3-10
アストラッド殿下の声音には、淡々とした響きの中に、鋭い観察の色が宿っていた。
思わず背筋が伸びる。
「やはり、原理や構造を理解していなければ、あのような治癒は成立しないのだろう。
“想像”や“感覚”ではなく、“理解”による魔法……か。……興味深いな。」
静まり返った部屋の中で、その声はよく響いた。
(い、今の“興味深い”って……絶対いい意味じゃないよね!?
てか、そんな冷静に分析しないで……緊張で倒れそうなんだけど!)
その隣で、シュナが勢いよく椅子を鳴らして身を乗り出した。
「そうなんですよ、殿下! 今の話、非常に重要ですわ!」
興奮を隠せない様子で、目を輝かせながら早口でまくしたてる。
「今の説明、私たちの使う魔法体系とは根本的に異なります!
オレムの考察……やっぱり正しかったんだわ!」
(まって、なんか話が大ごとになってる!?)
頭の中でツッコミが止まらない。
彼らが言う“感覚での魔法”って、私の“理屈で理解して使う魔法”とはまるで別物みたい。
オレムが肩をすくめ、苦笑まじりにため息をついた。
「シュナ、少し落ち着け」
「落ち着いてられないわ!」
シュナは感嘆の息を漏らし、両手を胸の前で組む。
「だって、理解すればあのような魔法が使えるのでしょう?
だったら、学んでみる価値はあると思うんです!」
勢いそのままに、今度はまっすぐこちらを見てきた。
彼女の瞳が期待に満ちて輝いている。
「ユリアス嬢、もしよければ、今度詳しくお話を聞かせてくれませんか?
あなたの“治癒の理屈”を、もっと知りたいんです!」
(えっ、そんな急に……!?)
完全に心の準備が追いつかない。
あたふたしていると、柔らかな声がその熱を冷ますように割って入った。
「シュナさん!少し落ち着いてください。ユリアスさまが困っています。」
穏やかに諭したのはフィナだった。
先ほどまで静かに見守っていた彼女が、微笑みを浮かべてシュナを制する。
その声音はやわらかいのに、不思議と場の空気を整える力があった。
我に返ったシュナは、顔を赤らめて軽く咳払いをする。
「いや……つい、興奮してしまって……」
「気にしないでください。」
私は思わず苦笑いしながら答えた。
アストラッド殿下はカップを軽く指先で叩き、静かに言葉を続けた。
「この力は、放っておくには惜しい。
もし再現性があるなら、王国の医療体系そのものを変えかねない。」
(え、いきなり国家規模の話!?)
心臓が一気に跳ねる。そんな大事になるなんて聞いてないんだけど!
すかさずオレムが口を挟む。
「殿下、彼女は目覚めてまだ日が浅い。魔力の扱いにも慣れていません。
まずは基礎を固める方が先です。……もっとも、基礎魔法の訓練が彼女の魔法に影響を与える可能性もありますが。」
殿下は一拍置き、静かに頷いた。
「確かに。」
そして、再び私へと視線を向ける。




