1-9
ここ最近のオレムの視線には、どこか探るように感じる。
「以前のユリアス」と「今の私」を比べているのだろうか。私に問い詰めはしないが、言葉の端々や目線から、その意識が伝わってくるんだ。
でも、私が「佐倉結衣」であることに気づいてはいないはず。けれど、「ユリアスとは何かが違う」と感じているのは間違いない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「まずは魔法の基礎からだ」
オレムは机に分厚い本を広げ、静かな声で語り始めた。部屋には、ページを繰る音と彼の声だけが響く。
魔法について知れる私の心はかなり舞い上がっている。
「この国における魔法とは、人が内に秘める力——『魔力』を外へ放ち、形にする技術のこと。生まれ持った潜在能力といえる。程度の差はあれ、誰もがその身に宿しているものだが、魔法として使えるのは貴族がほとんどになる。」
「なるほど……」感心してつい声を上げた。
オレムは小さくため息をつき、再び口を開いた。
「この魔法は、大きく四つの基本属性、水、火、風、土に分類される。」
彼はページをめくり、鮮やかな図を指でなぞる。透明な水滴、揺らめく炎、渦巻く風、隆起する岩。本に描かれている生きているかのような筆致に、思わず目を奪われる。
「各属性には特性があり、応用方法によってはさらに細かく属性が分かれる。」
(ファンタジー小説にある属性と基本同じだよね。
私的には、回復魔法とかあったらいいなぁ。私の看護師の経験活かせるかもしれないし……!)
と、頭の中で勝手に妄想が広がっていく。
「我がフローレンス家は、代々『水』の魔力に強い適性を持つ家系だ。ユリアスや私も、水属性に恵まれている。」
基本、どんな魔法でもいいんだよね。こだわりないし……でも、
(水魔法!? カッコいい! 私、水の魔法使いになれるんだ!)
顔がにやけそうになるのを慌ててこらえる。だがオレムの視線に気づき、慌てて真顔に戻した。
「魔法の適性は、この『魔力感知石』で確かめられる。魔力を流し込めば、石が反応し属性に応じた色を示す。」
先ほどの厚みのある古い本の最後のページが開かれる。そこには、真っ白なページ。中央には、小ぶりで艶のない黒い石が、宝石のように埋め込まれていた。
とても不思議な感じがしたため、そのページを覗くように見入っていた。
「……ユリアスの属性はわかっているが、試してみるか?」
「はいっ、お願いします!」
反射的に即答していた。背筋を伸ばし、姿勢を正す。
(これが感知石!? ファンタジー小説でしか見たことないやつ! どんな反応するのか見てみたい!)
小躍りしたいほどだけど、必死に冷静を装う私。
魔法が「夢」ではなく、この世界の「現実」だと実感するたび、心臓の鼓動が速くなる。




