分、悪い意味で排他的な所もある。しかし、その村は外から来た、いかにも厄介な物を背負っている様な萩波とその母を温かく受け入れ、見守ってくれた。生活に必要な物を提供し、生きる術を与えてくれた。
萩波の母が死ぬ時にも、最後まで手を尽くして生かそうとしてくれた。
そして母を失った萩波は、果竪の家に引き取られた。
果竪はずっと側で寄り添い、萩波は悲しみを乗り越えていった。
萩波は、村に辿り着く前の事は口にはしない。けれど、村に辿り着いてから、自分がどんなに幸せだったかを、時折話してくれるという。
その時に浮かべる笑みと、幸せそうな様子に、朱詩や修羅が思わず嫉妬し、茨戯や明睡、他の者達は羨ましさを覚えた。
もし、彼等がそんな村に拾われていたならば--。
萩波は美しい。
この軍で最も美しく秀でた存在だ。
いや、萩波ほどの存在は、他の軍でもなかなか居ないだろう。
普通なら、奴隷商神に目を付けられ、権力者に囲われ、彼を巡って国が争い、彼の為に大切な者達が死んでいく。それは、予想ではなく、確信だ。
それに、拾われる村によってはその村の奴隷にされたり、村の栄誉の為に権力者に捧げられたり、村の保身の為に売られたり--。
けれど、萩波を保護した村はそれをしなかった。
彼を最後まで守り通した。
彼が、村を自ら出て行くその時まで。
そして--
『いつでも戻っておいで、愛しい子--』
村に迫る戦火を回避するべく、戦いを早く終わらせる為に村を出た萩波をそう言って見送った村の大神達。
萩波もまたそこに戻る事を望んでいた。
その願いは叶わなかったが、彼等は最後に果竪を残してくれたのだと言う。
『それでも思いますよ。もし、あの時私が村に居たならば--と』
彼は何をもってしても……自らの身を捧げてでも村を守っただろう。萩波にとっては果竪は残された『幸せ』だった。
もちろん、村の事が無くても萩波は果竪を大切にしたと思うが、村の事があった分、余計に過保護になっていた。
しかし、そんな萩波の様子が今まで萩波に付き従っていた者達の嫉妬と憎悪を煽ってしまった。萩波はある程度距離を置くべきだった。
萩波に心酔している者達は、過去に大きな傷を負っている。それこそ、地獄以上のものを見て経験してきた。そんな彼等にとって、萩波の下は初めての、そして最高の安息の地だった。
彼等はそこを死守する為ならなんだってした。
そして、自分達が初めて心から心酔した存在を失わない為なら、どんな事だってやろうとした。
彼等は恐かったのだ。
萩波の関心全てが果竪に奪われ、自分達が捨てられる事を。
自分達が萩波に『必要のないもの』として判断される事を。
そして彼等は、余りにも未熟で幼すぎた。それを育て成長させる機会を失った。
歪に歪んで粉々に壊れてしまっていた。
そうして、彼等は最悪な方に突き進んでしまったのである。
徹底的に果竪をいじめ抜くという--下手すれば、死ぬ様な悪戯や苛めだって行なった。
--なのに、果竪はどこまでも大きく広い心を持っていた。彼らが果竪にした事は決して許されない。なのに、当の本神がそれを許してしまっていた。
果竪は、彼等の良い部分も悪い部分も受け入れてしまったのだ。
そして、周囲は果竪に依存した。
溺愛という言葉の方が相応しいが、彼等は果竪を【母】としてしまっている。
まあ、それは良--くないか?いや、そこは今は突っ込まないとして。
誰も果竪の苦しみを理解していなかった。
周囲が果竪を構えば構う程--その周囲が美しく優秀であればある程。
そう、萩波の時と同じ事を周りはしてしまったのだ。萩波がそうした時、自分達がどう思ったのか……彼等はそれを思い出す事はすらしなかった。
分かっていても、理解はしていなかったのだ。
そして萩波もまた、本当の所でそれを理解していなかった。
だから果竪が萩波から、軍から離れて一神で生きていく事を願った時、彼はそれを受け入れられなかった。
確かに果竪が頼ろうとした相手はロクデモナイ最低な者達だったが、それでも果竪の意思を汲んで、信頼おける者達に預ける事も出来た。
しかし、萩波はそれをせず、果竪を強引に妻に迎えてしまった。
果竪は幼い。
楓は自分の正確な年齢は分からないが、それでも成神はしているだろう。しかし、果竪はまだ成神どころか十二になって間もない。
それなのに、彼女は更に矢面に立たされる立場へと押し上げられてしまった。
「果竪--」
「楓お姉ちゃん?」
果竪は初めて出会った時から、楓を姉の様に慕ってくれる。楓もまた、周囲が果竪を苛めていた時に苛めなかった者の一神だ。
それは、楓か果竪に救われたというものも大きいが--。
ツキンと、軽い頭痛を覚える。
果竪に拾われてから……誰にも言っていないが、時折こうした頭痛を覚えていた。まるで、何かを訴えるように、楓の中から突き上げてくるのだ。
それは、楓がこの帝国に来てから、少しずつ増えてきていた。
そして--。
楓は、遠くに見える帝都を見る。
帝都を襲った魔物は全て倒されたが、それでもまだ魔物に襲撃された傷跡は帝都に残っているという。そして、民達もそのショックからまだ立ち直れていない部分もある事や、また魔物が侵入しないとも限らないとして、それよりは安全とされる拠点から軍に所属する子供達は出さないようにと言われている。
とはいえ、既に拠点も襲撃はされてしまったし、子供達の一部は危うく殺されかけた。とはいえ、帝都に比べれば安全--という部分は楓にも理解出来た。
帝都--どうしても、まず自国民を助けようとするのが神の心理というもの。例え、子供と言えど、自国民以外を助ける事での批判は避けられないだろう。
楓は政治というものには疎いし、それほど知識も無い。しかし、自分達の軍の事でとやかく言ってくる者達に出会った事は結構あった。この帝国--特に、長い歴史を持つ国ともなれば、何かと口煩く言ってくる者達も多いだろう。
その時に矢面に立たされるのが--果竪だ。
そういった者達は、萩波には直接言わないのだ。萩波だけではない、美しい彼の有能たる配下である古参メンバーやそれに準ずる者達にもそう。
奴らは弱い者達を狙う。
そう--失っても痛くもかゆくも無い者達を徹底的に攻撃する。
そして、弱い者達が居なくなるのを喜ぶ。
あいつらに共通するのは、自分達が欲しいものの為には手段を問わない事だ。そして、あいつらはこぞって萩波達の身柄を欲する。いや、身柄だけではない。心もまでもを奪おうと企む。
本当に愚かな事だ。
例え、強引な手段を用いても、決して心は奪えない。
どんな屈辱と恥辱を与えても、どれ程圧倒的な力をもってして大切なものを奪い取り、自分しか見えなくさせても--。
絶対に奪えない。
『貴様、この父を手にかけようと--』
ぎょろりとした眼を見開き、血を吐きながら叫ぶ男--。
「楓お姉ちゃんっ!!」
「っ?!」
果竪がギュッと楓にしがみつき、顔を見上げてきた。
「か、果竪?」
「どうしたの? 凄く恐い顔をしてた」
「……」
恐い顔?
「何か恐い事を思い出したの?」
思い出す?
「あ、嫌な事かな?」
嫌な事?
その時、ドクンと心臓が大きく脈打つ。
「……楓、お姉ちゃん?」
心配げに自分を見上げる果竪に、楓は安心させる様に微笑んだ。
「大丈夫、何も心配ないよ」
そう……何も変わらない。
楓は果竪を抱き締め返した。
「何にも心配ない」
「……楓お姉ちゃん」
「ん?」
首を傾げる彼女を、果竪は見つめた。
薄いアイスブルーの瞳と、今は三つ編みにつれ、前にたらされた同色の髪。顔半分は長い前髪で覆われていて、そこには酷い火傷の痕がある。けれど、果竪からすれば、楓がどんな姿だろうと大好きな姉代わりだ。
本当に素敵な神だ。
だから、もしかしたら--いや、きっと彼女が記憶を失う前にも、彼女を好きだった神達は居ると思っている。
そしてもし、楓が記憶を取り戻したら、その神達の所に戻ってしまうかもしれない……という事も理解していた。
それでも、時々会えれば好いな--そう思っていた。
いつか、別れる時が来るかもしれない。
果竪は幼いながら、その事をきちんと理解していた。
けれど--。
果竪は恐い顔をした楓を見た時、ふとこのまま楓がどこか遠くに行ってしまいそうな予感がした。いや、ただどこかに行くのではなく、このまま、二度と会えなくなる……そんな気持ちさえ抱いてしまった。
そんなのは嫌だ--。
例え、この先共に居られなくなったとしても、二度と会えなくなるのだけは嫌だ。
果竪は大好きな姉代わりに抱きつき、必死にその身体を抱き締めた。そうして何かに怯えるように自分にしがみつく果竪を、楓は優しく抱き締めた。
「果竪、大丈夫。私が側に居るから何も恐くないわ」
確かに楓が側に居てくれるなら何も恐くない。むしろ恐いのは、二度と会えなくなる事--。
果竪の耳には、遠くから響き渡る音が聞こえていたのかもしれない。
苑舞帝国皇帝の申し出を、軍が突っぱねた二日後。
「……入軍希望ですか?」
萩波が笑顔で嫌味を言えば、恐ろしく美しい女性は滴る様な色香を放つ笑みを浮かべて答えた。
「ほほ、ご冗談がお好きですね--私の主君は、苑舞帝国皇帝陛下でございます」
その日の朝早く、美しい衣を身に纏った五名の女性が、使者の男に連れられてやってきた。彼女達は、苑舞帝国皇帝から遣わされた者達だった。
「この度の帝都の件、そして我が帝国国土内にて、貴方様の軍の者達が魔物に襲撃された事を陛下はたいそう申し訳なく思われております。特に、楓という少女は、幼い子供達を救うべくその命さえ危機に陥らされたとの事。今更とは思いますが、是非とも傷が癒えるまでお世話をさせて頂きたいと思います」
もちろん--と、女性達の中で最も高位である女性がにっこりと微笑んだ。
「今回、貴方様の軍が襲撃された件についての調査も、お力になりたいと思います」
そう言った女性の言葉を引き継ぐように、使者は微笑んだ。
「これから先、我が帝国と貴方様の軍が協力して事に当たる事は増えるでしょう。その第一歩としては、これ以上は無いでしょう。そもそも、貴方様の軍もそうですが、我が帝国にとっても、魔物の襲撃は民を脅かす何物でもありません。それも、故意となれば--我らが敵は同じです」
敵--
「ならば、協力して事にあたった方が、事態も早く収拾されるでしょう。我が皇帝陛下は、国民の為にも一刻も早く事態の収拾を望んでおります。そして、自分が許可し、帝国に滞在する全ての者達の安全を確保する責任があると仰せられておりますゆえ」
「……そうですね」
断るという選択肢は--あるにはある。しかし、それを選択する事は必ずしも得策では無い。むしろ、向こうはやろうと思えば、強引な手段も取れるのだ。それをせず、絡め手で来るのは……そういう事である。
「……苑舞帝国の皇帝陛下は、とても楓に興味があるようですね」
にっこりと萩波が微笑み使者へと問いかける。
「今回の件で協力するのは別として、楓という何の地位も身分もない女性一神に、貴方達の様な高位の女性をわざわざ世話係として向かわせるなど--普通は有り得ない事ですが」
萩波は正確に、彼女達--そして、その中でも最も高位である女性を見た。
「確か……苑舞帝国前皇帝の皇女、苑舞帝国の『至宝』と呼ばれる方の腹心の部下であり、侍女長とお聞きしますが」
「ほほほ--我が皇帝の誠意でございます」
「皇女殿下は良いのですか?」
「私の信頼おける者達が側についておりますゆえ。それに、女官長も居りますので心配はいりませんわ」
「それはそれは」
元は奴隷だった者達ではあるが、美しく才能に溢れていた彼女達は元々の能力がかなり高かった。そこに絶対的な忠誠心が加われば、その才能を花開かすのは簡単なことだ。
自分達の酷い境遇を救ってくれた者達の為なら、なんだって出来る。
元奴隷達。
そして、奴隷でなくとも、不遇の身を送らされてきた--平民や貴族の子女達。
貴族としての悪い方のプライドは塗れる前に粉々に砕かれた代わりに、彼等は敵対する者達には脅威となるものを得た。
教育だけはしっかりされてきた者達が真摯に誠意を込めて教えれば、元奴隷だろうと庶民だろうと、ある程度までにはなるし、元々才能豊かで能力の高いものになれば、それこそ--。
だから、苑舞帝国は恐ろしいし、面倒臭いのだ。
というか、絶対に苑舞帝国はただの国じゃなくて宗教国家だと思う。皇帝を教祖とした宗教集団。さながら、上層部とその側近達は狂信者か。
萩波の心の声を聞いたならば、お前がそれを言うな--と言われるだろう。しかし、萩波はこの酷く面倒臭い事態にどう対処するかしか頭に無いのだから、結局それを言うなと言われたって聞きはしないだろう。
「今後の良き未来の為に、御考慮下さいませ」
女狐が--。
萩波の心の声が聞こえたのか、その一番高位の女性--菖蒲は赤く濡れた唇を軽くつり上げ、それは魅力的な笑みを浮かべたのだった。