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三人で、紅茶とケーキをおいしくいただく。
こちらの世界では、紅茶がとにかくおいしいのだ。
コーヒー派の私。最初の頃は「コーヒーが飲みたい……」と恋しく思っていたけれど、今ではすっかり紅茶派に乗り換えてしまったくらいだ。
香りがまず違う。湯気の奥にふわっと花のような甘い香りが広がって、飲む前から幸せな気分になれる。
そして一口含めば、渋みはなくも優しい甘味が先に来る。
疲れた心を包み込むような、そんな味だった。
そして、この紅茶に引けを取らないのが、目の前のケーキ。
しっとりとしたスポンジに、ふんわりとした生クリーム。
上のる果実が宝石のように輝いている。
「このケーキ、気に入っていただけたかしら?」
シュナさんが嬉しそうに問いかけてきた。
「はい、とってもおいしいです」
自然と頬がゆるむ。
(このクリーム、口に入れた瞬間に溶ける……。フルーツの酸味とのバランスも完璧!)
日本で食べていたケーキとは少し違う。甘さが控えめで、素材の香りが際立っている。
小麦も砂糖も、きっとこの世界のものなんだろうけど——
なぜだろう、懐かしい味がした。
「よかったわ! これ、王都の人気店のでね。ここのパティシエの腕がとにかくいいのよ!
極秘情報なんだけど、ここの果実は熟成を魔法を使うのよ」
「魔法で?」
「ええ。詳しくは知らないんだけど、魔法で熟成させ、果物の糖度を上げてるってウワサ」
フィナさんが補足するように微笑んだ。
(食べ物の仕込みにも魔法を使うんだ……!)
この世界では、魔法が生活の隅々まで浸透しているらしい。
私は“治癒魔法”で頭がいっぱいだったけど、
こういう日常的な使い方もあるんだと思うと、なんだか不思議な気持ちになる。
女子会も楽しく進んでいく中、
お城にはオレムと一緒に来たはずなのに、一向に姿が見えない。
昨日のように、殿下たちもいない。
(でも今日は、なぜ女子だけなんだろう……?)
「ほかの方々はどうされたんですか?」
問いかけると、シュナさんが紅茶を飲みながら答えた。
「今日、殿下たちは魔物狩りよ」
「……魔物狩り?」
思わず聞き返してしまう。
魔物。
まるでゲームやファンタジー小説の中の存在みたいな響きだ。
(いや、でもこの世界、魔法がある時点で十分ファンタジーなんだけど……!)
でも、実際に“魔物”が存在するってどういうこと?
本当に人間の敵として現れるの?
それとも、野生動物みたいなもの?
「この季節は、森に魔物が出ます。繁殖期に入るためか、山の奥から出てくる個体が多くて……。
村を襲うような危険な魔物も混じっています。
そのため、殿下や騎士たちは毎年この時期に討伐に向かわれるのです。」
フィナさんが、丁寧に説明をしてくれた。
討伐、それって戦いになるよね——なら、けが人も出るよね。
(皆、……無事に戻ってこられたらいいんだけど。)
そんな私の心配をよそに、シュナさんは肩をすくめて笑った。
「まあ、あの人たちのことだから大丈夫よ。殿下もオレムも、戦場に出れば無敵ですもの」
「そうはおっしゃっていますが、シュナさんは魔物討伐が始まるまで、大変だったのではありませんか?」
フィナさんが少し呆れたように言う。
「え? シュナさんも関わってたんですか?」
「ええ、準備にね」
シュナさんは照れたように笑って、紅茶のカップを軽く回した。
「私にとっては趣味みたいなものだから、大変ってほどでもないわ」




