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私が座るソファの横にオレム立ち、穏やかな声で切り出した。
「今日はフローレンス家のことを少し話しておこう」
私はこくりと頷き、背筋を伸ばす。
「この国セルベコウ王国には、四つの公爵家がある。フローレンス家は、そのひとつになる。
ちなみに、公爵家は王に次ぐ権威を持ち、この国の軍や政治、文化の場で大きな影響を与えている。」
(公爵家……!?)
思わず胸が跳ねる。日本では考えられない身分社会。豪華な屋敷、メイドの所作、家族の気品ある振る舞い——すべてが、その「公爵家」の証だった。
「この屋敷には、当主である父と、昨日会った母セレナ。そして長男一家、次男の俺、そして……ユリアスが住んでいる」
「え……じゃあ、もう一人お兄さんがいるの?」
「そうだ。長男のリュシアン。父と共に領地を巡っていて、ユリアスが倒れたと伝えたら、すぐに戻ると返事があった。数日中には帰ってくるだろう。」
そう言って、オレムは机の上の肖像画を手に取った。少し古びた額縁には、六人の人物が並んで描かれている。穏やかに微笑む母セレナ、威厳ある男性——おそらく父、そして四人の子供。その中のひとり、蒼い髪の少女。鏡で見た自分の姿と重なった。
「それから、君には姉もいる。長女のレティシアだ。今は他家に嫁いでいるがな」
(……お姉さんもいるんだ)
佐倉結衣は一人っ子だった。兄弟姉妹に憧れたことはあったけれど、こんな形で「家族」が増えるなんて。胸の奥がじんわりと温かくなる。知らない世界、知らない自分なのに、支えてくれる家族がいると思うと、不思議と心強さを覚えた。
「……なんか、すごく不思議な気分」
ぽつりと漏らすと、オレムはわずかに口元を緩めた。その笑みは、厳しさの奥にある優しさを垣間見せていた。




