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「今回、この治癒魔法を発動させた要因……医学の知識は、こことは違う“別の世界”で、学んだということでいいんだよな?」


オレムの問いに、私は小さく頷いた。


「実践経験は少なかったけど……専門の学校で、人体の仕組みや病気、看護や治療の基礎を勉強したの」


「医学」というより「医療」を勉強したんだけど、そのことを説明しずらいし、私自身も説明できるほどわかっていないんだよね。だから、彼に分かりやすく簡潔に伝えた。


「人体の仕組みか……貴重な知識だな。病気を治す方法はわかるが、“看護”って、どういう仕事なんだい?」


「看護とは、けが人や病気の人を介抱し、世話することです。」


そういや、この世界での医療の現状はどうなっているんだろ?医師って職種はあると思うんだけど、看護という職種はこの感じだとあまり浸透していない感じだな。


オレムは、しばし考え込むように目を細め、ゆっくりと重みのある声で言った。


「看護……か。治す過程での時間を、“支える”仕事ということか。その考えはなかったな。

 ケガや病気の現状を対処するや治すというのが、我々の考え方になる。その考え方も変える知識を君が持っている。」


やっぱりそうなんだ……前の世界でいう昔の時代:ナイチンゲールが生まれる前の考え方なんだろうね。

受け入れられるのには、時間がかかりそうだよね。


「つまり、それは救いでありながら、同時に滅びでもあるということだ」


「滅び?」


私は不吉な言葉を聞き、思わず聞き返した。

人を助けるための知識が、なぜ危険で、滅びになるというのだろうか?


「君の力と知識は、人を救うこともできる。それは素晴らしいし、是非とも、活かしていきたいと思う。

 だが——それを良く思わない人や悪用しようという人の手に渡ると、悪い方向に行き滅びの道をたどるだろうということさ。



「どちらにしても、魔法も医学の知識も危険という事だ。そのため、この件はしばらく俺が預かってもいいか?」


この段階で私には権限はないし、管理してもらわないと悪い方向に行きかねないよね。


「預かりでお願いします。」


医療行為をするためには、まずこの世界についての医療を知らないといけないよね。魔法について、もっと詳しく知りたいよ。……やっぱり、前にオレムが言っていた魔法を教えてもらえる学校にいってみたいなぁ。

オレムは、実践的でやってみよう!って感じだから、どのような仕組みなのかなど説明してほしいんだよね。


「分かった。今後どうするかは、信頼できる人と相談してくるよ。それまでは、魔力は使用しないこと。

使う時は、俺がいること。そして、決して口外しないことだ。」


「……わかった。」


私が小さく答えると、オレムはほんの一瞬だけ優しい微笑みを浮かべた。


「安心しろ。俺は君を害するつもりはない。ただ——この国の“常識”は、君の世界ほど寛容ではない。それだけは覚えておいてくれ。」


私は静かに頷いた。

この世界の“危うさ”を、少し理解できた気がした。

——知識は力。けれど、それは時に、人の心をも試すものなのかもしれない。



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