2-7
「で、話に出てきたけど——君のいた“向こうの世界”では、一人で生活していたって言ってたよね?」
オレムが紅茶を口にしながら、ふと尋ねてきた。
「ってことは……平民だった、という解釈でいいのかな?」
突然の質問に、私は思わず苦笑した。
(あー、そういう発想になるんだ……)
この国では、生まれながらに身分が決まっている。貴族、騎士、平民——生き方も義務もそれぞれ違う。
だから、オレムがそう尋ねるのも無理はない。
「うーん、ちょっと違うかな。」
私は少し考えながら言葉を選んだ。
「私のいた世界では、“身分制度”ってものはないんです。
誰もが同じように生活していて、お金や仕事の違いはあるけど、“生まれ”で上下が決まることはありません。だから、国民全員が“平民”って言い方が一番近いかも。」
て解釈でいいんだよね?こういう社会学的な内容の説明が一番苦手なんだよね。
オレムは少し目を細め、興味深そうに頷いた。
「なるほど……。生まれではなく、努力や才能で立場が変わるということか。」
「そうですね。もちろん、うまくいかない人もいるけど……基本的には、自分の生き方は自分で選べる世界ですね。」
自分で話しながら、ふと懐かしさと少しの寂しさが胸をよぎる。
アパートの一室、狭いけど落ち着く空間。
自分で作った料理、洗濯物の匂い、夜のコンビニの灯り——ちょっと前までは、全部日常だったんだけどな。
「だから、今はメイドさんたちがやっていることも、だいたい自分でできるんですよ。」
そう言うと、オレムは驚いたように眉を上げた。
「掃除も洗濯も料理も? 貴族の娘がそれをやるなんて、この国じゃ考えられないよ。」
「やらないと生きていけないんです。」
私は思わず笑ってしまった。
「生活するために必要なことって、自然と身につくんですよ。ある意味、それが“常識”でした。」
「ふむ……」
オレムは小さく息を吐く。
「はー、判断が難しいね。」
その口調には呆れと感心が混ざっていて、なんだか少し嬉しかった。
一瞬の沈黙のあと、彼は表情を引き締めて言った。
「で——食事の内容を変えることで、父の病は治るのかな?」
その問いには、真剣な響きがあった。
私は姿勢を正し、できるだけ慎重に答える。
「結論的には“治りません”。
魔法を使えば一時的に痛みを消すことはできますが、それは“治療”ではなく“対症療法”。
根本的な改善には、食生活を見直して、身体の中から尿酸の量を変えていくしかないんです。……つまり、長期戦ですね。」
オレムは腕を組み、静かに考え込んだ。
「なるほど。なら、魔法で無理に治すのは控えた方がいいな。
痛みが引けば本人も安心してしまう。だが、根が残っていればまた同じ苦しみを味わう。」
彼の言葉に、私は安堵の息をついた。
(ちゃんと理解してくれてる……)
「父には長生きしてもらいたいしね。」
そう付け加える彼の声には、静かな優しさがにじんでいた。
「一番手っ取り早いのは、ビールを控えてもらうことなんだけど……」
私が言うと、オレムは少し首をかしげた。
「ビール、か。——それが、一番の“凶”なんだ?」
「はい。あれが痛風の原因の一つでもあるんです。飲みすぎると、尿酸っていう成分が体の中にたまって……」
「ふむ……まるで毒のようだな。」
「まあ、飲みすぎれば、ですね。」
オレムは少し笑って頷いた。
「父はよく飲むからね。それに関してはこちらで何とかしよう。」
「え?……そんなこと、できるの?」
「まぁ、安心して任せてくださいな」
さらりと言い切るオレムの笑みは、どこか頼もしくてずるい。
それは助かるけど、どうするつもりなんだろう。
彼に任せていたら、いいように何とかしてくれるよね。
「助かります。」
投稿を初めて1ヶ月。
読んでいただきありがとうございます!
読みずらい所があるかと思いますが、今後ともよろしくお願いします。




