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今はいない魔女・・・・・・夜明け前の瞳を持つ魔女の話

作者: トムトム

私は魔女だった。そんな彼女の生き方が分かります。

今はいない魔女……夜明けの瞳を持つ魔女の話


「さあ、時間だわ」

決まった時を広間の壁掛け時計が私に知らせてくれる。

私はゆっくりと立ち上がってテラスに向かう。

私の名前はアイリス。北の果ての氷の城で暮らしている。

テラスに出ると、いつもの様に呪文を唱えてから、杖を垂直に下ろした。

「今日も全世界が平和で幸せでありますように」

今日の呪文も終わって私は満足げに外を見まわす。

キラキラと輝きを放ちながら私が書けた魔法はゆっくりと全世界を包み込んでいく。

私がこの魔法を作り上げる前の世界は争いごとの絶えない殺伐とした世界だった。

平和になる呪文を唱えると、戦争をしていたはずの人々が休戦調停を結んでいたのを見た私は、争いのある地域が完全に平和になるまで呪文を唱えて新たな土地に向かうという……そういった生活をしていた。

そうしているうちに、私はアイスランドにある氷の城で暮らし始めた。

生き物のいない、この土地で暮らしているのには訳がある。

ここから呪文を唱えると、魔力が最大限の効果を発揮して全世界に広がっていくのだ。

街の人達のいう……パワースポットのようなものだろう。

朝の呪文を唱えた私は朝食を作ろうと思い、貯蔵庫に入る。

食べたいなと思っていたジャガイモが貯蔵庫にはなかったので、朝食を食べてから街の市場に出かけることにした。


「あらっ、アイリス。久しぶりだね。このベーコンを持って行きなよ」

「だめよ。ちゃんと買うわ。いくらかしら?」

お肉屋さんのおかみさんと話をする。ちょっと前までは可愛らしい娘さんだった。

街の人と私の時間はかなり違う。私の感じる一日が、街の人の1年になるのだ。

私にとって10日ぶりと感じる買物だって、街の人にしてみたら10年の時が経過しているのだ。

「はい、お釣りはいらないわ」

銀貨を一枚手渡すと。彼女はおまけよと言って食むや塩漬けの肉を分けてくれた。

「こんなにたくさんも……」

「いいのよ。お店では売れない部分ばかりだから。そうそう、野菜売りの叔母さんが……」

そう言うと彼女は言葉を濁した。何を言いたいのかは大体分かっている。

「そう、これから行ってみるわ。ありがとう」

私は荷物を受け取って朝袋に入れる。この袋にも魔法がかけてあって、城の貯蔵庫に直結しているのだ。だからどんなにたくさん購入しても重いと言う事は決してない。


次に野菜売りの店に向かう。前に会った時は少女だったはずの娘さんが店を切り盛りしていた。

「アイリス……母さんは二年前に……。それで、これをアイリスが来たらって……」

娘が渡してくれたのは美しい風景画だ。私が美しいと感じたものをコレクションとして集めている事を知っていたようだ。

「ありがとう。貰って行くわ」

私は肩から掛けている鞄に貰った絵を入れる。

そしてある事に気がついた私は娘さんのお腹にそっと手を当てて呪文をかけた。

「アイリス?」

「素敵な家族に恵まれる様にと、おまじないよ」

「ありがとう、アイリス。もしも……女の子が生まれたら、アイリスってつけてもいい?」

「いいわよ。その日が来たら小さなアイリスに合わせてね?」

「うん、約束ね」

野菜売りでも買い物をして、他には豆を買ったりチーズを買ったり小麦を買ったりしながら久しぶりの街を楽しんだ。


城に帰った私は、買ったものを整理してから、貰ったものをゆったりとした気持ちで眺めていた。

ガラスの置物、綺麗な花、私を書いてくれた絵……私の好きな美しいものが増えて街の人の暖かさが嬉しい。

若く見えるだろうけど、もう800年は生きているはずだ。最近は年を数えるのが億劫になってしまい、数える事を既にやめている。

私の体もゆっくりとだけども老いはやってくる。いつか動けなくなるその日までは、私は皆が平和に暮らせるようにと呪文をかけ続ける。


更に時が過ぎて、私の見た目も魔女らしくなってきた。人々の暮らしは近代的になってきて市場はなくなり、スーパーというものに変わり、馬車は車にとって代わった。

多少の環境破壊はあるけれども、人々は概ね友好的に平和に暮らしている。

最近の私は、自分の最期にかける魔法の研究をしていた。

この魔法をかけること……即ち、死を意味するのだが、それすら私は怖いとは思わなかった。

更に時が過ぎ、私の体も相当弱ってきてその魔法をかける時がやってきた。

私はいつもの様にテラスに立つ。いつもと違うのは呪文の内容だ。

「ずっと街の人達を見守りながら平和を願う呪文の効果が半永久的にありますように」

渾身の力で杖を振り下ろすと、私の体を眩い光が包み込んだ。

その後、私は光の粒子となってこれからは街の人の側で見守るのだ。


アイリスは魔女だった。アイリスの魔法は数多くの人を幸せにした。

今はもうアイリスはいない。


初のファンタジーですので、突っ込まれても回答に困りますのであしからず。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほろりときました。 氷の国が舞台なのに、温かな感じがします。
[良い点] 幸せを願う魔女、良いですねー。文章にも粗は見当たりませんでしたし、きっと書きなれていらっしゃるのだと推察します。 [気になる点] ちょっと気になったんですが、魔女のアイリスの感じる一日は人…
2014/06/10 18:24 退会済み
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