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「それにしても、ユリちゃんの世界ではすごいのね。
その保湿クリームっていうのが普通に流通していたってことでしょ?」
椅子から身を乗り出しながら、シュナさんが期待のこもった眼差しを向けてくる。
「はい。クリームや軟膏、ローション……いろいろありましたけど、普段使いならクリームを使う人が多かったと思います。」
「へぇ……そんなに種類があるのね」
フィナさんが紅茶を置きながら、興味深そうに眉を上げた。
「ということは、水仕事をしている方々は、そこまで手が荒れなかったのでしょうか?」
とフィナさんが尋ねてくる。
うーん、どうだったかな。
まったく荒れていなかったわけじゃないけれど、ひどく悪化している人は確かに少なかった印象なんだよね。
「多少は荒れますけど……ほとんどの人がケアをしていましたし、痛みで仕事ができないほど悪化することはほぼなかったかと思います。」
「それでしたら……メイドや給仕たちの負担が減りますね!」
フィナさんの瞳がぱっと明るくなる。
「ほんとうね。保湿という概念が広まれば、みんなが助かるわ。」
シュナさんも心底嬉しそうに笑った。
二人の反応が想像以上に真剣で、私は少し驚いてしまう。
でもそれだけ、この世界ではケアを行うという習慣がないんだろう。
「それにしても、保湿クリームの作り方をご存じってことは……成分にも詳しいということですわよね?」
フィナさんが、どこか尊敬の眼差しを向けてくる。
「い、いや……市販されてるものの成分までは、さすがに……」
「しはん……?」
彼女が首をかしげた。
「あ、町で売られている商品、ってことです。」
私が知ってるのは、薬学生の友人と実験がてらの遊びで、手元にある材料を混ぜて保湿クリームを作ったくらいなのだ。
なので、メーカーが作る本格的な成分は把握していない。
一緒に作った薬学生だったら、知っていたと思うけど……
と説明をした。
「ただ、そのとき作ったクリームでも十分効果があったので……同じような材料がそろえば、シュナさんの手荒れもだいぶ改善すると思います。
どの成分がどう効くかは説明できないんですが、保湿、皮膚に水分を閉じ込めるだけでもかなり違うんです」
素直に話すと、二人は顔を見合わせ——
「それは……すごいことですね」
フィナさんの声が、いつになく弾んだ。
「ユリちゃん、まるで新しい医療分野を切り開くみたいじゃない!」
シュナさんの瞳がきらきらと輝く。
いやいや、そんな大げさな……。
でも、二人の反応を見る限り、この世界ではこのようなケアという考え方が本当に珍しいらしい。
「では……午後、いえ今からでも、研究室へ向かいましょう!
材料を確認して、作れるかどうか試してみましょうね!」
シュナさんが椅子から立ち上がり、胸に手を当てて宣言する。
私はその姿に思わず笑ってしまった。




