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数日が、静かに過ぎていった。
その間、オレムは朝早くから出かけ、昼夜を問わず忙しそうにしていた。
今まで、ほとんど付きっきりで面倒を見てもらっていた分、忙しそうにしていると、申し訳ない気持ちになる。
一方の私はというと、毎日を“貴族としての礼儀作法”の習得に費やしていた。
ナプキンの扱い方、椅子の座り方、歩くときの姿勢、扉の開け閉め、会釈の角度、そして笑うときの口元——
そのすべてが、優雅で、品位をもって、美しくあらねばならない。
日本にいた頃の感覚では到底考えられないんだよね。
「礼儀」という言葉の重さが、ここでは“生き方”そのものなのだ、疲れる。。。
ルーシャをはじめとしたメイドたちは丁寧ではあるが、妥協を一切許さない。
「お嬢様、それでは下膨れに見えます」
「微笑む際は、歯を見せずに」
「足先は揃え、少し斜めに。そう、その角度を保って」
毎日が、緊張の連続だった。
何度も同じ動きを繰り返し、少しの油断でやり直し。
背筋を伸ばし続けるうちに、肩や背中はこり固まり、終わるころには全身が鉛のように重かった。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
「昨日できなかったことが、今日は少しうまくできた」
——そんな感覚が、どこか懐かしかった。
かつて、看護実習で学んだ日々を思い出す。
シーツ交換や清拭などなど、、、、
何が正解なのか分からないが、ひたすら正解を求めて繰り返し練習していたなぁ。
練習したその努力が、いつか人の命を守る技になると信じていた。
今は違う世界で、“貴族の娘”としての形を磨いている。
けれど、根っこにある「学ぶ喜び」は、あの頃と何も変わっていない気がした。




