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4-1

昨日の出来事は、まだ頭の中で整理しきれていないのに、

気づけば今日もまた、あの部屋に連れてこられていた。


ただ、昨日とは少し様子が違う。

兄のオレムも、アストラッド殿下も、そして側にいた騎士の姿がない。

今この部屋にいるのは——フィナさんとシュナさん。

女性だけの、私にとっては穏やかな空間だった。



「ささ、これ! 巷で評判のケーキなんですよ。ぜひ食べてみてくださいな!」


嬉しそうに皿を差し出すシュナさん。

その姿に、フィナさんがすかさず咎めるような声を上げた。


「シュナさん。ユリアス様は公爵家のご令嬢、シュナさんは伯爵。もう少し礼儀をわきまえてください。」


(ああ……やっぱり、そうなんだ。)


私としては、そういう堅苦しいのはちょっと苦手だから、気にしない。

むしろ、気軽に話せたほうがずっと楽なのに。


今日の顔ぶれなら、まるで“女子会”みたいな空気があって、

昨日の緊張感なんてどこかに吹き飛ぶんだけどな。


だからこそ、私は少し勇気を出して口を開いた。


「あの、ご存じかと思いますが……私、あまり身分とか気にするほうではありません。

 せっかくですし、気楽にしていただけたほうが嬉しいです。」


すかさず、シュナさんが手を叩いて賛同する。


「ほーら、ユリちゃんもそう言ってることですし!」


「そういうわけにはいきません!」


抗議するフィナさん。

でも、彼女がまじめなのは、昨日から見ていて分かっていた。

(フィナさん、仕事年審で責任感のかたまりなんだよね……。)



立場上、ずっと私たちの背後で控えていて、彼女は席につこうとしない。


(わかるけど……そんなに畏まらなくてもいいのに。)


うちの屋敷のメイドたちもそうだけど、立場上難しいのはわかるけど、融通が利かないんだよね。


私は軽く息をついて、せっかくのケーキを見下ろした。

淡いクリームに旬の果物だろう、色とりどり艶やかに乗っている。

ほんのりとした甘い香りが漂っており、見るからにおいしそうだ。



どうしたらいいのだろうと、戸惑っていると——フィナさんがにやりと笑いウィンクした。


(え、今のウィンク……“任せて”って合図?)



次の瞬間、彼女が少し大げさに肩をすくめて言った。


「フィナ、わたくしがせっかく用意したケーキを食べれないってこと?

 一緒に食べたほうが楽しいし、おいしいのに誘っておりますのに、それを断る方が無礼ではありませんの?

 それに、このケーキ、用意するのけっこう大変だったんですのよ!」


アニメで見たような、悪役令嬢っぷりのような言い方!



シュナさんの言葉に、フィナさんは一瞬だけ黙り込み——小さくため息をついた。

「……わかりました。では、今回だけ特別に。」


そう言って、ようやく空いていた席に腰を下ろす。

どこか呆れたような顔をしながらも、口元がほんの少し緩んでいた。


「やった!」とシュナさんが嬉しそうに私を見る。

私は思わず、心の中で“ブラボー!”と拍手を送った。


フィナさんがをを出でくれた紅茶は、湯気とともにふわりと柔らかな香りが立ちのぼっている。

甘く香る紅茶と、ケーキの甘さが混ざり合っている。


こうして、フィナさんが入れた紅茶と、シュナさんが用意したケーキによる、

三人だけの“女子会ティータイム”が静かに始まったのだった。


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