王子様の執愛は最愛を逃さない
今夜も自分の婚約者を探す夜会に、強制的に参加させられた第二王子カイン。
逃げるようにバルコニーでワインの入ったグラスに口をつける。
「ーー・・・婚姻など私には縁遠い・・・」
自分の心を占めるのは、十年前の色鮮やかな幼き少女エルシャとの過ごした甘酸っぱい記憶だけ。
失ったエルシャを忘れることなど出来ず、今も彼女に心奪われたままだ。
ふと気づくと、美しく懐かしいオルゴールのメロディが何処からか聴こえてくる
ーー私しか知らないメロディ?!
忘れたくても忘れられない甘い記憶が蘇る。
「ーーエルシャ?!」
バルコニーから飛び降り庭園へ降り立つと、直ぐ下の木陰から間違いなく音色が聴こえる。
がさっ!
「ーー誰だ!!」
逃さぬように、勢いよく草木を掻き分け覗き込んだ。
「ーーっきゃぁあ?!・・っえ?殿下?!」
木陰に潜んでいたのはメイド服を着た女だった。
「そのペンダントはエルシャのものだ!どこで見つけた!!」
「ーー何故私の名前を?・・っこ・・これは私のモノです!盗んだものではありません!」
「嘘だ!あの子はーー・・っん?!」
言いながらカインはハッと気づき、エルシャに近づくと彼女の腰を引き寄せ瞳を覗き込んだ。
薄い桃色の瞳の中に淡く浮かぶの金色の魔法陣。昔継母が教えてくれた特別な魔法。
ーーエルシャだ!・・・間違いない!・・だが何故こんな格好でここにいる?
「ーー・・失礼。見ない顔だがエルシャはなぜここに?」
「わ・・・私は今日が研修後初めての出勤でしたので・・今は休憩中でした・・」
「ーー配属は?」
「え?・・給仕ですが・・」
「ーーわかった!ならば君は今から私の専属侍女だ!」
「ーーはぃい?!」
エルシャは突然のカインの命令に驚愕する。
「私の命令は絶対だ!ーーいくぞ!」
カインはエルシャの腕を掴み、彼女の意思など関係なく連れて歩みを進める。
困惑するエルシャは顔面蒼白で狼狽えているが、カインには瑣末なこと。
彼女が姿を消して以来、感じることのなかった甘く切ない幸福感に心躍らせていた。
ーー君が覚えていなくても良い。でも私は君を見つけた!これは運命。私の唯一無二!・・・決して逃さない!!
二人の影は王族以外立ち入り禁止区域に消えていくのだった。




