十七.もう一つの家族
一度目を覚まし、父親と話をしたセオドアだったが、高熱に魘され、また三日ほども眠ってしまっていた。
セオドアの意識がようやくはっきりとした頃には、従妹は屋敷を後にしていた。彼が眠っていた間の出来事を話して聞かせる父に、セオドアは沈痛の表情を浮かべていた。
そんな息子の手を一度強く握り、父のルークは小さく微笑んだ。
「自首する際には、『家督を狙い、私が御者に命じて兄を事故に遭わせた』と言うつもりだ。――兄夫婦を死なせた罪は、私一人で背負う」
「父上……!」
驚いたセオドアは飛び起きようとし、腹部を貫いた痛みに身体を丸める。そんな息子の身体をベッドに横たえながら、ルークは目を細めて言った。
「良いんだ。兄の罪は重大だが、暴露したところで、誰も救われない。ヴィオラのためにも、無かったことにしよう。
──妻とお前には、卑劣な犯罪者の血縁という汚名を着せることになってしまうが」
眉尻を下げる父親の顔を見上げながら、セオドアは隣に腰掛けた母親に必死に訴えかける。
「母上は、それで良いのですか……?」
息子と同じ琥珀色の瞳を瞬かせ、緩く波打つ黒髪を払った母のリリーナは、そっと息子の頬に手を添えて微笑んだ。
「……私の実家も家族も、十年前の災害で失われた。不名誉を被る人はいないもの。三年前のあの日から、覚悟はしているわ。
貴方は……もしその日が来たら、躊躇わず逃げなさい。
――本当は、文官でも、まして伯爵でもない。外国で、取り組んでみたい研究があったんでしょう? 早くからお義兄様に後継者に指名されていたから、諦めてしまったけど」
両親の言葉に、セオドアは子どものように首を振る。巻き込んだのは自分なのに、と。
夫婦は顔を見合せて、そっと微笑む。父のルークが母のリリーナの右手越しに、セオドアの頬に触れた。
「子を守るのは、親の務めだ。手筈は付けてある。……長い間、苦労を掛けたな、セオドア。
済まなかった。そして……ありがとう」
柔らかなその声に、セオドアはそっと目を閉じる。
その眦から零れ落ちた涙を拭い、ルークとリリーナは静かに微笑んでいた。
異世界恋愛ものを書きたかったのですが……。やっぱり、ゴールは遠かった(冷や汗)。
罪とは、復讐とは、償いとは何か。どうすることなのか。
そんなことを考えながら、書き上げました。




