神世のネクタルは新たなラブコメの波動を撒き散らす。②
宴会なう
太陽神ヒルアは可愛い天使たちを侍らせ、ネクタルを注がせている。
「やはり、神世のネクタルは美味いのぉ。」
「いやぁ、この前献上されたバルバロイ共和国産の新酒もなかなか美味いわよ。」
戦女神ヤファが飲み口の軽い人界産の酒を褒める。
「転生者の作った品物は、大抵質が高いからねぇ。
品種改良されさらに上質になってますし。
転生者が没した後も、この世界生まれの魂達には良い刺激なのでしょう。」
愛の女神シャナが微笑んで言う。
バルバロイには転生者が数名誕生しており。
サンプルの物語を大幅に変革した優秀な地域である。
他の異世界からの転生者も、全て成功するわけでもなく。
優秀な魂が、たまたま固まって誕生した異例事項だったそうだ。
このファーブラという異世界は、まだまだ新しく。
サンプルにした異世界の物語やゲームも、各国に多く配分され。
そうでない地域も用意されている。
転生者は、新たに誕生した魂たちよりも熟成されており。
良くも悪くもこの世界を刺激する。
以前国を滅亡させたケースも数件あり。
マニの祖国もその悪例の一つになっている。
マニが助かったのも、パニマの強すぎる愛の加護故だ。
ただ人ならば、本来国と共に滅んでいただろう。
「そういえば、転生者で思い出したが、パニマ様の愛姫はお元気かね?」
海神ドルトンがそんな事を質問した。
「各国を転々としてますが、元気みたいですよ。」
大地母神マルルンが息子の状況をガッツリ把握済らしく、あっさり答えた。
「何故流浪の民のような真似を?
あぁ、そうか。
祖国は滅んだのだったっけね。」
冥神ナルトンが不思議そうな表情にした後、ふと思い出したのかマニの祖国シュルツ王国の惨状を思い出した。
原因の少女も異世界人の転生者なのだが。
その心根が幼く、考えなしで。
ゲームと現実の区別がつかない系の残念な娘だった。
なので、安易に周囲の婚約者持ちと関係を結び。
敵国のスパイ的皇太子に攫われ。
幽閉サれていたのだが。
そこから抜け出し、マニに毒吐きしに行った為、パニマを怒らせ、その身を現世から消滅させた。
現在、ナルトンの魂反省部屋で怒られている張本人だった。
なんで忘れていたかと言うと。
彼女のようなタイプがほかにも居て。
魂反省部屋は日々満員御礼。
いちいち覚えていられないというわけだ。
余談だが、そこに入るのは何故か地球からの転生者より、別の異世界からの転生者の割合が多い。
地球から、と言うか日本人の転生者の場合。
国民性なのか、余程異世界ヒャッハー、俺ツエーなどと羽目を外した者以外は、比較的大人しい。
パニマ神が参考にしたオタク文化が、彼らの間で浸透し過ぎて居る影響もあるのかもしれない。
現在のシュルツ王国の惨状。
まず、貴族や金持ちは他の地域に逃亡なう。
王城跡地は瓦礫。
周辺の大きな年も現在壊滅に近い状況だ。
まともに機能しているのは、襲撃の少なかった辺境や山岳地帯の小さな村々で。
滅亡の原因となった攻略対象者達が、国復興のために動いているのだがあまり芳しくはない。
いや、むしろ毛嫌いされ。
何をシても信じられては貰えなかった。
本来なら生き残ったマニが復興のトップに立つべきなのだが。
女で姫のマニにそんな責任能力も帝王学も無いから、か帰ってはこないし。
民も彼女が生きてる事はごく一部しか知らない。
知っている者たちも、彼女が酷い目に会って国外追放のような憂き目に合った現実を知る分。
彼女に助けを求めることが正しい判断とは思えないらしく。
マニを権力闘争や復興のゴタゴタからは遠くに置いていた。
この世界のゴタゴタの最大原因は、人族至上主義者と呼ばれる勢力だ。
正式名称は、異世界人類種史上主義者。
神に反意を翻した異世界人転生者が起源なのだが。
その転生者がいた国は、転生者を悪用し隷属させたため、彼らの反撃により太古に滅び。
現在、過去を知らない世代が増え。
人族至上主義者という名前に変化していき。
目的も本来は異世界からの転生者の保護の為の物から、人族以外を差別する軍事組織へと変貌していった。
一度彼らは神々の怒りを買い、滅んだが。
時代の節目節目に現れる。
神々からしたら、ランダム湧きモンスター扱いになっている。
「可愛いからとっととパニマの妻になってほしいのよね。
なんだが相手にされて居ないっぽいけど。」
大地母神マルルンがそう言うと、一同顔を見合わせる。
パニマのアプローチは熱烈だ。
だが、マニは直接的表現以外、鈍感過ぎて通じていなかった。
マニは元々居た異世界での魂の徳が高く、人間にしては神格も高い。
勇者の魂の片割れに成れる程に、とても洗練された魂と心根の持ち主だ。
それを無理矢理引き剥がしたパニマを拒絶する何かが、魂のどこかに有るのだろうと神々は踏んでいる。
しかし、大地母神マルルンは息子馬鹿なので分かってはいても、マニをパニマの妻にする事を諦められなかったのだ。
そして、よりにもよってその勇者の死んだ魂を、パニマがこちらの世界に引き入れてしまった。
魂の形こそ変質していたが、マニよりも魂の徳が強い魂だ。
何れ再会してしまうだろうと思っていたら、案の定である。
手出しをしたらパニマに嫌われる。
けれど何もしなかったら、運命が繋げてしまう位にはマニたちの絆は深い。
見た目穏やかそうな大地母神マルルンは、意外と頭に血が登りやすく。
内心苛々している。
「あー、じゃあさぁ。
俺も受肉してパニマ様のところへ行ってこようか?」
太陽神ヒルアが言うが、チャラ男なので即却下された。
イケメンチャラ男たちに苦労させられたマニには天敵だろうから、近づけさせるわけには行かなかったのだ。
「ならば私が行こう。」
ツンと澄まして戦女神ヤファが言う。
「あら、ヤファおねえさまが行くなら僕も行きたい。」
「ヨナが行くならあたしだって行きたいわ。
ベッ、別にマニなんて人族どうでもいいんだけどね。」
と、ヤファに憧れる月女神ヨナが言うと、その双子女神のサナがわかりやすいツンデレで答えた。
興味津々なんだなと一同は思っていたりする。
「長期間は許可できませんが、一月程ならなんとかなるでしょう。
三人にお任せしてもよろしくて?」
マルルンの言葉に三人は頷くと、人界へ急遽用意した仮の身体に受肉した。
マルルンは知らなかった。
三人がそれぞれパニマへの恋心を持っていることを。
気付いていた太陽神ヒルアは、マルルンに見えない角度でニヤニヤしている。
「きっかけはつくってやったんだから、三人とも頑張れよ?」
小さく口の中でつぶやいた言葉は、誰にも届かなかった。
「む?なんでしょ?
何やら寒気がしますねぇ?」
ゾクゾクと嫌な予感に背筋が冷えるパニマが、庭のコテージで休憩しながら首を傾げていた。
さて、女神三人が、パニマに特攻仕掛けるようです。
マニ姫はどーするんでしょうね?
それでは又。




