ラブコメの波動は当事者以外壁殴り隊
龍子は神様のミスで、てへぺろ転生をした。
けれど彼女の記憶は、本来現れないはずだった。
婚約者の陰謀により、森へと棄てられたショックで、マニ姫としての人格が消え、龍子が全面にでた。
丸投げな事態に龍子は翻弄されていく。
「えーっと、どうしましょう?
道に迷ってしまったわ。」
途方にくれて辺りを見回す。
神様も、星空すら見えない深い森に送り付けるとか大概です。
いや、正しくは私を陥れるため。
婚約解消を計りたかった浮気性の婚約者が、わざわざ私の好物のショコラに、睡眠薬を練り込んだ後。
この森に、私を置き去りにしたのですが。
目覚めた時、愛する婚約者の手紙で捨てられた事にショックを受け。
これまでの人格が消え。
そのタイミングで前世の記憶とか、転生神様との会話を思い出したのだ。
やれやれ。
男に捨てられた位でいちいち記憶消えたり、闇落ちしてたらきりないっつーの。
育ちの良い、世間知らずの豆腐メンタルお嬢様はこれだから。
相手に一目惚れして権力駆使して。
イケメンな侯爵子息を婚約者に確保、までは良くある事。
わがままやらかして、やはり嫌われる悪役令嬢ポジでした。
元々浮気性酷い男だったから、簡単に天然のフリした淫乱ピンクヒロインに籠絡されてたチョロ男だ。
こちらから捨ててやった!
とか思えば良いのにね、本当我ながら面倒い子だよ。
しかも、ライバルは逆ハーレム狙いで用意周到だったのか。
私の行動範囲で、いろんなイケメンとラブコメの波動を垂れ流していた。
私は当て馬と言うか、もう壁殴り隊です。
壁をドンするけど、壊す方向。
奴らも彼女の浮気性に、都合良く良く気付かない物だ。
私は婚約者に手も出されて居ないから、こちらから婚約破棄とかさ、色々逃げようもあっただろうに。
恋は盲目で、いつか振り向いてくれますわ。
的な感じで現実見てなかった模様。
やれやれ。
んで、捨てられた。
相手も国の第一王女相手なのに、なかなか酷い仕打ちである。
あ、自己紹介まだでしたね。
私前世は女子高生。
病気で呆気なく16歳で死んだ筒井龍子。
現世ではマニファーナ・ラ・シュルツ。
シュルツ王家のマニ第一王女ですわ。
しかし、困った物だ。
どうやって生き延びようか?
色々有り過ぎて気付くのが遅れたが。
この森、先程から魔物どころか、動物の気配すら無いのだ。
しかも、森の中で目覚めたから、ここがどの辺りかも分からない。
取り敢えず、木に記しを付けて先へと進む。
取り敢えず、マニの消える前までの記憶や経験は頭に残って居るから、休憩がてら木に寄り添い思考する。
先程から進んでも進んでも元に戻るのは、迷いの森の中に捨てられたという事だろう。
一応、女ですが私王位継承権第四位(一位は第一王子の兄、二位は側室腹の第二王子。第三位は父王の弟で叔父様だ)になんつー仕打ちだ。
しかも、どうして誰も探しに来ないのよ。
進みながら見つけたのは、子供の頃に読んだ野生の植物の本で見た食べられる木の実や野草、薬になる薬草だ。
それらを、ドレスをふんわり膨らます、パニエという幾重にも折り重なったスカートの下履きから一枚抜き取り。
ポケットに入れていたソーイングセットで巾着を作り。
半分食べて、残りはそれらを入れた。
動きづらいから、本当はドレスだって改造してキュロットパンツにしたい。
でも流石にここまで攫われたのは、不意打ち過ぎて、其処まで糸も用意できないから諦めた。
まあ、パニエの一部を解して糸にするには時間がかかるしね。
元々少食だから、お腹が膨れて少し気が緩む。
「ステータスオープン!とか言ってゲーム画面みたいに色々出来たら楽だったんだけどねぇ・・・。
って、うぇ?!」
見る見るうちに半透明のマルチタスクのタブ画面が現れる。
私のステータス画面だった。
操作は、文字に視線合わせれば、意味とかも出てきたから。
カーソルは視線で、決定は私の意志でいいのだろう。
元々王女として護身術や、幾つかの魔法知識があり頭も悪くない。
ぶっちゃけ基礎スペックだけは流石王族。
ヘタな市民よりは強い・・・はず。
レベルは・・・・四・・・うん低い。
スタイルとか美容とか磨く以外、全く努力していないものね。
たはは、やれやれ。
あれ?変なスキルが有る。
多重思考?
多重人格みたいなことかしら?
よくわからないわ。
それに、???ってなっているスキルが複数有った。
色々鍛えないとだめ、出現しないってことかしらね。
ん・・・?アイテムボックス?
あ、説明が出た。
アイテムを無限に入れられるが、生きている生き物は入れられない。
あ、これゲームでよくあるアイテム入れかしら?
それっぽいわね。
「アイテムボックス、オープン。」
そう言うと、中身のリストが出てきた。
一般アイテム
・市民の服 五
・貴族の服 五
・下着一式 十
・靴 五
・地図 一
・食料 二十
・飲料 二十
戦闘用アイテム
・防具 五
・短剣 五
・長剣 三
・槍 三
・杖 三
・薙刀 ニ
・弓 ニ
・弓矢 百
道具
・回復薬(小)100
・回復薬(中)100
・回復薬(大)100
・魔法薬(小)100
・魔法薬(中)100
・魔法薬(大)100
・エリクサー 50
・魔法の書 10
・薬草の書 10
・召喚の書 5
・モンスター辞典 10
調合道具
・調合鉢 五
・フラスコ 十
・ビーカー 十
・秤 一
・遠心分離器 一
・鍋 三
・包丁 三
最後に、神様の手紙が入っていた。
「可愛い龍子ちゃんへ
やっほ~♪あなたの愛しの神様ですよ。
これを見ているって事は、残念ながらマニちゃんの人格が不測の事態で消えたってことかな?
君には消して欲しいって頼まれたけれど、異世界の魂だから折角転生して君が不幸になるのはボクは望まないからね。
念の為君の魂を核として真新しい魂をコーティングしておいたんだ。
真新しいから打たれ弱くて幼すぎるんだけど。
やはり何か旨く行かなかったみたいだね。
本当度々迷惑掛けてごめんよ。
あ、そうそう。
この画面が見れたってことは、ステータス画面気がついたってことだよね。
これは君の世界のゲームとかを参考にしたのだけれど。
君にこの異世界ファーブラの事を、分かりやすく解説してくれるサポートアイテムだと思ってイイよ。
そして自由に生きると良いと思う。
龍子・・いやマニちゃんの幸せを僕は願っているからね。
追伸、おまけでつけた能力が旨く覚醒する時を楽しみにしているよ。
またね。」
軽いよパニマ創造神様。
まぁうん、私が起きなかったらマニは身体も死んでいたからありがたいと思おうかな。
手紙を読み終えて、装備を整え少し進む。
アイテムボックスの中身は保険として、歩きながら食べられるものは確保して。
魔法の制御をしたり、アイテムボックスの中に紛れていた魔法の書を休みながら読んだりした。
それだけでも少しだけスキルレベルが上ったからだ。
夢中になっていて気付かず、少しづつ少しづつ森の中心に迷い込んだ。
キラキラとした水晶が、虹色に輝く。
「森の奥にこんな所が・・・すこく綺麗・・・。」
ほぅっと見とれてあたりを見回した。
キラキラとエファクトを撒き散らすような、そんな不思議で幻想的風景だ。
しかし。違和感が生まれた。
のそりと何かが動き、龍の姿に変わったのだ。
しかし、そのあまりにも幻想的な姿に。
恐怖より幻想的な美しさに見惚れた。
「ふぁ・・・綺麗・・・・。」
呟く言葉を不思議そうに眺める龍は、虹色水晶をその身に纏っていった。
お伽話で聞いた虹色龍という神龍だろうか。
「娘、なぜそんな阿呆面で我の結界の中に紛れ込めた?
いや、それよりも何故人の身で創造神の残り香があるのだ?」
慌ててひと通りの事。
パニマのてへぺろ失敗に巻き込まれ、この世界に転生した事から始まって。
消えていた前世の私が、今世の私が陰謀で捨てられ。
消滅するトラブルが起きて私が目覚めてここに居る事。
先ほどパニマの手紙を読んでいたから。
残り香があったのだろう事を嘘を交えず語る。
頭のいい上位龍は、嘘を嫌うと前世でも今世でも物語とかで聞きかじっていたためだ。
「ふむ・・・成る程。
あの創造神ならやりかねぬな。
不憫な娘よ。
うん、いま確認した。
確かに相違ないようだ。」
どうやら龍は念話で神々とインターネットのようにコンタクト取れるみたいだ。
凄いなぁ。
「それで娘よ、これからどうするのだ・・・っておい?
なにをしておる!
あぁ、若い娘がそのような短い髪に・・・。」
憐れむような声が慌てた声に変わる。
「え?あぁ、冒険者にでもなって他国に渡ろうかと。
ここに居ても命狙われそうだし・・・男装でもして。」
えへへ、と笑うと何故か龍は苦い声になる。
私は持っていた短剣でスパッと髪をざっくり切ったのだ。
足元近く伸びていた髪の毛が地面に散らばる。
龍のリアクションで、自分のしでかした事に思い至る。
前世ならともかく、この世界では俗世を捨てたシスターや聖女くらいしかショートヘアの女は居ない。
「仕方ない、我がそなたを守ってしんぜよう。
契約だ。」
「え?」
するすると切り飛ばした髪の毛が三つ編みに変わり、人化した虹色龍の長い髪の髪飾りになる。
人化した虹色龍は、とんでもないイケメンだった。
抜けるような白い肌、180センチほどの長身は脱いだら凄い細マッチョ。
薄い紫色の髪は、光加減でグラデーションに変わる。
キラキラしたままの姿で、彼は私に口吻た。
「ん?!んん!」
動揺する私をそっちのけで、虹色龍はドヤ顔だ。
「ふぅ、これで契約完了だ・・・ぶへっ、何をするのだ。」
勢い余って平手打ち。
多分痛くはないだろう。
むしろ私の手が心が痛い。
「酷い!私のファーストキスがぁぁぁぁぁぁぁ!
ふえぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
前世も含めてファーストキスだった。
なんてこったい。
流石に何か残念なものを見る目になった後、謝ってくる。
「こうしないと契約してそなたを守れぬし、なにより契約が終わらぬのだ。」
とか色々なだめて一時間くらいして落ち着いた。
それから一年ほど虹色龍のゼファーに、魔法や護身術を習い。
レベルも20近くなった頃、何か苛立つことでもあったのか。
森の住処を焼き払い、私を連れてゼファーは他国へと転移した。
暫くして、ゼファーと共に冒険者としてちまちまと活動していた頃、私は祖国が滅んだという噂を聞いた。
なんでも例のヒロインが他国の王子に浮気して、戦争の火種になったという噂が流れている。
やりそうだけど、そこまでアレな子なのだろうか?
とりあえず、立ち寄ったパニマ教会で祈りを捧げる。
この世界で私が覚醒してからの挨拶めいた習慣だ。
とりあえず祈りながら不思議に思いながらも、もう関係ない人達のことだから思考から追い出した。
そんな事より、ゼファーのセクハラが酷いんですけど。
隣に並べば肩か腰を持ちたがり。
二人っきりだと身体のあちこちにスキンシップと称して触れてくる。
何故触れたがるのかといえば、マニが柔らかそうだから。
とかおかしな事ばかりいうんだぜ。
その日も森の中で、私が男装しているのにも関わりず人目を憚らずベタベタしてきた。
トイレに行くと言ってやっと離れたタイミングで、ふと誰かの視線を感じた。
ちらりと見ると、怨嗟を色濃く浮かべる瞳がこちらを睨んでいる。
あれ?どこかで見たような・・・。
「あんたのせいよ。
何もかもあんたのせいなんだから!」
あ、あれは淫乱ピンクヒロインさんじゃないか。
一瞬分からなかったのは、あの無駄に輝かんばかりの笑顔とつややかなピンクの髪が、汚れて鈍っているだけでなく。
そう、喩えるならばアサシンのような殺気を・・・って。
え?!切りつけられた。
私壁殴り隊から殴られ隊になってたの?
うそぉ~ん。
「ちょっ!何するのさ。
私は追放されてからあの国に関わっていないんだから、良くわからないけれど関係ないでしょ?」
しかし、私の言葉がどうにも届かない。
どうやら心を病むヤンデレになったようだ。
うん、こっちにはデレてないね。
あんたがいなくなってから何もかも巧く行かなくなった。
男たちにはなぜか魅了が効かなくなり、嘘がバレ。
他国の王子に利用され戦争で祖国が滅んだ。
全部の原因はあんただ!
要約するとそんなかんじの事をずっとボソボソ言っている。
いや、言われてもよく分からん人の名前まで出て、それも私のせいにされても困るんだが。
あれ?この子何かの加護があった気がしたけど、消えてる?
良くはわからないけれど、神気がたしかに有ったはずが、微かなそれが消えているのだ。
だから気づかなかったのかもしれない。
私にもう一度短剣が突き刺されかけた瞬間に、私の身体が輝いた。
一つはゼファーを呼び出した力の本流。
もう一つは、心でパニマ神の折角くれた命を散らしてしまいそうだからと詫びた。
さて後は、私の体力でどう避けようか。
防御魔法の詠唱は間に合いそうもないと判断する。
そんな一瞬色々思い巡らせた。
考え過ぎで鼻血ふきそうなそれが、多分多重思考レベル一。
ニ以降は魔法も無詠唱で同時複数使用出来るのだろうか?
よく分からなかったが、生きていればなるようになるだろう。
溢れる神気はヒロインちゃんを弾き飛ばし、何処かへ消滅させた。
後で説明されたけれど。
パニマ神の怒りに触れたから、彼女はこの世界からはじき出されたらしい。
いろいろ突っ込みどころが有るが、とりあえず助かったようです。
「おい、しっかりしろ!マニちゃん!僕の可愛いマニ!」
誰かがきゅっと私を抱きしめ、深く口吻た。
あれ?なんかこのパターンにデジャヴが・・・。
眼を開くと、なんとパニマ神が私を愛おしそうに抱きしめていたのだ。
プラチナ銀髪のショタ神は、なんかショタの姿ではなくて私と同じくらいの歳になっていた。
「我のマニから離れろバカ神!」
そう言って、今度はゼファーが後ろから胸ごと抱きしめた。
「や・・やん、二人とも何してるの?
変な所触らないで?」
半泣きの上目遣い。
これで止まってくれるだろうか?
だが、スイッチの入った男には逆効果だと後々後悔する。
「マニは我かこの馬鹿神がいいか、選べ。」
そう言って、二人に宿へと連行され。
色々悪戯されまくった。
うん、前世今世セットでの初体験がこれとか、ぶっちゃけ最悪である。
しばらくは口きいてあげないんだからねっ。
それから受肉したパニマとゼファーにくわえ、他国の王子や皇太子や宰相とか魔法使いとか騎士とか剣士とか。
色々巻き込んだ正妻戦争ならぬ正夫の地位を勝手に賭けた、亡国の姫君の逆ハーレム騒ぎがこれから勃発する事を、マニは知らなかった。
なにやら長くなりそうなので、これも短編から連載に変えることとしました。
しばらくは消しませんので。
マニ姫シリーズよろしくおねがいしまーす。