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オレムが家を空けるようになった頃、ユリアス——つまり私の父と、一番上の兄が領地から戻ってきた。
どうやら、王都での政務が一段落したらしい。
父は、40代後半でダンディーで威厳のある人だった。
私的に初めて父に会ったときは、やや厳しい表情を崩していなかった。
「騎士たる者、階段を踏み外すとは訓練不足だな。」
(……いや、それに関しては、まったく記憶にないのでわからないんだけどね)
なので、怒られることに対して少し落ち込んでいたら、最後には「まあ、生きて戻ってくれただけで十分だ」と小さく微笑んでくれた。
仕事柄、厳しさの中に愛情がある人なのだろう。
聞けば、国で「宰相」という役職に就いているという。日本でいうと……たぶん、官房長官クラス?めっちゃ偉い人じゃん!
一方、兄は父から領主を引き継いだ当主。
なので、父と同じ感じの人かと少し警戒していた。
(とはいえ、貴族社会の人たちだし、対応を間違えるとまずいよね……)
だが、その警戒は、兄と対面して一瞬で吹き飛んだ。
「ユリウス、大丈夫かい? 意識が戻らないと聞いた時は本当に心配したよ! 仕事が詰まってて、すぐには戻れなかったんだけど……こうして元気で会えてよかったよ!」
会うなり、兄——グリスは勢いよく私を抱きしめた。
(え、え!? 距離近っ!)
……この人、思っていたよりずっとフランクだ。
貴族ってもっと形式的に挨拶するもんだと思ってたから、完全に不意打ちだった。
身構えていたのがバカみたいに思えるほど、家族への愛情が溢れていた。
父が鋭いナイフなら、兄は温かい陽だまりみたいな人だ。ともかく、父と兄が帰ってきたことで、屋敷の空気が少し賑やかになったと私は感じた。




