3-11
「それよりも——」
アストラッド殿下が発すると、私は彼の方へ顔を向けた。
「君のいた“別の世界”について、いくつか聞きたいのだが……構わないか?」
「はい。」
頷きながらも、喉の奥が少しだけ緊張で固まる。
「ひとつ。……この国とは、文化がどのように違う?」
(う……いきなり核心から来た……)
内心でうろたえながらも、私は慎重に言葉を選ぶ。
「正直に申し上げて、この国の文化をまだ十分に理解できておりません。
ので、どのように違うのかは説明しずらいです。
ですが、確実に言えるのは——“身分制度”と“魔法”の存在です。
私のいた世界には、それらは存在しませんでした。」
「ふむ……世界の根底が、そもそも違うのか。」
殿下は興味深そうに眉を上げ、小さく頷いた。
そして——なぜか楽しげに、口の端をわずかに持ち上げる。
「そのような世界があるとは。非常に興味深い。」
(……いや、その顔、ぜったい何か企んでる顔だよね!?)
何を考えているのか全く見えない。背中を冷たいものが這う感覚に、思わず姿勢を正す。
「二つ目。君が言う“医学”という知識は、どのように得た?」
「看護専門の学校で学びました。」
「看護……とは、何だ?」
(あ、やっぱり通じないよね)
「はい。向こうの世界では、看護師という職業がありまして、
傷や病気を負った人の回復を支えるために、身の回りの世話をしたり、診察や治療の補助を行う仕事です。
その知識や技術を学ぶ場所が“看護学校”です。」
丁寧に説明すると、殿下は目を細めて腕を組み、しばらく思案するように沈黙した。
そのとき——
「もしかして、薬師の専門の学校もありますの?」
ぱっと顔を輝かせて口を開いたのは、隣に座っていたシュナだった。
まるで宝石のように、瞳がきらきらと光っている。
薬師……って、つまり薬剤師のことだよね?
「はい、あります。」
「まあ……素敵ですわ! 私も、そのような場所で学んでみたいです!」
(えっ、シュナさん!?)
思わず拍子抜けする。
でも、彼女の純粋な好奇心に、なぜだか少し安心する自分がいた。
「シュナのことは置いておく。」
軽く咳払いした殿下が、再び私の方へ視線を戻す。
「では、その“医学”の知識を——“魔法”として応用することはできるのだな?」
「……」
確かに、知識が魔法と結びつくなら、可能性は大きいだろう。
今回の件を踏まえると、理論上は、可能なのだろうけど、私が答えていいものだろうか、、
(それにしても、本来の魔法の発動条件って、なんなんだろう……)
そう思った瞬間、殿下の瞳が再び細められた。
その光はまるで、私の思考の奥まで覗き込んでくるようだった。




