風の娘は眠り、周囲は騒いで怒られる
帝都に魔物が現れた事により、一時女帝との謁見は中止となった。元々、話が行き詰まっていた事もあり、萩波達はその報せに頷き、すぐさま自分達の拠点へと戻った。それに、彼等もまた、帝都で自分達の仲間が魔物に襲われた事を知っていた。
魔物は全部で五体出現し、帝都の民を襲ったという。あちこちで現れた為、それぞれの場所で民がパニックとなって逃げ惑い、むしろそっちの被害が大きかったとか。逃げ惑う時に転び、次々と将棋倒しになったとか。まあ、建物も壊れたらしいが、そちらに関しては警備隊がすぐに駆けつけ、四箇所の魔物はすぐさま倒されたという。
帝都の外では魔物が出る事はあるようだが、帝都にまで現れる事はなかなか無く、今回の事は再度帝都の警備を見直す上でも良い経験となったというが……それは死者が出なかった上での言い分だ。
そして残りの一箇所が問題だった。
帝都入りしていた年少組の多くは、拠点に待機していた仲間に保護された。しかし、楓と葵花は保護する仲間達が駆けつける前に危機に陥ったという。
詳しくは聞けなかったが、拠点に帰れば、恐ろしい事実を聞かされた。
葵花の手足には、もう少しで四肢を引き千切られそうになった痕--魔物の触手に絡みつかれた痕がしっかりと残っている。そして、手足に加えられた力は、四肢こそ引き千切らなかったものの、彼女の両肩の関節を外してしまっていた。
それを再び戻すのに、葵花は痛みに泣き叫ぶはめとなった。茨戯が痛くないようにはしたが、それでも抑えきれない痛みに葵花は悲鳴を堪えつつも失敗して泣いた。
そして楓は、魔物の胃袋に落ちた際に、少しでも子供が胃酸につからないように抱え上げ続けていたせいで、両腕に大きな負担をかけてしまっていた。
「ごめん、なさい」
「何を言うのですか。よく頑張りました。生きていて下さった事が何よりも私達へのご褒美ですよ」
萩波は楓の額に手を当てると、彼女の乱れた神気を整える。治癒の術は既に施されているが、精神的な疲労の方が強かったのだろう。まあ、魔物に喰われて胃袋に落されるなんて、普通の精神では耐えられない。
それに上手く丸呑みされたが、もし少しタイミングがずれていれば、その鋭い牙で身体が噛み千切られていた筈だ。それを思えば、楓達は本当に運が良かった。
「あの……」
「はい?」
「あの、子は」
「無事ですよ」
あの後、萩波は子供の様子を部下に見に行かせたが、怪我一つないと言う。まあ、ショックは受けているだろうが、それも時間の経過と共に薄れていくだろう。ただ、突如丸呑みにされた恐怖が蘇る--という事態に陥るかもしれないが。
「楓が術を使ったとか」
楓が眠りに落ちたのを確認すると、萩波は彼女の眠るテントを後にした。そして外で待っていた朱詩と茨戯へと問いかけた。
同じく萩波の後についてテントから出てきた明睡も無言で彼等を促す。
「うん、そうだよ。風の術だった」
「しかもあれは、高位の術よ」
今まで楓が術を使った事は無い。
神力が無いわけではないが、術系統はからっきしだった。ただ、治癒の術は必要だからと頑張って覚えようとはしていたが。
「それにしても、風ですか」
「風がどうかしたの?」
「いえ、そういえば、この国--苑舞帝国も元は風を操る力に優れた者達が多かった気がしますから。確か--初代国王は、歴代最高位の風の使い手だった筈--」
「ふぅ~ん。でも、今はそうでもないんじゃない?」
「そうですね。今では風の使い手は世界中に散らばっていますし--ただ、遙か昔はこの帝国のある近辺に纏まってすんでいたという話もありますし」
「って事は、楓はこの国かその近辺出身って事?」
「--さあ? それはなんとも言えませんね」
「まあ、楓がどこの出身だろうと関係なくない?」
朱詩の言葉に萩波が首を傾げる。
「そうですか?」
「そうそう。例えどこの出身だろうと、楓が望まなければ此処に居続けるじゃん」
「此処、ですか」
「そう、此処。だって、出入りは自由なんだろ?」
「その言い方ですと、楓にはずっと此処に居て欲しいって事ですか? もしかして小梅から楓に」
「それはない」
朱詩はきっぱりと真顔で答えた。
「そもそも小梅と楓を比べたら楓が可哀想だよ」
「朱詩」
「確かに楓は顔に大火傷を負っているけどさ、小梅の不細工加減に比べたら全然」
「全然、何?」
「小梅は世界最高の不細工女って事だ」
スパァァァンと後ろから朱詩は後頭部をスリッパで叩かれた。見事な一撃に、萩波のみならず、茨戯と明睡も拍手をした。
「いったぁ! 何するんだよ小梅!」
振り返る前に小梅と判断する朱詩。それは愛のなせる技か、それとも別の何かによるものか。
「スリッパ乱舞!」
「はん! 打ち返してくれるっ」
「これならどうだ!」
「くそっ! 卑怯だぞっ!」
「それ砕いたら果竪に怒られるんだから!」
「このっ!」
「アンタ! 男のくせして女の子になんつぅ手を使う気よ!」
「お前こそ! 女のくせしてとんでもない手を使いやがって!」
どこから取り出したのか、大量のスリッパを素速く投げつける小梅の投擲能力は凄まじいものがあった。たぶん、最高値を100としたら99ぐらいはあるだろう。そんなスリッパを朱詩は叩き落とし、それを見た小梅は果竪の大根を投げつけた。それを叩き落とす事は可能だが、絶対に砕ける。砕いたら果竪に泣かれるとして朱詩の動きは鈍り、その隙に--という感じだ。
「小梅って絶対に軍師とかなれそうなんですけどね」
「させてどうすんのよ」
「倒せるのは朱詩ぐらいだろ」
「誰が倒れるか!」
「というか、楓ちゃんは美神だけどね! 私をブスってどういう事よ!」
「ブスとはいってないわ。不細工とは言ってたけど」
「そういう問題じゃないのよ茨戯!!」
とうっ!とかけ声と共に、朱詩の腹部に膝蹴りを入れる小梅。女は強いと言うが、正にそれを体現した様な光景だった。朱詩を仰向けに押し倒しての膝蹴りの入れ方は、一種の美しささえ感じられた。
「小梅ちゃん、ここに」
涼雪が小梅を探しに来たようだが、目の前の光景を見て固まった。
「食らえ! 百烈拳!」
「遅い!」
遅いと言うが、前よりもスピードは格段に上がっている。というか、朱詩を殴る為によくぞそこまで。
「感動のあまり涙が出そうです」
「感動……うん、感動」
明睡は萩波の言葉に少しだけ首を傾げた。感動、なのか?
「まあ--相変わらず二神とも仲良しですね」
相変わらずおっとりまったりな涼雪の感想に、茨戯はどうツッコミを入れようか迷った。
「仲良し……かしら?」
「あんなに楽しそうにされてるじゃないですか」
楽しそう--うん、楽しそうに見えるかもしれない。
「ふんっ! 小梅なんて色気もそっけもないくせに!」
「色気?! 何をもってして色気が無いって判断するのよ!」
朱詩が言葉に詰まった。確かに、事細かく説明するには言葉を詰まらせるだろう。説明出来るけど、小梅の耳が汚れてしまう。
とりあえず、茨戯はそろそろ止めようかと思った。
「そういえば、色っぽい下着というのがありましたよね」
「下着--明燐がつけてる紐パンのあれ?」
明燐なら付けてるだろう--ただ、兄としては、そこはこんな所で暴露をして欲しくはなかったが。ただ、昔なら問答無用で相手をぶっ飛ばしていたのを考えると、自分も丸くなったなぁ……と成神前にして思う明睡だった。
「ああいうのはね、明燐みたいのがつけるから色っぽいのよ! 私がつけても何の色っぽさもなかったわ!」
「は?」
「そうですね、私もつけてみましたけど、動きにくくて」
「は?」
「しかも、この前の街でスカートめくりをされた時に、散々神をこき下ろしてきた奴もいたじゃない! 顔を見てつけろとか! 神の下着見たくせにその言い草よ! ふざけてんじゃ」
バキンと何かが折れる音が聞こえた。
「明睡様?! 扇子が折れて--」
明睡愛用の扇子は、持ち主の手で折れるどころか粉々に砕かれていた。
「ゲッ! 血が出てんじゃな--」
小梅はグイッと髪の毛を引っ張られて涙目で下敷きにしている朱詩を睨み付けた。
「何するのよ!」
「五月蠅い! この歩く淫猥物! 公共の汚物っ」
「はぁぁぁあっ?!」
淫猥物はまだしも、公共の汚物はない。
萩波は片手で顔を覆って静かに首を横に振り、茨戯はアワアワと朱詩と明睡を見た。
「紐パン、つけたのか?」
「はい」
涼雪は何の迷いもなく返事をした。
「しかも、見られたのか?」
「はい。怒られてしまいましたけど」
明燐ちゃんの時には歓声が上がっていたと涼雪は告げた。しかし、明睡はその事に関しては「後で殺す」とだけ小さく呟くに留まった。
「おれ、おれ、俺でさえ、見た事がないのにっ」
「……あの、下着って男性に見せなければならないんでしょうか?」
「ありませんよ」
そんな規定はないし、萩波の軍にも無い。そこはきちんと軍の統治者として萩波は否定しておいた。んなもんが存在したらどんな変態軍だ。
「その、次回付ける予定は」
「明睡」
「俺はまだ見」
それ以上言わせる前に、茨戯は明睡の腹部に一撃を入れて黙らせた。なけなしも無いだろうが、品位とか威厳とか、一応うちの軍の第二位--萩波の右腕たる明睡の理想像が色々と粉々になりかねない状況を阻止するのも、萩波の側近たる茨戯の役目である。
「まだみ?」
優しい涼雪は、痛みに呻きながら地面に崩れ折れた明睡の背中を撫でながら首を傾げた。
「涼雪は何も気にしなくても良いのよ。あと、そういう下着は大神の女性用だから、まだ未成年の涼雪が着けるのはちょっと早いわね」
茨戯は優しい笑顔を浮かべて涼雪に告げた。
「? でも、明燐ちゃんは」
「あれはいいの」
古参メンバー、それに準ずる者達の大半の女性は良いのだ。それを身につけも似合わぬどころか、むしろ下着が引き立て役になってしまう位の蠱惑的で魅惑的な肢体の持ち主達なのだから。
しかし、健全な、完璧な成長曲線を辿るごく平均的な成長途中の者達にはどう頑張っても似合わない。
「普通の奴をはいておきなさい。足りなかったらきちんと支給するから」
「紐パンは普通じゃないんですか?」
「戦闘には向かないわ」
とりあえず、ほどけそうでほどけそうないというか、ほどそうで相手の戦闘への集中力を削るにはとても良い刺激的な代物でもあって--。
「では戦闘に参加して良いんですか?」
「駄目」
刺激的うんぬん以前に、戦闘への参加自体涼雪達にさせていないので、それ以前の問題である。
「小梅の馬鹿! 僕の心を傷つけた謝罪として一週間はいてろっ! 僕の前でっ」
「なんでよ!」
確かに何でだ。
「茨戯」
「殴りそびれたわ……」
萩波の指摘に、茨戯はガックリと項垂れた。
朱詩の威厳とか尊厳とかそういうものは守れなかった。
あと、思いの外騒ぎすぎていたようだ。
「お前ら五月蠅い!」
別のテントに治療に行っていた修羅に怒られた一同だった。まあ、あれだけ騒いで怒られない方が不思議な話ではあるが。
次の日、楓はよく寝てよく食べてを繰り返し、夕方頃には動けるようになった。かなり早い回復力だが、そこは若さと修羅達の献身的な介抱のおかげだろう。
汗を流すべく、湯で身体も洗い流した。近くに温泉が湧いている所があり、拠点に居る時にはそこを使用していた。
「果竪、一緒にお風呂に入りましょう」
「え? いや、小梅ちゃん達と入」
「夫婦は一緒に入るものです」
果竪が萩波に米俵担ぎをされて連れ去られていく。結婚前は、幼馴染みは一緒に入るものですと騙されて果竪は萩波と一緒にお風呂に入っていた。
確かに村に居た頃は幼かったからそれもありかもしれない。しかし、もう流石にアウトだろう--という周囲の心の声は完全に無視された。
どこかの世界では、男女は七つにして同じ席に居たら駄目だとかなんとかあるというのにあるというのに。
果竪の売られていく子牛の様な顔を見ながら、先に上がった楓はついていった方が良いか迷う。しかし、明睡達に止められた。
「止めた方が良い」
「そうね、よく言うでしょう? 神の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死んでしまえって」
「……恋路」
「そこは突っ込まないで」
恋路では無いだろう。どう考えても無理矢理婚だったし。あれで果竪の逃亡が成功していたら、速攻で略奪された上での強制婚だった筈だ。
下手したらあの男の事だから、およそ口では言えない--他の男に絶対に嫁げないようなエゲツない事をしたかもしれない。
そもそも、十二で妊娠する様な事を強制する時点でロリコン変態犯罪者だ。例え、王侯貴族では十代前半での結婚が普通だとしても、だ。
果竪はごく一般的な庶民だ。庶民でも十代で結婚する事は普通にあるけれど、十代半ばより後の話である。十二は無い、無いとして信じたい。
--ふと、遠くから果竪の慌てる声、戸惑う声、そして泣き声が--。
「……恋路」
「分かってる! 分かってんのよ! あと、忠誠は誓ったけど激しく殴りたいわよ!」
片手で顔を覆って茨戯が叫んでいる。明燐が飛びだそうとしては、兄に止められていた。
「離してお兄様あぁぁぁぁぁっ!」
「やめろ! 萩波は女でも殴る!」
「男女平等! 喧嘩上等ですわっ」
「なんか音と韻は良いけど駄目だ!」
「どこら辺が良いんだよ」
「踏んでましたか? 音と韻」
修羅と百合亜がツッコミを入れる。
「……恋路」
「楓は普通の男性と付き合うんだよ」
「そうです。顔が良くて地位と身分と財力があるだけの男性では駄目です」
むしろ顔が良くて地位と身分と財力のある男は最高では無いのだろうか?
「中身は変態っていう男も居るんだよ!」
「ヤンデレも居ますね」
「楓もなんだかヤンデレに好かれそうな顔をしてるし」
「どんな顔ですか」
思わず楓はツッコミを入れた。
「それに私の顔は半分駄目になってますし」
火傷の事を言えば、修羅と百合亜がクワッと目を見開いて叫んだ。いつも一緒にいるせいか、怒った顔はそっくりだった。
「駄目って何?!」
「というより、そのままの楓を丸ごと受け入れて下さる方でないと駄目です」
百合亜は断言した。
「そんな神、居るかな?」
「世界は広いから居ますよ。もしすぐに見付からなくても、私達は神ですし時間はいくらでもありますよ」
「居なかったらあたしが貰ったげる」
小梅が手を上げた。
「じゃあ私も」
「では、私も」
涼雪だけでなく、百合亜も手を上げた。修羅はショックを受けた。
「ゆ、ゆ、ゆ、百合亜の馬鹿あぁあ!」
「修羅?! どうしたんですか?!」
「百合亜は僕のお嫁さんになるの!」
「大丈夫です、修羅君。百合亜さんは楓さんをお嫁さんにするだけで、誰かのお嫁さんになるわけじゃないですから」
涼雪は無問題とばかりににっこりと笑ったが、ある意味大問題だろう。どんな三角関係になるのか。
「か、楓には他に良い男が居るから百合亜は駄目!」
「いや、百合亜は女でしょ」
茨戯が鋭くツッコミを入れた。
「案外楓と結婚した方が幸せになれるかもしれないよぉ」
「朱詩、離してよっ!」
小梅を後ろから片手で抱えながら、朱詩がニヤリと笑った。修羅のこめかみに青筋が浮かぶ。
「良い度胸じゃん? 小梅から手をどけて」
「は? なんで僕がお前なんかの命令に従わなきゃなんないの?」
「ふぅ~ん? 僕の攻撃が恐くて小梅を離したくないの? まあ、良い盾にはなるだろうね?」
朱詩もそうだが、修羅も何気に口が悪いと萩波達は思った。良い盾って何だ。小梅に怪我はさせられないから小梅が側に居ると攻撃出来ないとか言えないか、こいつは。
現に、良い盾と言われた小梅が衝撃を受けていた。たぶん、彼女の頭の中には面積が広くて良い盾とか、動く盾とか思い浮かんでいるのだろう。
彼女の周りにはロクな男が居ない。
「お前なんかじゃないんだから、そんな卑怯な真似はしないよ?」
朱詩と修羅は微笑み合った。
「いいから小梅を離せって言ってんだよ!」
「小梅を放っておいたら紐パンで男を誘いに行くだろっ」
「あたしはどんな破廉恥女よ! ふざけんじゃないわよっ」
「そうだよ! 朱詩は最低だ!」
「誰が最低--」
果竪の大きな泣き声が聞こえてくる。そして、ぺたぺたと走ってくる音が聞こえた。果竪が半裸で泣きながらこちらに駆けてこようとして--。
「うぇぇぇぇんっ」
萩波が作り出した幾つもの水の手が果竪の身体を捕らえて引きずっていく。何本ものリアルな神の手がわさわさと出てくる様は一種の恐怖映像だった。
楓がパクパクと口を動かし、手を振りながら明睡達を振り返る。明睡達は思い切り視線を逸らしていた。
きっと彼等の心は一つだったに違いない。
誰かあのロリコンをどうにかしてくれ--と。
「萩波! また果竪を泣かせたのっ?!」
「馬鹿! 行くなっ」
「そうだよ! 行ったら死ぬよっ」
朱詩と修羅が走りだそうとした小梅を後ろから捕まえる。
「離して! 果竪が泣いてるのよっ」
「泣いてるけど!」
「行ったら死ぬよっ!」
「それに、今果竪はお風呂で服を脱いでるんだからっ」
「裸の果竪を見たらどんな目に遭わされるかっ」
「私も女だけど! 何っ?! 萩波の目からはあたしは男に見えるっての?!」
それは無い、絶対に無い。あと、そういう問題じゃない。
「果竪、待っていて! すぐに助けるからっ」
「うわぁぁぁあ落ち着いてぇぇえっ」
「何よ! この根性無し男ども!」
「根性でどうにか出来るもんじゃないんだよ!」
「きっと女性陣の中で、小梅の男らしさは激上がりよね」
「あいつは何を目指すんだ」
「果竪もそうだったわよね」
「萩波に喰われる前はな--俺、果竪は何を目指すんだと思っていたが」
「アタシ、思うの。きっと果竪はもっと別の物を目指していたと思うのよ」
「俺もそう思う。間違っても十二で結婚するとは思ってなかっただろうな」
というか、さっさと助けろよ--と小梅の怒声が飛んだ時だった。
かなり前に入浴を終えた忠望がやってきた。
「どしたの」
朱詩が小梅を押さえつけながら聞けば、忠望は相変わらずの淡々とした口調で用件を告げた。
「苑舞帝国皇帝からの使者が来てる」
「へ?」
「この前の話し合いの件についてらしい。萩波は?」
「でかした!」
これで果竪を救える!!と朱詩は喜び、修羅はすすり泣いた。明睡と茨戯はあっという間に萩波達の居る場所へと姿を消し、それから間もなく萩波はぐったりとした果竪を連れて出てきたのだった。