味噌ラーメン、その後
二人はすでに昼食を終え、天水だけ遅れて、少し伸びてしまった味噌ラーメンを食べている。彼女は用事があったので、昼食の時間がずれた。
「そういえば、天水ってときどき古泉に、身長を十センチくれとか言ってるけど、具体的にどの部分を十センチもらうの?」
天水が食べているのを眺めていた名雲が、なんの脈絡もなく聞いた。
「それは気にしてなかった」
と古泉。天水はラーメンを食べる手を止めて、数秒考えてから、
「やっぱり、足かな」
「足っていっても十センチは大きいよ。膝全体くらいじゃない?」
名雲は自分の足を見おろしながら言った。
「移植したら私は膝なしで、天水の膝は二段階曲がるようになる」
「この際だから逆向きに付けよう。天水すげー」
「別の部位で」
天水は会話の合間に少しずつラーメンをすすっている。
「じゃあ、腹とか胸は? 胴体」
名雲は話題を帰る気がないようだった。
「足をバランスよく伸ばしてほしいけどね、でも膝だけ移植よりはマシかな」
天水は譲歩した。これ以上ラーメンがのびてしまう前に食べきるつもりらしかった。
「座高は?」
古泉が気付いて言った。
「ああ、身長が同じくらいなのに、腰の位置に二十センチくらいの差が出るね」
説明するように名雲が言った。
「却下で」
「天水はわがままだなー」
言葉とは違い、名雲は全く困っていない。
「背が高くなればいいってことじゃない。バランスも大事だよ」
天水は力説した。
「じゃあ、首は?」
「バランスについては?」
人の話を聞かない名雲に聞き返した。が、取り合ってもらえなかったので、天水は食べる手をゆるめなかった。
「なんで首?」
古泉が名雲に聞いた。
「下から順番にいこうと思って」
「なるほど、首を十センチだと、首なくなる」
名雲は胴体に頭が乗っている古泉と、首だけがやたら長い天水を想像してみた。
「きもちわるいな」
「うん」
古泉も同意した。
「今更だけど、私、食事中だよ」
「まあ、天水なら大丈夫」
「そこは信頼してるから」
「イヤな信頼のされ方だなあ」
そう言いつつも気にせずに食事を続ける。
「バランスが重要なら、五カ所くらいから二センチずつってのは?」
と、名雲が提案した。
「それだと、しゅじつこんが……」
古泉は言葉を途中で切った。二人はにやにやしながら古泉の方を向く。
「なあんだってー?」
名雲はあからさまに面白がりながら聞きなおした。古泉は一拍おいてから、
「だから、しゅじゅちゅこん……、あぁーもう」
古泉はテーブルに突っ伏した。「よしよし」と言いながらなだめるように天水が頭をなでた。
この光景はめずらしいな、と名雲は思った。
「手術痕がたくさんできる」と言いたかったようです。