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3-4

沈黙の中、ティーカップの音だけがかすかに響く。

紅茶の柔らかな香りが漂っているのに、喉はひどく乾いていた。


皆さんの視線がすごく感じる。

そんな中、この部屋の主でもある彼が、真っすぐに私を見据え——静かに口を開いた。


「……初めまして、ユリアス嬢。お会いできて光栄です。」


その声は、思っていたよりもずっと穏やかで、深みのある響きだった。

音の一つひとつが、胸の奥に届くようで、思わず呼吸を忘れる。


(……)


分からないが、私の胸の鼓動がさらに速くなっていく。

今回の新たな出会いでドキドキしているのか、これから始まる“何か”への予兆なのか、

不思議で今まで感じたことのない気持ちに、私はその言葉を飲み込んだ。


目のやり場に困って、視線が泳ぐ。

逃げるように下を向きたいけど、それは不作法。

けれど目線を合わせる勇気もなく、結局、意識を紅茶の香りへと逃げた。



そんなとき——


「オレムから聞いた通りじゃない」


穏やかな笑みを浮かべながらそう言ったのは、目の前に座る女性。

声音は優しいのに、こちらも不思議な圧を感じる。


(……え? 聞いた通りって、どういう意味?)


そういう意味か分からない私。この人たちに私のことを話ったってことだよね。オレム!?

変なこと言ってないよね?「ちょっと抜けてる」とか言われてたら泣くよ?


そんな私の内心を見透かしたように、メイド服の美女がふわりと笑った。


「オレムさんのことです。何も言わずにいきなり連れてこられたのでしょう。戸惑って当たり前です。」


その一言に、心がふっと軽くなる。

(うん、ほんとそれ!)

思わず何度も心の中でうなずいた。

まるで自分の気持ちを代弁してくれたようで、涙腺が少し緩みそうになる。



「それよりも、オレムゥ。笑ってないで、ちゃんと紹介してあげたら?」


穏やかな指摘に、私は反射的にオレムを見た。

案の定——口元にうっすらと笑みを浮かべている。


(……笑ってる。絶対、楽しんでるでしょ!?)


少しムッとして、私はジロリと睨んだ。

「ちゃんとして」と目で訴える。


オレムは肩をすくめ、わずかに咳払いをして姿勢を正した。

その仕草だけで、場の空気が少し改まる。


「では、改めて紹介しよう」



声のトーンが変わった瞬間、室内の空気がすっと張り詰めた。

誰もが自然と背筋を伸ばす感じだ。


「中央におられるのは、アストラッド・ダリアン・セルベコウ殿下だ」



(……え?)


耳に入った言葉を理解するのに、数秒かかった。


「……殿下?」


反射的に口をついて出た自分の声が、やけに響く。

“殿下”という響きが現実感を伴わないまま、頭の中をぐるぐる回る。


(今、“殿下”って言ったよね!?)


王族。

つまり、王様の近しい人っていう事だよね!?


(え、嘘でしょ……!私、今、王族の人に会ってるの? 本物の?)


考えれば考えるほど、現実味が遠のく。


オレムよ、さらっと言うわないでよ……もっと早く言ってほしかった!

この部屋に入るところから一からやり直したい!



私の混乱など意にも介さず、アストラッド殿下の視線がすごく気になる。

ただ静かに私を“見極めて”いるようだからだ。


紹介されたので、何も言わないのはまずい。

私は必死に姿勢を正し、引きつり気味の笑顔で頭を下げた。


「お……お会いできて、光栄です、殿下」


声が震えていたけれど、どうにか絞り出せた。

ほんの一瞬、殿下の口元がわずかに緩んだ気がした。

その笑みを見て、少しだけ肩の力が抜けた。


それにしても、どうして私はここにいるのだろう。。。

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