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「さて今日は、魔法についてだ。」


オレムがそう口にした瞬間、私は思わず椅子をガタッと鳴らして立ち上がりかけた。

「ま、魔法!? 本当に!?」


心臓が一気に跳ね上がる。


「ここって……ほんとに魔法がある国なの?」


弾む声を抑えられない。


オレムは一瞬目を丸くし、数秒間沈黙してから低く呟いた。

「……まさか、魔法すら知らないとは。」


その言葉を聞き流し、私は興奮のまま畳みかける。

「だって、魔法っていったらさ、ファイアボールとか、ヒールとか、ほら、空を飛んだり、魔法陣で召喚獣を——」


「落ち着け、ユリアス」



オレムの冷静な声と咳払いに、私はハッと我に返った。顔が一気に熱くなる。

(うわ……完全にアニメ好きの中二病みたいじゃん……! でも憧れてたんだもん、仕方ないでしょ!)


オレムは額に手を当て、深いため息をついた。

「……魔法に関する記憶がないのは予想していたが、これは思った以上に厄介だ」


「えっと……厄介って?」


「魔法は、この国の貴族では必修教育だ。そのため、魔術学院で基礎と応用を修めるのが常識。そして——ユリアス、お前はすでに“卒業した身”だ。」


「そ、卒業!?」


思わず声が裏返る。オレムは静かに頷いた。

「学院に再び学ぶということはできない。そのような前例は今までないので、フローレンス家の名誉にも関わる。……つまり、周囲はユリアスが魔法を理解していると思っているわけだ。」


(え、ちょっと待って……それって魔法学校に通えないってこと!? 行ってみたかったのに!)


心の中で思わず地団駄を踏む。けど同時に、貴族のプライドって面倒すぎるとツッコまずにいられない。


「現状、ユリアスは“知っていて当然”のはずが、現状は素人同然。それが露見すれば、不信や疑念を招く。最悪、フローレンス家が政治的に立場を失いかねない。」

「……それってかなりマズいよね」

「その通りだ」


オレムの淡々とした声に、背筋がぞくりとする。魔法がこの世界の「常識」であり、「教養」なのだ。知らないのは、この体に入っている私だけ。


だが次の瞬間、オレムは口調を和らげた。

「まぁ、心配しなくてもいいよ。私と信頼できる友人が補うから安心していい。」


その言葉に、胸の重さがすっと軽くなる。兄の落ち着いた声は、不思議と心を救ってくれる。


「ありがとう、オレム。本当に……頼りにしてる」


そう言ってぺこりと頭を下げると、オレムは驚いたように瞬きをし、それから静かに微笑んだ。



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