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「じゃあ……始めましょうか」
私がそう言うと、シュナさんとフィナさんが、まるで実験授業を前にした学生みたいに姿勢を正した。
(なんだか、私が先生みたいで緊張する……)
でも、ふたりの瞳は純粋な興味に満ちていて、胸の奥が少し温かくなる。
机の上には、
・オルナ実油(植物油)
・はちみつ
・蜜蝋
それに、湯煎用の魔法加熱台まで用意されていた。
「まず、このビーカーに全部入れていきます。量は……今日は試作なので、適量で」
そう説明しながら、私は木べらで蜜蝋の欠片をすくった。
コトリ、とビーカーの底に落ちる固い音。
ちなみに適量といったけど、ハッキリ言って分量は覚えていないんだよね。
「蜜蝋って食用だけじゃなく、ろうそくや日用細工の日常使いが一般的なのよね。
薬品にもなるんだけど、保湿のクリームの原料になるとは思わなかったわ」
シュナさんが感心しながら、私の様子を見ていた。
次に、トロリと黄金色の液体のはちみつを蜜蝋の上に重ねていく。
最後に、オルナ実油を適量。こちらも分量は覚えていないので適当。
「次は湯煎で温めます」
用意してくれた湯煎用の魔法加熱台の上にビーカーを置き、ゆっくり蜜蝋を溶かしていく。
やがて、蜜蝋の端がじわりと透明に溶け始めた。
「そろそろ混ぜてもいいかもしれません。」
木べらを持つと、すかさずシュナさんが手を上げた。
「混ぜるの、やってみたいわ!」
ワクワクした顔で木べらを握る彼女は、まさに“実験大好き少女”。
優しく混ぜると、とろりとした半透明の液体がゆっくり動いた。
「……わあ、面白い。蜜蝋だけの時とは違う感覚。」
やがて完全に蜜蝋が溶け、均一な液体になった。
「じゃあ、容器に移しますね。熱いので気をつけて」
ゆっくりと、魔法ガラスの小さな容器へと注がれていく。
淡い金色の液体が、とろりと流れ込み、表面に小さな波紋が広がる。
——そしてしばらくすると、
容器のふちから、ほんのり白っぽく固まり始めた。
「ここからが大事です。空気を含ませるように、ゆっくり混ぜてください」
「はい!」
細長いスプーンのようなもので、彼女は嬉しそうに程よい力加減で混ぜ始める。
ゆっくり、ゆっくり。
液体の中に空気が入り、もったりしたクリーム状に変わっていく。
「……すごい。少し色が変わってきましたし、混ぜている感覚が変わってきました」
なにも発しず見ているフィナさんも興味津々の表情だった。
そして——
「はい、そろそろいいと思います。あとは冷えるのを待つだけです」
容器の中はまだほんのり温かいけれど、表面は少しずつクリーム状に固まり始めていた。
「……ほんとうに、これが保湿クリームになるんですね」
シュナさんが感慨深そうに呟く。
「思った以上に簡単にできるからビックリ!」
研究室の光に照らされたクリームは、どこか宝物みたいに見えた。
それを3人で覗き込む。
「固まったら、私が一番に試します!」
シュナさんが力強く宣言し、フィナさんが小さく笑う。
こうして——
異世界初の『手作り保湿クリーム』の試作が、完成したのだった。




