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ここ最近のオレムの視線には、どこか探るように感じる。

「以前のユリアス」と「今の私」を比べているのだろうか。私に問い詰めはしないが、言葉の端々や目線から、その意識が伝わってくるんだ。


でも、私が「佐倉結衣」であることに気づいてはいないはず。けれど、「ユリアスとは何かが違う」と感じているのは間違いない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「まずは魔法の基礎からだ」


オレムは机に分厚い本を広げ、静かな声で語り始めた。部屋には、ページを繰る音と彼の声だけが響く。

魔法について知れる私の心はかなり舞い上がっている。


「この国における魔法とは、人が内に秘める力——『魔力』を外へ放ち、形にする技術のこと。生まれ持った潜在能力といえる。程度の差はあれ、誰もがその身に宿しているものだが、魔法として使えるのは貴族がほとんどになる。」


「なるほど……」感心してつい声を上げた。


オレムは小さくため息をつき、再び口を開いた。

「この魔法は、大きく四つの基本属性、水、火、風、土に分類される。」


彼はページをめくり、鮮やかな図を指でなぞる。透明な水滴、揺らめく炎、渦巻く風、隆起する岩。本に描かれている生きているかのような筆致に、思わず目を奪われる。


「各属性には特性があり、応用方法によってはさらに細かく属性が分かれる。」


(ファンタジー小説にある属性と基本同じだよね。

私的には、回復魔法とかあったらいいなぁ。私の看護師の経験活かせるかもしれないし……!)

と、頭の中で勝手に妄想が広がっていく。



「我がフローレンス家は、代々『水』の魔力に強い適性を持つ家系だ。ユリアスや私も、水属性に恵まれている。」


基本、どんな魔法でもいいんだよね。こだわりないし……でも、

(水魔法!? カッコいい! 私、水の魔法使いになれるんだ!)

顔がにやけそうになるのを慌ててこらえる。だがオレムの視線に気づき、慌てて真顔に戻した。


「魔法の適性は、この『魔力感知石』で確かめられる。魔力を流し込めば、石が反応し属性に応じた色を示す。」


先ほどの厚みのある古い本の最後のページが開かれる。そこには、真っ白なページ。中央には、小ぶりで艶のない黒い石が、宝石のように埋め込まれていた。

とても不思議な感じがしたため、そのページを覗くように見入っていた。



「……ユリアスの属性はわかっているが、試してみるか?」


「はいっ、お願いします!」


反射的に即答していた。背筋を伸ばし、姿勢を正す。

(これが感知石!? ファンタジー小説でしか見たことないやつ! どんな反応するのか見てみたい!)


小躍りしたいほどだけど、必死に冷静を装う私。

魔法が「夢」ではなく、この世界の「現実」だと実感するたび、心臓の鼓動が速くなる。


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