真嶋 雪子
真嶋雪子――――通称、『マジ子』
今日は思い切って、彼女をカラオケに誘ってみることにした。
勿論、2人きりなんて調子こいたことはしねェ。俺はそこまで馬鹿じゃねぇ。
いつもつるんでる男友達と、マジ子と仲がいい女子数名。
すでに許可は下りている。
後は本人様を誘うのみだ。
◆◆◆◆◆◆
「真―――嶋――――っ!」
俺は道具を机にしまっている、マジ子の肩を調子よく叩いた。
奴がスローで俺を向く。眉間に深く、しわが寄っていた。
「……何の御用件で?」
露骨に嫌そうな顔をするな、コイツ。
「いっやあ~真嶋とあんまり親密に関わったことねぇと思ってさ!」
「はい。親密に関わる理由がございませんので、こちらとしても受身であるのは確かです」
「でもさー、一応クラスメイトじゃん?仲良くしたらどうなのよ、え?」
クラスの注目が集まってきた。ざわつき始める教室。
マジ子の顔には、珍しく焦りの色が見え始めた。
「……ですから、何度もお訊きしています。何の御用ですか?私忙しいんです」
「じゃあ言うけど~?」
「はい、何でしょう」
「カラオケ行こ」
「……はィ?」
一瞬の間。
虚を突かれたような顔。
マジ子の反応を見て、どっと笑いの渦が巻き起こる教室。
「カ……カラオケ、ですか?」
「そそそ。カラオケ~。あれ、もしかして行ったことない?」
真面目女子ならあり得なくもない話だ。
マジ子は一瞬固まった後、静かに口を開いた。
「カラオケ、行ったこと無いです」
「……まじか――――」
ま、あらかた想像はついていたけどな。
俺が説明しようとすると、俺のいつめんが寄ってきて偉そうに語り始めた。
「真嶋さーん。カラオケっていうのはねぇ、マイク持って好き勝手歌うトコなんだよー。でね、盛りあがったら盛りあがったで結構うぇいうぇいするトコでもあるんだよー」
「う…うぇうぇ?」
「違う違う。うぇいうぇい♪だよ。はい、言ってみて?」
「うえーうえー…ですか?」
「違うちがーう。こう、もっとコブシをきかせてさァ…」
ばしっ
「いってぇ――!!何すんだよ!」
「お前何いらねぇこと語ってんだよ。するべきはカラオケの説明だろうが」
「あは☆そうでした~」
「すまない、真嶋。ま、でもあらかたカラオケってのはそういうもんなんだ」
「………です」
ん?なんか言ったか?
「……たいです」
「ごめーん。もっかい言って?」
「私、カラオケ…行ってみたいです!」
おおおおおおおおお――――――!!
なんとも意外な展開に、クラス一同が起立、拍手した。
「そうと決まれば、今日の放課後、カラオケボックスに直行な!」
「おおおお――――っ」
湧き上がるクラスメイトの輪の中心で、マジ子は今までにないくらい輝いた表情をしていた。
つづきまして、マジ子のカラオケ編です。