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突然、「ガチャリ」と扉が開いた。
ひとりの少女が入ってくる。年の頃は十六、七だろうか。
栗色の髪を三つ編みにまとめ、白いカチューシャをつけている。黒いドレスには白いフリルのエプロンが重なり、どこか舞台衣装のように整っている。
(メイド……? コスプレ? ゲームの世界から抜け出してきた感じだよね?)
「お嬢様! お目覚めになられたのですね!」
少女は涙ぐみながらベッドへ駆け寄ってきた。戸惑う私の顔を、まじまじと見つめる。
「お加減はいかがですか? 階段から落ちてから、三日間も意識が戻らなかったんですよ!」
(お嬢様……? 三日間……?)
何のことか、まったくわからない。
私の混乱に気づいたのか、少女は少し眉をひそめ、心配そうに尋ねてきた。
「……お嬢様、覚えておいでですか?」
(お嬢様……? この子、私の知り合い? でも、こんな子知らないし……)
「ごめんなさい。わからないです。あの……あなたは誰ですか?」
私がそう答えると、少女は目を見開き、みるみる顔色を失っていった。
「私のことを覚えていらっしゃらないんですか? これは一大事です!」
少女は両手で口を押さえ、今にも泣き出しそうな顔で慌てて立ち上がる。
「すぐに、奥様をお呼びしてまいりますっ!」
そう言い残し、少女は足早に部屋を飛び出していった。
残された私は、重たくなった頭を抱え、静まり返った部屋の中で深く息を吐く。
——三日間も眠っていた? お嬢様? 記憶がまったくない……。
あまりにも情報が多すぎて、頭が追いつかない。けれど、たったひとつだけ、はっきりしていることがある。
私は、もはや「佐倉結衣」ではなく、この世界で「お嬢様」と呼ばれる存在になっている——ということ。
(ってことは……俗にいう、異世界転生しちゃったってこと!?)




